4章 41 マルネスの決着
静かに目を開けるとそこには見知った顔があった
その瞳は真っ直ぐにこちらを見つめ、目が合うと優しく微笑んだ
《いつからそこに居たんです?・・・マルネス》
《いつからかのう・・・もう忘れてしまったわい》
そこは魔の世の果て
ファストが誰も来た事ない場所を見つけ出し、長年の従者であったデサシスにさえ教えていない秘密の場所
ファストが誰かを操る時、無防備になる事を懸念して探し出した場所であり、居城より遥か遠くに位置していた
椅子に深く腰掛けた状態でファストは目の前の者・・・マルネスに微笑み返す
《よくここが分かりましたね》
《らしくないのう・・・万全を期すお主ならなんびとたりとも連れて来ぬはず・・・なぜにチリをここに連れて来た?》
《・・・そうですか・・・彼女が・・・》
《ぬかせ・・・ほんにお主は・・・さすがの妾でも気付くぞ?》
マルネスがファストに鋭い視線を送ると、ファストはその視線を躱すように肩を竦める
《気付く?何を気付くと言うのです?》
《・・・罪を重ねて得るものはあったか?ファストよ》
《得るものですか?ことごとく貴女の想い人に潰されて・・・》
《問い方を変えよう・・・妾の想い人は強くなったか?ファスト・グルニカル!》
《・・・》
語調を強め、ファストににじり寄る。しかし、ファストは頬杖をつき身動きひとつしなかった
《妾もカーラに聞くまで気付けなかった。聞いた後で思い返せばお主の行動は矛盾だらけ・・・1つだけ一貫していたがな》
《ほう・・・興味深いですね。私が何をしようとしていたと言うのです?》
《クオンを鍛える為・・・であろう?》
マルネスの言葉にファストは一瞬目を見開くが、すぐに目を細め口元を歪めた
《私が?何の為に?核を半分失うと思考能力も低下するのですか?》
《『魂を受け継ぐもの』・・・以前カーラにそう申していたようだな?無論そのものとはクオンの事・・・そして、魂とは・・・アモンの魂の事》
《はて?そのような事を言いましたかな?覚えがないのですが・・・》
《とぼけおって・・・カーラの息子であるラフィスがディートグリスと言う国で暴れた後、珍しく1人でカーラの元を訪れ言うたらしいではないか。カーラとしてはまだ割り切れておらずその言い方は気に食わなかったらしいがな》
《・・・そんな事も・・・あったかも知れませんね・・・》
《お主は自他共に認める原初の八魔最弱・・・しかし、代わりに権謀術数に長けておる。そのお主が行った稚拙な策もクオンを鍛える為であったのなら全て辻褄が合う》
《辻褄合わせでそんな戯言を?貴女こそらしくないのでは?》
《そうか?では聞かせてくれ・・・お主はなぜクオンを殺さない?殺す機会などいくらでもあったはず・・・》
《貴女も知っているでしょう?クオン・ケルベロスは私を欺き、偽りの核を渡して来ていた。更にそれを本物と思わせるように他の者が使えぬよう『禁』じられた状態でね》
クオンとマルネスを招待した晩餐会。その場でファストはクオンの核を奪うのに成功するも、奪った核はクオン以外使えない状態であった。それ故に仕方なくクオンを生かしていたと主張するファストに対してマルネスは首を振る
《妾も初めはそうなのだろうと思っておった。しかし、それは違った・・・お主はクオンから渡された核が・・・偽りの物と知っておった》
《・・・なぜそう思うのです?》
《なぜ?核の第一人者のお主が知らぬはずがなかろう・・・自分の核は自らの肉体を傷付けぬ事を・・・クオンが胸を貫き、核を取り出した時点で疑うはずだ・・・抜き出したのはクオンの核ではないと!》
《・・・そうでしょうか?クオン・ケルベロスがその事を知らずに胸を貫いた・・・そう考えるのが普通では?》
《普通・・・ならな。だが、お主は原初の八魔でもっとも核に造詣が深い。手にした核が偽物か本物か・・・一目で分からなくとも少し調べれば分かるのではないか?》
《アレは精巧に出来ていた。見破るのは不可能ですよ》
