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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
121/160

4章 40 クオンの決着

突然降り始めた季節外れの雪・・・その雪が何なのかクラウはすぐに気付いた


触れると溶け込むように身体に入っていき、今までの苦しみから解放される事に気付いた人々が未だ苦しむ人達を外に連れ出した


「・・・よくまあ訳の分からないモノを身体に入れる気になるもんだね」


「それだけ苦しかったのでしょう。藁にもすがるほどに・・・」


クラウの独り言に答えたのはテグ二。街の状況を見て回っている最中にこの事態に遭遇し、更に危険人物と思っているクラウの姿を見つけて近寄っていた


テグ二が周囲を見渡すと案の定クラウが何かしたと思われる兵士が倒れているのを見つけため息をつく


「あー、それ?生意気にもボクに楯突こうとしたからちょっとね。それよりもこの玉・・・何か知ってる?」


クラウは振り向きながら降り注ぐ玉を手に取った。他の者には触れたらすぐに溶けてしまう玉もクラウの手の上でしっかりと形を保ったまま転がっていた


「・・・初めは雪かと思いましたが・・・冷たくもなく、形も均一・・・何より人を癒している?私には見当もつきません」


テグ二が同じように手のひらに乗せようとするが、玉は乗った感触もなく身体に溶け込んでいく


「これはねー・・・魔力の器。原因不明の苦しみは器を抜かれて大気中に蔓延している魔素の影響さ。魔素は毒・・・本来なら人は受け入れる事が出来ない猛毒。それを器という受け皿に入れる事により魔素は体内を蝕まなくなる」


「このような小さい玉に・・・。しかし、これ程小さい玉でしたらすぐに魔力は満タンになってしまうのでは?」


「意外と入るものだよ?それに容量を超えたとしても少量なら器によって中和され人体に影響はないよ。まあ、もし一気に大量に摂取しようものなら・・・器は暴れ狂うだろうね・・・それが世に言う()()


「・・・お詳しいのですね。その知識はどこから?」


テグ二も皇帝補佐官として一般的な知識は身に付けているつもりだった。その自分の知らない知識を語るクラウに対して訝しげな視線を送るとクラウは化粧をした顔を近付けニヤリと笑った


「人には知らない方がいいことが沢山ある。例えば君は食卓に並べられた肉がどこからどのように調理されたか知りたいかい?それを知ってもなお美味しく食べられるかい?突然人に殺され、血を抜かれ、内蔵を取り出され、皮を剥がれ、捌かれ焼かれる・・・そんな事を知りたいと思うかい?知識を得るのは構わないが、その知識をどのように得たのかを知る必要など・・・ないんだよ。知れば戻れなくなる・・・食卓の肉が食べられなくなると同様にね」


「そ、それは・・・」


「それとも今度から君の食卓に肉を並べる時はこう伝えようか?『お待たせしました。こちらの肉は森の中でひっそりと暮らしていた親子鹿の子の方を本日捕まえ生きたまま捌いた新鮮な鹿肉でございます』と。『親鹿は子を置いて逃げてしまった為に明日には親鹿を添えてお出しします』と」


「・・・やめてくれ・・・」


「ああ、なんて事だ・・・次の日親鹿を捌くとなんと中から・・・」


「やめろ!」


「・・・だろ?知識は得るもので、身に付けるもの。どうやって得られたのかを知るものじゃない。君も彼らと同じように知らずにすがっていればいいよ。それが藁じゃなければいいけどねー」


「・・・」


クラウは小馬鹿にしたように降り注ぐ玉を我先にと手に入れようとする住民達を見て笑う


そして、身体を一回転させると軽くステップを踏みながら正門へと向かった


テグ二はその後ろ姿を見つめ、何かを振り払うように首を振ると街の混乱を収めようと動き出す。鹿肉は当分食べられそうにないと思いながら──────




クオンとファストの戦いは一進一退を繰り返す。()()()には


巨大化し2倍以上の背丈があるファストの攻撃をかいくぐり、クオンはファストの身体を斬り刻む。しかし、復元により瞬時に傷は治り元の木阿弥・・・魔力も充分であり魔力切れを狙うのも厳しい状態の中、2人の表情は対称的だった


