4章 42 語られる真実
サドニア帝国帝都前で五魔将ジンドを操っていたファストとの戦闘を終え、原初の八魔『嵐』のシーフと『氷』のダーフォンを捜索していたクオン達は早々に2人を見つけた
というのも、2人は巨大化したファストの巨大な拳で殴られて近くの森まで飛んで行き、気絶していたのだが、べリスと同じようにファストの能力に触れた事により目を覚ましていた
2人は目を覚ました後、ファストの元へと向かう途中で5人と遭遇し今に至る
《はあぁぁぁ??ファストを倒したって!?誰が!?》
「俺とシャンド」
《誰だよ!・・・・・・こんなのが?》
ラージからファスト討伐の報せを聞き、シーフは大声を上げて驚いた。そして、更に倒したクオンが名乗り出ると眉をひそめ、指をさしてラージに確認した
ラージは頷き、いなかった2人に事の顛末を語った
話を聞き終えたシーフはそれでも信用できないのか、クオンの周りをグルグルと回り、時折クンカクンカと匂いを嗅ぐ
その行為にカーラが反応し鬼の形相となり止めに行こうとした時、シーフの後頭部に蹴りが飛んできた
《いったーい!何すんのよ!!・・・って誰このチビ・・・》
《チビ言うな!シーフ!泣かすぞ!》
《・・・・・・マルネス?》
《こーんな美女が他にいるか?妾のクオンの匂いを嗅ぐでない!》
《あんたレーネとそっくりじゃない・・・》
冷静なシーフのツッコミを無視してマルネスはシーフを押し退けてクオン匂いを歩み寄り、まるでボールを取ってきた犬のように目をランランと輝かせる
「早かったな」
《う、うむ・・・気付けばファストの隠れ家の前に隙間があってのう・・・さすが一児の母、しっかりと妾のあとをつけていたのには恐れ入ったわい・・・それよりもほら・・・何かあるだろうて》
「ファストは?」
《ファ・・・くっ・・・終わった。そ、それよりも早う早う!》
「ん?ああ、ご苦労」
クオンがよく分からないといった感じで見上げるマルネスの頭を撫でた。マルネスは一瞬顔を惚けさせるが、気を取り直して撫でる手を払いのける
《違うであろう!晩餐会の前の嘘・・・もう妾は知っておるのだぞ!だから今度こそ本当にぃぃぃぃぃぃぃ・・・》
叫びながらマルネスは落ちていった。クオンは何が起こったのかすぐに把握し、カーラに視線を向けた
《失礼致しました。どうやら繋ぐ場所を間違えたようです》
「おい」
カーラはクオンに迫るマルネスの足元に扉を創り遥か彼方へと追いやった
《極度の興奮状態でしたので応急処置で比較的安全な場所に送ったので御安心を》
「比較的って・・・まあいい。それよりも無事だったか、チリ」
マルネスと同じくして魔の世から戻ったチリ。白衣のポケットに手を入れて肩にはクーネを乗せてマルネスの行動を呆れた様子を見ていた
「ああ、随分と刺激的な毎日だった。何年分の外出をまとめてしたのやら・・・こちらの方々は?」
チリが興味津々にラージ達原初の八魔を見て言うと全員を知るカーラが紹介し、中途半端になった今までの事を擦り合わせた
結局は魔の世と人の世を統べ、魔人王になろうとしていたファストの野望は潰え、大団円を迎えた・・・その結論に至る
《納得いかないね・・・魔素の含みが薄いとはいえあっしら原初の八魔の4人を退けたファストを人が退けた?しかもあっしらと戦った時よりも暴走した分強くなった状態のファストを?》
「途中までだ。最後は魔力切れで、トドメを刺したのはシャンドだよ」
《それでも・・・ねえ・・・》
認めてしまえば、原初の八魔4体とクオン1人が同等かそれ以上の実力を持つことになる。納得いかないシーフは疑いの目をクオンに向けて考え込んだ
《納得も何も現実だぞ?少々俺らは怠けすぎていたのかもな・・・》
ラージは自嘲気味に笑う。べリスも実際に目にしている為に納得し、ダーフォンは何も考えていなかった
「なんにしても助かった。ファストの事もそうだが、各地に送られた魔獣に関しては4人がいなければ被害はもっと大きくなってたはずだ・・・ありがとう」
《俺らが来なきゃ人が滅亡してた・・・とは言わねえんだな》
「来なかったら何とかしてたさ」
《・・・ケッ・・・》
平然と答えるクオンに苛立ちを隠さないラージ。こいつならやってのけるのだろうなと思う自分にも嫌気がさした
話も終わり、カーラに魔の世へと繋いでもらう事になった時、2人が戻るのを拒否した
1人は・・・