《ほう・・・確かにチリは優秀な技術を持っておる。クーネを見てお主がチリを攫い、自分の疑似体を創らせるのも分かる・・・だが、その優秀な技術者が創ったクーネを生かしておく理由は?ゴブリンの巣でチリがクーネを使い話していたのも見たであろう?ならばここにチリがいることをクーネを通じて知られるであろうと分かるはずだ。答えよ・・・ファスト》
《・・・誰かの入れ知恵ですか?》
《お主という者がアモンの魂を受け継ぐものを決して害さぬと信じているからこその至りよ・・・》
《なるほど・・・そうですね・・・確かに少々無理があったかも知れません。気付いたのがマルネスというのは意外でしたが・・・これも人の言う運命というものでしょうか・・・》
ファストは椅子から立ち上がるとマルネスに歩み寄る。そして、あと数歩の所で立ち止まると今までに見せた事ない優しげな表情でマルネスを見た
《スッキリした顔をしおって・・・重ねた罪は決して許されるものではないのだぞ?》
《心得ていますよ・・・故に貴女はここに来た。もう全ては整いました・・・悔いはありません》
《・・・何故だ?なぜ・・・》
マルネスが唇を噛み締めて尋ねると、ファストはゆっくりと語り始めた
始まりはクオンが初めて魔の世を訪れた時
アモンの存在しない世界・・・人の世に訪れる前は時間というものを感じず、人の世を訪れている時は時間というものを感じていた。そして、再び魔の世に戻った時、時間はその動きを止めた
戻ってからは自身を虚無感が支配する
天族が出て来た要因は自分にある・・・つまり間接的にアモンは自分が殺した
憎むべきは天族?・・・憎むべきは自分・・・そんな自問自答を繰り返している時、クオンが現れた
魔技だけではない・・・雰囲気?いや、何となくアモンだった
死んだ者の為に幼い身体で魔の世まで単身乗り込む行動力、揺るがぬ信念がこもった瞳、強大な敵であろうと殴れる胆力・・・懐かしさに身を震わし取り繕うのに必死だった
マルネスの提案に乗り、晩餐会は開かれる
その間にもっともアモンと長く居たカーラを頼り、自分の目が確かか確認させた
カーラに確認させて確信得た後、晩餐会に参加し核を奪おうとした。それはクオンがアモンなのではなく、あくまで核がアモンのそれに近いと思っていたからだった
しかしその場で、信じられない光景を目の当たりにする
魔技も持たないような魔族に気絶させられていた少年が、原初の八魔であるマルネスを守ったのだ
身を呈したその行動に、魂が揺れた
核ではない・・・クオンこそがアモンなのだと
そして、時間が再び動き出す──────
《・・・晩餐会の後はようもやってくれたな》
《必要だったのです・・・『黒』を教える者がね》
《なるほどのう・・・それで妾を人の世に行くよう仕向けたか・・・》
《まさか恋仲になるとは想定外でしたが・・・》
《うへへへへ・・・って、喜ばせても何も出ぬぞ!》
《分かってますよ。・・・そこからは貴女も知るところでしょう。カーラが暗躍し、クオンは天族と関わり合う・・・その間に私はどうするべきか考え、そして、行動に移した──────》
デサシスに『扉』・・・あわよくば『門』を修得するよう命じ、それと並行して手足となる者を見繕い、核の研究に勤しんだ
時は流れ、デサシスが『扉』を修得した
そんな中、カーラが動き出した事を知り・・・
《待てぇーい!お主が人の世の出来事をどうやって知ると言うのだ?デサシスは『扉』なのだろう?》
《ああ、言ってませんでしたか。人の世に協力者がいます》
《更に待てぇーい!魔の世にいて人の世に協力者だと!?》
驚愕の事実を事も無げに言うファストにマルネスから二度目の待ったが掛かる
《そんなに驚く事では・・・》
《あるわい!『門』がなければ魔の世から人の世に干渉など・・・まさかカーラが?》
《いいえ》
《・・・となると、後はクオン達が守っていたあの扉か?あそこから夜な夜な抜け出して・・・》
《いいえ》
《だー!ではどうやって・・・誰の協力を得ていたと言うのだ!》
《シン・・・シン・ウォールですよ》
《は?・・・なっ・・・》
全く想像していなかった名前に言葉を失う
シンが?シント国の国王の?あのシンが?