《なぜに笑う?君に勝ち目はないはずだ!》


《察しろよ。笑うには理由がある》


《くっ・・・》


理由などない・・・そう言えないほどファストは精神的に追い詰められていた。仕掛けても仕掛けても跳ね返され、クオンには何も通じないのではないかと思えてしまう


精神は動きにも影響し、圧倒的な戦力差があるにも関わらずファストは徐々に追い詰められていた


《確かにお前は強い。5つの器に暴走するほどの魔力・・・だけど操るお前の戦闘経験の少なさと俺の器を壊さないようにする戦い方が足を引っ張ってる・・・お前は俺には勝てないよ》


《ほざくなっ!人如きがっ・・・》


ファストが叫ぶ中、クオンは飛び上がりファストの首を飛ばす。復元によりすぐに元に戻るが、あっさりと斬られた事にまた精神が軋む。クオンは着地して余裕の表情をファストに向けた


《復元なんて便利な能力に頼ってるから強くなれない。いっそう復元の器を捨ててみたらどうだ?少しは緊張感が生まれて強くなれるかも知れないぞ?》


《ぬかせ!》


目にも留まらぬスピードでクオンの背後に回り込み、巨大な拳を打ち付ける。しかし、そこにいたはずのクオンは既におらず、地面を打ち抜き土煙が舞う


《おいおい、当たったら器ごと潰れちゃうぞ?》


背後から声がしたと思ったら胴体が真っ二つに斬られ身体が傾く。すぐに復元し、態勢を整えるがその表情は晴れない


《・・・おのれ・・・いや、認めよう・・・こと戦闘において君の方が上であると・・・》


《そりゃどうも・・・って、おい!》


ファストは両手をクオンに向けた。片方は『掌握』、もう片方は『集束』。2つの魔技を同時に発動する


《慢心を捨てよう。君には全力をぶつける・・・暴走した力・・・存分に味わうがいい!》


『掌握』で身動きを封じ、『集束』で魔力を溜めて放つ。以前と同じ行動にクオンは呆れて同じように対処しようとするが、今度はファストが笑っていた


《芸がねえな!》


《・・・果たしてそうかな?》


クオンが放たれた魔力を消し去った瞬間、背後からファストのは声が聞こえた。背筋に冷たいものが走り、魔力を込めるが、ファストの爪は容赦なくクオンの背中に突き立てられた


《核を・・・何?》


直接核を奪い取ろうと貫いた腕はあろう事か腕の付け根まで入り込む。しかし、それは肉を掻き分けて入った訳ではなく、まるで穴に手を入れたような感覚にファストは眉をひそめた


《『掌握』『集束』・・・それに『隠形』。コンボとしてはなかなか・・・でも、狙いが丸分かりだ》


掌握での拘束が解け、両手で刀を握るクオン


ファストは腕を引き抜き一旦離れようとするが、抜いた腕を見て目を丸くする


《これは・・・》


《ワームリングに腕を入れたらそうなる》


指はあらぬ方向を向き、腕は潰されていた。何が起こったのか分からず動きを止めたファストに対し、クオンは刀を胸に突き刺した


《むっ!》


ファストはそのまま拳を繰り出すが、クオンは回転してそれを躱し、その勢いで伸び切った腕を斬り落とし、その場から離れた


「さて・・・何個いけた?」


《何を・・・くっ・・・》


左目を閉じたクオンが呟き、その意味を探ろうとするファストの身体に異変が起きる。2倍あった身長は元に戻り、身体全体から魔力が放出された


なぜ巨大化が解けたのか・・・ファストは傷口を手で触り答えを得る


《貴様ァ!!》


刺されただけのはずの傷口がぽっかりと穴を開け広がっていた。まるで身体を侵食するように黒ずみながら・・・


すぐにファストは復元するが、魔力の放出は止められず、よろめきながら膝を着いた


「『復元』は残ったか・・・その量だと3個はいけたかな?」


クオンの言葉にハッとなり、胸の上から手を当てて確認する。そして、あるべきものがない事に気付いた


《・・・まさか・・・『黒』か!!いや、それでも・・・》


「『復元』は凄いな。どんなに斬り刻んでも、どんなに消滅させても元に戻してしまう・・・物限定の能力なのにお前がその身体を物と認識していれば発動しちまうんだからお前にとっては最高の能力だよな・・・でも、あくまでも()()()にするだけ・・・無いものを生み出す事は出来ない」