《我は両腕の再生もある・・・それに、アカネの修行が中途半端だからな・・・ここに残るとしよう》
原初の八魔『炎』べリス・カグラ
もう1人は・・・
《あっしも残るよ。色々と興味が湧いてきたし、消化不良だからね・・・責任は取ってもらうよ?》
原初の八魔『嵐』シーフ・フウレン
クオンはシーフに視線を向けられひどく嫌そうな顔をしたのが印象的だった──────
「ちょ、ダメです!今は公務中でたとえ・・・」
部屋の外から警護に当たっていた者の声がする
その後けたたましくドアは開け放たれ、場にそぐわない少女が姿を現した
「騒がしいね・・・何か用かな?・・・マルネス」
《何か用だと?・・・よう言うわい・・・聞かせてもらおうか、シン・ウォール》
シント国城内にある国王の執務室で戦後処理をしていたシンの前にカーラにクオンの家に落とされたマルネスが仁王立ちする
シンはため息をつくと目を通していた報告書を閉じ、マルネスを必死に止めようとする警護に人払いをし誰も入れるなと命令した
「で?何が聞きたいのかな?」
人払いが済むとシンは机に肘を乗せ頬杖をつく。その態度が気に食わなかったのか、マルネスは眉間に皺を寄せシンに迫った
《全てだ。妾を・・・クオンを・・・国民を・・・謀った事に関する弁明を聞いてやろう。妾を納得させなければ無に帰すと思え》
「全てを・・・か。父上からはどこまで?」
《・・・お主が協力者であるのと魔人であるとだけだ》
「なるほど・・・では、話しましょう。私の全てを──────」
シンから語られるのは魔族が人の世から居なくなってからの物語。大陸に3つしかなかった国は4つ目の新たな国『シント』を歓迎した
シンは建国者の1人として尽力し、シントの基礎となった村の村長夫婦の一人娘を娶り初代国王となる
王として様々な働きを見せ、徐々に国としての体制が整い始めた
シントの噂を聞き付け、各地で肩身の狭い思いをしていた魔人達が集まり、シントは魔人国家として名を馳せていく
《待て・・・シントが魔人国家?聞いた事ないぞ?それにお主以外の魔人など知らぬし・・・そもそも魔人は長寿だが、魔族と違い寿命があると聞く・・・お主は一体・・・》
「魔族の違い・・・かな?ほとんどの魔人は徐々に歳を取り死んでしまった。それでも人の寿命の倍以上生きてだけどね・・・」
《ファストの血か・・・長生きの理由は分かったが、周りはなぜお主を人と思うとる?そんな長生きする人などおるまい》
「その理由と魔人国家と言うのを聞いた事がないって言うのも同じ理由だね。私が原初の八魔『操』のファストの息子・・・もちろん魔技も使える・・・『操』・・・父上ほど操れないが、物を操り、人を操り、記憶さえも・・・」
《!・・・まさかお主・・・》
「人々が怪しむ前に記憶を『操』作する。まあ、怪しんでからでも遅くはないけどね。それはシント国内だけではなく大陸全土に・・・。たまにカーラ・キューブリックが送り込んでくる魔獣や魔族退治に遠出してね・・・その際にちょっと記憶をいじらせてもらっている」
《・・・》
「そう睨まないでくれ。記憶を操作と言っても、私の事と魔人の事くらいだよ」
《それでも人々を謀っているには違いあるまい・・・通りで魔人という存在があまり語られぬ訳だ。で、お主は何を企む?返答次第では・・・》
マルネスの爪が伸び、腕が鱗と化す。威圧するような視線にファストは肩を竦めて首を振った
「何も。あるとすれば平穏な日々かな。魔と人が共存出来る平穏な日々・・・マルネスも望むところだろ?」
《白々しい・・・ならばなぜファストに協力した?彼奴のやろうとしていた事は人を犠牲にしてクオンを鍛え、天族と対峙させるつもりだったのだぞ?》
「父上との協力関係は長年・・・それこそシントの歴史と共に続けていてね・・・と言っても情報の共有のみ。父上が何をしようとしていたかまでは知らないよ」
《知らないで済むか!お主が情報を流した事により・・・》
「事により何かあったかい?父上の計画はスムーズになったかも知れないが、それによる犠牲が増えたとでも?」
《ぬっ・・・》
「犠牲は最小限に・・・しかし、容赦はしない・・・そう父上は言っていた。内容は分からないからこちらも全力で応じたまで。協力を惜しむつもりはないけど、こちらにも譲れないものがあるからね」
《ならば!クオンに素直に話して鍛えれば済むことだろう!》