頭の中で思い返すシンとの思い出・・・しかし、それほど深く関わった訳ではないために、その回想は一瞬で終わる・・・が、クオンに対する態度などを見ていて悪い人物ではないと思っていただけに信じ難い
《た、確かに同じ『操』の魔技・・・だが、共通点はそれくらいであろう?まあ、お主の子孫に当たるということはそれだけ与しやすいのかもしれんが・・・にしても会う機会などあるまい!》
《会う機会・・・ですか。会わずともパスを通して会話は出来ます》
《だから!会わねば主従も結べまい!》
《勘違いしていますよ?私がシンに会ったのは遥か昔・・・私が人の世に訪れている時ですから。それにシンは子孫ではなく有り体に言えば息子になりますね》
《・・・息子?・・・シンは魔人?》
《そうですね。私の子だから原初の魔人と言えるのかもしれない。他にも子は居るが、彼は私の理想に共感し協力を惜しまない》
《・・・シンが・・・。ファスト・・・お主の理想とはなんだ?魔の世と人の世を統べる事ではないのか?》
《そう・・・だが、それは私が、ではないのです。統べるのは・・・クオン》
《バカな!クオンはそんな事を望んではいない!》
《でしょうね。ですがこのままでは人の世は天族に牛耳られる・・・人がひとつとなり天族に対抗するには統べるものが必要です・・・それがアモンの魂を受け継ぐもの・・・クオン・ケルベロス以外おりません》
《意味が分からぬ!天族が人の世を牛耳る?そんな事は有り得ん・・・何を根拠に・・・》
《ディートグリス王国・・・彼の地で行われている事をご存知ですか?核が無いものを褒め称え、天族を長とする国・・・魔素を浄化する結界を張り、魔族を拒絶する国・・・それがまるで天の意思であるかのように・・・》
《天の意思と言うのなら、過去に人の世と魔の世が繋がったのも天の意思であろう!魔族を拒絶すると言うのなら、その意思に反するぞ!》
《気が変わったのでしょう・・・天族は天の代行者・・・彼らの意思は天の意思・・・》
《・・・たとえそうだとしても、それは受け入れねばなるまい・・・それが世界の理》
《私はその世界の理よりも・・・天の意思よりもアモンの遺志を優先する・・・それが私の意思》
《くっ・・・アモンは天との共存も望んでおったと聞く・・・それは無視するのか?》
《・・・今のままでは天の意思に逆らえない・・・然るべき力を得て、対等になってこそ共存を望めるというもの・・・力なき声は命乞いと変わりませんからね》
《・・・クオンを鍛え、天に対抗する力を得させ天と交渉するつもりか?》
《それが唯一魔族と人の共存の道です。それが成し得るなら私は喜んで魔王となりましょう》
《お主・・・》
《魔王ファストは人類の敵・・・そのファストを討伐せしクオン・ケルベロスとマルネス・クロフィード・・・もしクオンが魔族との共存を望むのなら、天族は2人を無視できない・・・》
《妾と・・・クオンに天族を討てと?》
《さあ・・・この先は貴女達にお任せします。私の役目は終わりました》
《つまり・・・お主は魔王となりクオンを鍛える為に・・・人の命を犠牲にした・・・クオンを晩餐会と称して呼び寄せたのも鍛える為と保護の為か・・・来たる魔獣の襲撃にクオンが犠牲にならない為に・・・》
《ええ。それに鍛えるなら魔の世が適しています・・・魔素の量も然り、時間も然り・・・安全に鍛えるには最高の環境と言えるでしょう?》
《なぜ人の世を襲撃にする必要があった?少なからず犠牲が出た・・・クオンを鍛える為だけなら必要のない犠牲だ!》
核を増やす為に人を攫い子を産ませた事、サドニア帝国の大虐殺、その他の国での兵士の犠牲・・・クオンを鍛えるだけであるのなら出す必要のない犠牲だった
しかし、ファストは首を振り、マルネスの瞳を真っ直ぐ見返す
《随分と人よりの考え方になったものです。私の目標はあくまで『魔族と人の共存』・・・その為なら見ず知らずの人の命など物の数に入りません。貴女なら・・・以前の貴女なら同じ考えになったのではないですか?魔素の安定の為に・・・そして、数の調整の為に魔獣や魔族を滅していた貴女なら・・・》