《バカな・・・5つの核はあった!『復元』で元に戻れば・・・》


「確かに5つの核はあったかもしれない。だけどその身体は元は1つの核のはずだろ?もし・・・身体の中の核が跡形もなく消え去った後で『復元』したら、()ってのはどこになる?欠片でも残っていれば、そこにあったと認識するかもしれない・・・けど、ごっそりそのものが無くなっていれば・・・あったと認識出来るか?」


《なぜだ・・・なぜ貴様にそんな事が分かる!!》


「・・・失ったものは二度と元には戻らない・・・お前も知ってるはずだ」


クオンは言いながら刀を鞘に戻した。そして、ファストに背を向けその場を立ち去ろうとするが、その後ろ姿にファストが吠えた


《これで勝ったつもりか!!貴様など残った核で充分だ!!》


クオンの隙だらけの背中にファストが飛びかかる。しかし、寸でのところでファストは横から蹴り飛ばされた


()()ですか?クオン様》


「ああ、選手交代だ。俺はもう疲れた」


クオンは振り返らず手を振ると、あとを任せてカーラの元まで歩いていく


吹き飛ばされたファストは、邪魔をしてきたモノを睨み付けた


《シャンド・・・ラフポース!!》


《休んでいたお陰で魔力は充分です。さあ、遊びましょうか》





《クオン様!》


カーラのそばに辿り着くやいなやクオンは膝を落とした。すぐにカーラは駆け寄ると顔を突合せ、目を閉じる


「・・・何の真似だ?」


《はて?マルネス様から魔力譲渡はチスが1番良いと聞いておりましたので・・・違いましたか?》


「アホか。別にすぐに回復する必要はない・・・てか、本当に黒丸がそんな事を言ってたか?」


《はい》


「なるほど・・・まあ、確かにアレは魔力の譲渡だったな」


《ええ。()()は魔力の譲渡でした》


「・・・おい」


マルネスと唇を重ねた時の事を思い出しクオンが呟くと、カーラも同意して頷いた。覗き見未亡人はなんでも知っている


《それよりもあの者に任せて大丈夫でしょうか?ここであっさりやられるようならクオン様の苦労が水の泡に・・・》


「暴走した2つの核・・・普通なら危険極まりないが、シャンドなら大丈夫だろ・・・それよりも、あんた誰だ?」


クオンがカーラに肩を借りながら立ち上がると目の前でクオンを見つめている人物がいた


《あんっ・・・原初の八魔舐めんなよ!》


《ラージ・ドモン様・・・原初の八魔が一体、『地』のラージ様でございます》


「ああ・・・なるほど。で、何してるんだ?」


クオンが納得したように頷いてから首を傾げる。するとみるみるラージは顔を真っ赤にさせ地団駄を踏んだ


《グギギ・・・お前ら人の為に戦ってたんだろうが!それを・・・》


「ありがとう!お陰で助かった!」


《え!?いや、まあ、いいってことよ・・・》


突然満面の笑みで感謝され、怒りの矛先を失ったラージは何で怒っていたのか忘れ照れ笑いしながら頭を搔く


「ただ出来れば原初の八魔の問題は原初の八魔で解決してくれるとありがたいんだけどな。人にはちと荷が重い」


《あ、ああ・・・でも、あのファストを圧倒してたじゃねえか・・・しかも暴走した状態でも・・・》


「いや、俺一人じゃ無理だったよ。周りに助けられてやっとだ。見ての通り魔力切れしてるしな」


《そこまで計算していたとしたら大したものだ・・・クオン・ケルベロス》


《べリス!》


ラージの背後から話に割って入ってきたのは原初の八魔、『炎』のべリス。両腕を失っているもののバランスを崩すことなく真っ直ぐと歩み寄りラージと肩を並べてクオンを見た


「あんたがべリスか・・・火は灯ったか?」


《ここにいるのが何よりの答えにはならぬか?》


「確かに・・・で、その腕は生えてくるのか?」