「本当にそう思うかい?クオンに来るべき天族との決戦の為に鍛えてくれと?」
《うっ・・・》
マルネスには分かる。クオンは決してそのような事で自らを鍛えようとしない。もし本当に決戦になるかも知れないとなったら、鍛えるより先に決戦にならないように動くはず
「始まってからでは遅い・・・かと言って事前に言っても動かないのなら、動かすしかないよね?」
《・・・なぜクオンなのだ・・・》
「・・・君は分かってるんじゃないか?クオンが特別だと・・・他の者とは違うということを」
《クオンが特別なのは当然!それは妾が一番知っておる!だがそれはあくまで妾の・・・》
「俺の大事な息子・・・だろ?マルネス」
《なっ!モリト・・・》
マルネスは突然部屋に入って来たモリトに振り返り、再びシンを見る。もしかして聞かれたかと心配するが、その心配は杞憂に終わる
「心配しなくても、モリトは全て知っているよ」
《えっ・・・全てって・・・》
「全ては全てさ・・・なあ、モリト」
「ああ・・・つってもこんなに大事になるとは思わなかったがな。まさかクオンを鍛える為に・・・」
《いや、そうじゃなくて・・・その・・・》
「うん?ああ、天族の件か?そりゃあ記憶にないとは言え親父を討った相手だ・・・少なからず思うところはある。それでも向こうが仕掛けてこなきゃ攻める必要もねえと思うが・・・」
《???・・・親父?・・・天族に?・・・》
「ああん?・・・おい、シン・・・お前どこまで話したんだ?」
「私が魔人であるのと父であるファストと協力していた事までかな?」
《ま、待て・・・天族に討たれたとはどういう・・・》
「そのまんまだよ。マルネスも知ってるだろ?」
《だって・・・それじゃあ・・・お主は・・・モリトはアモンの子孫ではなく・・・》
「実の息子だ」
《うーん》
「おい、マルネス!」
マルネスは思わずショックでその場に倒れる。シンがファストの息子の時点で気付くべきだった。原初の八魔のファストの子が長生きなら、同じ原初の八魔のアモンの子も長生きであると
《・・・リナもか?》
床に仰向けになりポツリとマルネスが呟くと、心配そうに見下ろすモリトは頷いた
「ああ、俺とリナは父アモンの双子として産まれた」
《ならばクオンは人で言うアモンの孫となるのか?》
「そうなるな」
《では、ケルベロス家は代々男女を産み、その男女で子を・・・というのは?》
「ありゃ嘘だ。後にも先にも俺らの子はクオンとサラだけだ。そうでも言っておかないと俺らが長生きしてるってバレちまうからな」
《なぜバレたら不味い?シンにも言えるが初めから魔人と名乗っておれば何ら問題は無いのではないか?》
「シンと話し合った結果だ。初めは魔人である事を隠していなかった・・・だけど年を追うごとに魔族の存在は人に忘れ去られ、魔人という存在に疑問を持つ者達が増えてきた・・・そりゃあそうだよな・・・見たことも無い魔族の子供ですって言われても訳わかんねえよ。だから、俺達は他の魔人が寿命を終えた後に決めたんだ・・・人として生きる事を」
《・・・なるほどのう・・・それにしてもクオンが魔人の子とはのう・・・!?待て!魔人の子ではなく、魔人と魔人の子か!!》
アモンの子であるモリトとリナ。その2人の子だとしたら自然とそうなる。マルネスはガバッと起き上がりモリトの襟元を掴んだ
「お、おい・・・マルネス・・・」
《もしかしたら・・・もしかしたらクオンもお主らのように長く生きられるかも知れぬのか!!?》
「そ、それは分からねえ・・・子供は親を受け継ぐ・・・魔族と人で魔人・・・魔人と人で人魔と言われちゃいるが、魔人と魔人の例はねえ・・・だがらもし組み合わせで言うなら・・・」
《魔人と魔人・・・魔を色濃く受け継げば・・・ほぼ魔族?》
「だから分からねえって・・・ちょ、苦し・・・おい、マルネス?・・・」
《そうか・・・クオンはもしかしたら・・・長く生きられるやもしれぬのか・・・》
マルネスに襟元を掴まれ、息苦しくなったモリトがマルネスの手を解こうとするが、その手を止めた
手を止めさせたのはマルネスの瞳から頬に伝う涙
「マルネス・・・君は・・・」
シンも驚き、声を掛けるとマルネスは振り向いた。嬉しそうな悲しそうな・・・複雑な表情にシンは更に驚く