《・・・》
原初の八魔『白』のレーネは核を生み出す。その核に肉体を与えて魔族や魔獣を世に送り出していたのだが、原初の八魔『黒』のマルネスはその反対・・・レーネが世に送り出した魔族や魔獣を処分していた
マルネスはそれを役目と言い、粛々と行っていたが、アモンが魔族同士の争いを禁じた事により魔族は魔獣を討伐し始め、マルネスは役目を奪われた形となった
役目を奪われる前のマルネスは魔族や魔獣にとって恐怖の対象であり、マルネスもまた処分する際に慈悲など持ってはいなかった。ファストはその時のマルネスになら理解できたのではないかと問い掛ける
《目的の為の手段が処分だった貴女なら、私の行為が理解できるのでは?それとも人の命は魔族や魔獣より重いと?》
《・・・》
自分のやってきた事が重くのしかかり何も言い返せないマルネス。その様子を見てファストは微笑んだ
《それで良いのです・・・マルネス。貴女は自分のやってきたが故に何も言えない・・・しかし・・・クオン・ケルベロスが悲しみ怒るから私のやった行為が許せない・・・それで良いのです》
《違う・・・妾は・・・妾自身の・・・》
《本当にそうですか?人など我らに比べたら一瞬で死んでしまう脆き生き物・・・そんなものがいくら死のうと心が痛むことはないのでは?アモンの・・・クオンの為に活用して何が悪い?・・・私はクオンに嫌われ憎まれてもいい・・・だから、人にとっての悪になれた。だが、貴女は人が死ぬ事に対して平然としているとクオンに嫌われるから悲しむフリをしている・・・怒るフリをしている!》
《違う!妾は本心から・・・お主の行為を許せないでいる!お主と一緒にするな!》
《ならばなぜ!座して人の世のジンドを操る隙だらけの私を滅しなかった!?》
《それは・・・》
マルネスが答えに窮するとファストは更にマルネスに近付く。その距離は手を伸ばせば届く距離
《答えは『クオン・ケルベロスが負けるはずがない』と信じていた・・・そうでしょう?》
《そうだ!それが何の・・・》
《つまり貴女は人の世を掻き乱し、数多くの命を奪った私を目の前にしても怒りもせず悠長に佇んでいただけ!認めなさい!貴女は私と同じ・・・人の命などどうでもいいと思っていると!》
《・・・黙れ!》
マルネスはファストに手を伸ばし魔力を溜める。すると黒いモヤが手を包み込み辺りは熱気を帯び始める
《・・・人は生きる為に生きる・・・そう思ってました。しかし、クオン・ケルベロスはこう言いました・・・人は死ぬまで生きるのだと・・・生きる為に生きるのとどう違うのか・・・今なら分かる気がします。人は魔族と違い死を身近に感じている。その身近にある死とどう向き合うか・・・限りある生だけを見つめるのではなく、必ず来る死をどう迎えるのか・・・子を育み継がせる者、死してなお名を残そうとする者、限りある生だからこそ楽しもうとする者・・・様々ですが、共通する点は死を意識しているという事。死が身近にない我らには到底思い付かない・・・ですが、唯一思い付く方法があるとすれば・・・死を覚悟した時でしょう》
《お主・・・初めから・・・》
《終わりにしましょう。クオン・ケルベロスが私の手掛けた最高傑作である五魔将ジンドを破った今、私の物語は終焉を迎えました。私は・・・アモンと共に在るべきです》
ファストが更に進むとマルネスの手のひらが胸の辺りに触れた。ここに核がある・・・そうファストは告げていた
《なぜ・・・アモンの遺志である魔と人と天の共存から自身を除いた?お主なら・・・それも可能だったのではないか?》
《言ったでしょう?私はアモンと共に在るべきと。アモン亡き今、私は在るべきではない・・・それに天との共存など私には耐えられそうもありません。なので私は育み継がせる者として終焉を迎える事を選んだ・・・クオン・ケルベロスに万が一があった場合・・・私が天族を滅しようとも考えていましたが、それも杞憂でしたね・・・見事です》