《くるわけがなかろう・・・そこで戦っておる貴様の従者のシャンド・ラフポースが『再生』の核を持っておるだろう?それを後で拝借させてもらおう》


「そうなのか?」


《私に聞かれましても・・・全く興味がありませんので》


クオンが初耳だとカーラに尋ねるが、アモンとクオン以外には興味無いカーラは知らないと首を振る


《貴様従者の魔技を把握しておらぬのか!?》


「ああ。知っている事より知らない事のほうが多いくらいだ」


《・・・呆れたものだ。よくそれで大事な局面を任せたな・・・》


べリスが視線を動かすとファストと戦っているシャンドが見える。お互い決定打に欠き、戦闘は長引く様相を呈していたがシャンドが笑っているのを見て大きく息を吐きクオンに向き直る


「知るのに覚悟がいりそうだろ?」


《確かにな・・・ところで今に至る詳細を聞かせてくれ。不覚にも気を失っておってだな。何かの魔技の影響かで起これたら今の有り様よ》


《そうそう!俺は見てたけどよく分からなかったぞ!おまえ・・・何したんだ?》


気絶していたらファストの『掌握』の影響で起こされたべリスが現状を聞くとそれにラージが便乗した


「何したんだって・・・どこから?」


《最初からだ》


「最初ってどこだよ・・・まあいいや、決着がつくまで待つだけだからな。とりあえずここで俺が戦った時からで・・・いいよな?」


クオンは頭を搔きながら人の世に戻ってからの事を語り出した


ラージ達が戦っている間にシャンドからもらった『浮遊』を覚え、その後巨大化していたファストと対峙する


1体1だと巨大過ぎるのは不利と考えたのかファストは元の大きさに戻り、しばらくそのままの大きさで戦い続けた


クオンの狙いはファストの魔力切れ。ファストは連戦で魔力の消耗も激しいはず・・・なのですぐにでも魔力切れを起こし、驚異的な回復能力『復元』も使えなくなると考えていた


しかし、ファストは『掌握』を使い周囲にいるありとあらゆる生物から核を奪い取り、集め、自分の魔力とした


その結果、ファストは大量の魔力を得て暴走し、魔力切れを狙うのは難しくなってしまった


《掌握・・・か。動きを封じられた時は何事かと思うたが・・・で、掌握でなぜ核を奪える?》


「俺に聞くか?・・・恐らくだが、『掌握』って能力はファストの能力・・・『操』の下位互換。動きを封じるのではなく、相手を意のままに操ること・・・つまりファストは広範囲を『掌握』し、器を・・・核を吐き出させた」


《吐き・・・出させた?》


「ああ。自分の核は自分の身体を傷付けたりしない。外に出したとしても胸に押し当てればスっと溶け込むように入っていく。体内にある場合も同じ・・・出したきゃイメージすればいい・・・で、もっともイメージしやすいのが口から吐き出す・・・だ」


《・・・そうなのか?》


《俺に聞くな、べリス。自分の核なんて見たいと思わねえよ。おまえはどうやってそれを知ったんだ?》


「俺の核は一度傷付いて魔力が漏れてしまってな・・・黒・・・マルネスが自分の核と俺の核をくっ付けて治したんだ。その時にマルネスにどうやって自分の核を抜いたのか聞いた」


《マルネスが・・・》


《アイツなら自分の核を抜いて地面に転がして遊んでてもおかしくないな・・・》


べリスとラージは頭の中で核を吐き出して寝そべり笑いながら指で転がしている姿を想像する


《しかし、クオン様・・・確かファスト様の前で自らの核を抜かれた時は胸を貫いておいでではなかったでしょうか?》


「見てたんか・・・アレは俺の核じゃなくてチリに作ってもらった擬似核だからな。自分の核以外はどうしても強引に取り出すしかない。話を戻そう・・・核を集めたファストは全ての核を壊し、その中にある魔力を吸収し・・・暴走した」