《長く生きてくれる可能性が出来たのは嬉しい・・・妾とクオン・・・殺されない限り必ず妾が遺されるだろう。それが少しでも先に延びるのならとどんだけ思うた事か・・・しかし・・・同時にファストの指摘が的をえてると分かってしまった・・・クオンが長生き出来るかも知れぬと分かった瞬間、お主らの事がどうでもよくなってしまった・・・ファストと協力してようが、お主らが魔人だろうが・・・》
ファストが言った『クオンが悲しみ怒るから・・・』
否定した言葉が重くのしかかり、マルネスを責め立てる。やはりお前はクオン以外どうでもいいんじゃないか、と
「なるほど・・・人の世に来て数年でえらく人臭くなったね」
《・・・えっ?・・・》
「私の印象だと魔族はひどく利己的・・・父上がクオンを鍛える為に動いたのも結局は自分の為・・・もし本当にクオンのは為ならやり方をもっと考えるだろうしね。片やマルネスは他人であるクオンが良ければ他はどうでもいいと・・・それは人特有の献身に近いものがある」
《献身・・・》
「長く人を見ていると思うんだ・・・魔族にもその心があれば人と歩む事が出来るのでは、とね。他人の為に尽くせとは言わない・・・少しでも思いやる気持ちがあれば・・・」
シンは魔族を熟知している訳ではないが、父であるファストの話を聞き、魔族とはどういうものか知っている。ただそれが悪いとは思っていない。環境や魔族という性質がそうさせているのだろうと思っている。その中でアモンが異質だったのだろうと
《我らも変われる・・・それこそが魔と人の共存・・・》
「君も変われた・・・なら他の魔族もきっと・・・」
望む世界がある。その為に尽力してきた。マルネスの変化がその世界への光明に思え、シンは微笑んだ
「・・・なぁ・・・そろそろ離してくれ・・・ねえか・・・」
《おお!?すまぬ・・・義父上》
ずっと襟元を掴まれていたモリトが手をタップすると、マルネスは気付いてすぐに手を離す
「誰が・・・ゲホッ・・・義父上だ・・・」
「認めてもいいんじゃないか?私はお似合いだと思うがね。それに妹のサラとくっ付けようとしてたのも君らがこの世を去った後を懸念しての事だろ?天族から守れる者の不在を・・・。クオンとマルネス・・・2人が天族の件を片付ければ・・・天族から魔族を守る必要はない」
「うっ・・・確かにな・・・」
《義父上・・・》
「キラキラした目で見るな・・・その前にその姿はどうにかなんねえのか?もし天族の件が片付いたとしても、息子が幼女を娶ったなんて体裁悪くて仕方ねえ」
《ならばこれならどうだ?》
マルネスはすぐに大人バージョンに擬態化し、髪をかきあげる。人とは違う完璧な美を体現するマルネスにモリトは思わず喉を鳴らした
「ほう・・・これは・・・素晴らしいじゃないか、お義父さん」
「お前まで・・・分かった分かった!ただし天族との件が片付いてからだ!ウチまでシンのとこと同じ目にあったら目も当てられねえ」
《シンのとこ?》
「ん?ああ、そう言えば報せてなかったね。シズクが妊娠している。もちろん父親はゼンだ。出来れば結婚してからの方が良かったのだが・・・困ったもんだ」
《・・・妊娠?・・・》
「一応国としては婚姻関係になったからの子作りを推奨してるからな・・・国のトップが破るのはどうなんだ?そんで立て続けにシント国所属ではないにしても相談役扱いになってる俺が同じことしてりゃあ世話ねえわな」
《・・・おのれ・・・シズク・・・ゼン・・・》
「ん?どうしたんだい?マルネス」
《おのれ・・・妾がしようとしていた事を先に!》
「・・・は?マルネス、お前・・・」
《クオンが妾を謀った事を弱みに既成事実を作ってしまう計画が台無しでないか!あんな事やこんな事をして・・・ぐふふふ・・・やはり、耐えられん》
「お、おい、マルネス・・・戻って来い!」
頭がお花畑になっているマルネスの肩を揺さぶり、モリトがマルネスに声を掛ける。その後ろでシンは顎に手を当て考え込んでいた
「うーん、いっそう婚前交渉を推奨するかい?国王となるゼンがしているんだ・・・推奨した方が国民も納得しやすいだろ?時期国王が身をもって婚前交渉の素晴らしさを国民に知らしめた・・・とね」
「いやいや、シンも何言って・・・おい、マルネス・・・本気にするな!」
《素晴らしい・・・全力で支持しよう》
クオンを想っての清らかな涙は消え去り、邪悪な笑みが浮かんでいた。悪ノリするシンを止め、マルネスの暴走を止めるのにモリトはここから数時間を要すのだった──────