《またスッキリとした顔をしおって・・・悔いはないという事か》
《・・・惜しむらくはクオン・ケルベロスに企みが気付かれてしまった事でしょうか・・・完璧にやり遂げたつもりでしたが・・・》
《クオンに?それはどういう・・・》
《貴女が単身でこちらに来られたという事はそういう事なのですよ。私が貴女を害さない・・・そう確信していなければ彼が貴女を私の元に行かせるとお思いで?》
《・・・確かに・・・妾にベタ惚れのクオンの事だ・・・妾が少しでも危険と感じたら向かわす訳がないのう・・・》
《・・・その自信はどこから・・・とは言え晩餐会で貴女だけでも逃がそうとした行為から、あながち勘違いでもありませんがね。しかし、今度からは貴女の番犬ではなく、人の世と魔の世の番犬となる・・・手綱はしっかりと握ってて下さい》
《言われんでも・・・決して離さぬ・・・妾が朽ち果てようとも・・・》
《それを聞いて安心しました・・・それでは・・・魔と人に幸あらんことを・・・》
ファストは目を閉じ受け入れる
悠久の時を過ごした日々。1人になってから続いた愍然たる日々・・・その日々からようやく解放される時が来た
目を閉じて思い出すのはアモンだけかと思いきや、意外にもクオンとマルネスも思い浮かび思わず苦笑する
願わくば健やかな日々を──────
願わくば魔人王となる日を──────
相反する想いを胸に秘め、ファストはその時を待つ
《・・・達者でのう──────》
マルネスが部屋を出るとそこにはチリとその肩に乗るクーネが居た。1人と1羽は同時に首を傾げ、出て来たマルネスを見つめる
「終わったのか?」
《・・・うむ。早う人の世に戻るとするか・・・ここに他の者はおらぬのだな?》
「確かな事は言えぬが居ないだろうな・・・給仕に来るのもいつも同じ者だった。その者が何者か知らぬが人ではないだろうな」
《給仕?ファスト以外の者がここに?》
「私をここに連れて来たのもそいつだったぞ?何も語らず置いてあったゴーレムを模して創れと言いおってな・・・瓜二つに創ったらえらく喜んでいた」
《?・・・お主はファストのゴーレムを創ってたのではないのか?》
「だからその置いてあったゴーレムがファストなのだろ?・・・違うのか?」
《いや、知らんわ!と言うかお主・・・監禁されていた訳ではないのか?なぜここにおる?》
マルネスはチリの案内でこの場所まで辿り着いたが、チリの救出よりも先にファストの元へと向かった。なので監禁されていたら出てこれるはずがないのだが、チリは平然と部屋から出ていた
「その給仕をしていた者が見張り役にもなっていた。しかし、先程動かなくなってな・・・精巧に出来たゴーレムだった訳だ・・・私も気付かない程のな」
《・・・案内してくれぬか?》
「?・・・ああ、構わないが・・・」
チリの案内の元、その場所に辿り着いたマルネスは目を見開く。そして、駆け出すとチリが閉じ込められていた部屋へ入った
《・・・カッカッカッ・・・チリよ、なぜに創っているのがファストと思うた?》
「・・・急に走るな・・・私が誰のゴーレムか尋ねた時、この動かなくなったゴーレムが言っていた。『尊敬する者のゴーレムですよ』と、な。それで首謀者が原初の八魔のファストと聞いていたからな・・・てっきりファストのゴーレムだと思ったのだが・・・」
《ファストのゴーレムは部屋の外で動かなくなったゴーレムだ・・・お主が創っていたのは・・・》
マルネスはチリの創ったゴーレムを見て目を細める。ゴーレムと分かっていても懐かしさが込み上げてくる・・・しかし、その数に思わず苦笑し言葉を止めた
「?一体誰なんだ?」
《アモン・・・チリよ、お主が創っておったのは原初の八魔『禁』のアモン・デムートだ》
ズラリと並ぶアモンのゴーレム。チリの創ったものとおそらくファストが創ったものが奥に一体あった
マルネスはしばらく眺めた後、無言で振り返り、部屋をあとにする
チリは怪訝な表情を浮かべた後、マルネスの後に続き、部屋には静寂が訪れた。動く事の無いアモンのゴーレムを残して──────