《あの力は凄まじかったな・・・》


《見てたのか?》


《ああ、ちょうど苦労して立ち上がった時に見た。さすがに魔力を多分に含んだ炎でもあの状態は焼き尽くせん》


《俺も同意だ。よくあの状態のあやつの核を壊せたもんだ・・・おまえ本当に人か?》


「人だ人・・・確かに魔族の方が魔力の量といい力といい遥かに人より上だが、それにかまけてるから足元すくわれるぞ?」


《むっ・・・》


《それよりもあれだ!確かおまえは背中を突かれたはず・・・なのになんでファストの腕があんなにボロボロに?》


「そりゃあ、これのお陰だ」


ラージはファストが初めて『隠形』を使いクオンの背後をとった際、背後から背中を貫き、核を奪い取ろうとした時の事を思い出して言うと、クオンは背中に手を回しリングを取り出した


《なんだそりゃ?》


「ワームリング。リングに魔力を流して中をくぐらせるともう1つのリングに送る事が出来る。カーラの能力に似たようなものだが、弱点があってな・・・繋がってるとはいえ真っ直ぐじゃなく、歪なんだと・・・生き物が通ろうとすると死んでしまうほどにな」


《・・・怖っ!》


《そのワームリングとやらの機能は分かった。しかし、なぜファストが背中を狙うと分かった?核ならば殺してしまってからでも奪える・・・ともすればその場所とは限らなかったのではないか?例えば頭を吹き飛ばしたりなどいくらでもあるだろう?》


ワームリングを攻撃されてからセットしても間に合わない。そうなるとあらかじめ攻撃してくる場所を知っていなければならず、べリスは疑問を覚えた


「分かった・・・って言うより誘導した。会話の中で核の場所を移動させている可能性を匂わせてな。そうする事によってファストは俺を壊しに来るのではなく、核を奪いに来る。で、最初に狙うとしたら通常の収まり場所である胸だろ?」


《正面から来ていたらどうするつもりだ?》


「前から来たらたとえ『隠形』を使ったとしても躱すさ。それにファストが正面から来ると思うか?」


《・・・なるほど。ファストの性格からして姿を消したとしても正面から来る事は有り得ぬな。あのファストを相手取りそこまで・・・魔力が切れたのは最後の攻撃が原因か?》


「ああ、あそこまで練るのに時間と魔力をだいぶ消耗した。出来れば根こそぎ核を破壊したかったがな・・・」


《練る?》


「そう・・・練る。人が少ない魔力で魔族と渡り合う為に生み出した技。魔力を溜め、さらに馴染ませる。そうする事により同じ魔力量でも威力は数段上がる」


クオンは先程の戦いの中、刀に『黒』魔法を練っていた。そして、魔法を突き刺した瞬間に解放しその周辺を消滅させた


《よくわからんな。確かに魔力を溜めて攻撃をすれば威力が上がる。だが、溜めて更に練ると言われても・・・》


「おいおい・・・普通の魔族ならともかく原初の八魔なら・・・いや、俺らが苦労して使ってる技も原初の八魔クラスになると特別に使用した感覚はないのか?」


《なんの事だ?我らがその練るという技を使っていると?》


「ああ。ほら、マルネスなんかは花だったり・・・溜めて更に威力を上げる為にする行為自体を()()と言っている」


《!・・・そういう事か。なるほど・・・》


べリスでいえば『炎』を溜めて、更に練り熱線を出す。ラージは龍を模して地龍を出す。要はそれを練ると言うのだと合点がいったのか、べリスとラージはクオンの言葉に頷いた


《アカネもそう言えば教える前から蛇を模しておったな・・・魔力を使えるようになってから幾ばくもしない内にそこまで達していたか・・・恐れ入る》


「人は弱い・・・が、魔族にはない強みもある」


《成長・・・もしくは進化か・・・》


「それと継承・・・人は死ぬまで生きる・・・が、死ぬまでに出来る事をする。人それぞれであるが、その中には子や弟子に自分の技を伝え、またその子や弟子が伝えゆく者達がいる・・・そうする事により技は継承され、更なる高みへと近付く」


《それが魔族にはない強みか・・・ファストはそれを恐れ望んだか・・・だから人を統べると・・・》


べリスは呟きファストを見た。姿形は違えど中身は紛れもなくファスト・グルニカル・・・同じ場所で時を同じくして生まれた八魔の一体


《人の世を訪れて変わっちまったのか、それとも・・・》


ラージもべリスと同じくファストを見た


ちょうどシャンドがファストの胸を貫き、核を2つ抜き去っていた。それを目の前で砕かれ、断末魔を上げるファスト


こうして五魔将ジンドの身体を操るファストとの戦いは終わりを告げた




《無事終わりました》


「お前の無事は片腕は含まれないのか?」


《ファスト様の操っていた肉体は非常に硬く、普通には貫けなかったので、少々『魔酸』を使いまして・・・量は間違えてないと思うのですが、溶け始めて来たので切り落としました》


ファストを倒し、クオンの元に戻って来たシャンドの片腕は肘から下がすっかりなくなっていた。暴走したファストの肉体は溢れ出る魔力によって覆われていた為に攻撃はことごとく弾かれてしまった。仕方なくシャンドは『魔酸』を使い胸を貫くが、それによりシャンドの腕は溶け始め、そのままだと身体全体に侵食して来る為に腕ごと切り落としていた


「簡単に言うなよ・・・『再生』は?」


《クオン様のご友人にお貸ししています》


クオンは友人という言葉にピクリと反応して眉をひそめる。『再生』を貸すという事は通常の治療では追いつかないほどのダメージを受けたという事になる


「友人?誰だ?」


《確か・・・ゼンと言う方です》


ゼン・・・そう聞いて思わず納得してしまった。あいつなら無茶をして他人の為により多く傷つくだろうと。そして、『再生』を貸したという事は現在は無事である証明・・・クオンは安堵し目を細めた


「ゼンか・・・あいつも腕を?」


《いえ、下半身を》


「・・・生えるのか?」


《はい。あくまで再生なので粗末なモノが豪華になる事はありませんが、生えます》


「・・・粗末だったか?」


《・・・はい》


《何の話をしてんだ!何の!・・・てか、まだ終わりじゃねえだろ!今倒したのはファストの操り人形だ・・・本体をどうにかしねえと第二第三の・・・》


見つめ合いくだらない事を話している2人に抑えきれずにラージが割って入る。クオンはシャンドから視線を外し、ラージを見た後、後ろに居るカーラに振り返る


「それなら任せてる・・・って、見つけられそうだったか?カーラ」


《はい。鳥の導きによりファスト様の元へと行かれたご様子・・・魔の世へ向かいますか?》


「鳥?・・・クーネか。って事はチリだな・・・いや、いい。とりあえず俺の勝ちだな」


《勝ち・・・ですか?》


「ああ・・・黒丸と俺のどっちが先に倒すかの勝負」


《そんな勝負を?》


「いや、勝手に挑んでた。俺が戦ってる時にファストが操るのを止めたら黒丸の勝ちた・・・その前に倒したら俺の勝ちだ」


《なるほど・・・お見事です》


《おいおい!そんな呑気な事を言ってる場合か?黒丸ってマルネスの事だろ?任せてるって、あいつは確か今核が半分しかないはずだ・・・ファストを見つけたところで操られておしまいだぞ!?》


今度はクオンとカーラの会話に割って入ったラージ。原初の八魔は操れないファストも核が半分であるマルネスは操れる。それを心配して声を上げるが、クオンは心配ないと首を振る


「大丈夫・・・何とかなるさ」


《何とかっておまえ・・・》


ラージの心配をよそにクオンは笑顔で答えると、魔の世のファストはマルネスに任せ、未だ姿を見せない原初の八魔の残りの2人を探し始める。ラージはまだ何か言おうとするが、べリスが間に入り首を振る。クオンに任せておけ・・・そう暗に示し、べリスもシーフとダーフォンを探し始めた。1人残されたラージはモヤモヤを吹き飛ばすように頭を搔くと、深くため息をつき、走って先行する4人を追いかける


こうして決着はマルネスに委ねられた──────



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