~重なる~
クオンとマルネスの交流が始まり数ヶ月が経ち、次第に元気を取り戻して来たマルネス。お互いに自分の世界の話をする日々が続いた
≪ほれクオン、これを食ってみろ。美味いぞ≫
「いい加減魔物が不味いって事に気付け・・・うん、不味い」
クオンは一口食べると顔を歪め結界の外側にいるマルネスに投げ返す
≪し、仕方ないのう・・・残りは妾が・・・噛み口はココか・・・ゴクリ≫
どこから食べようか悩みながらも口を大きく開けて一口で丸飲みするマルネス。食べる場所関係ないじゃないかとクオンは呆れる
≪しか・・・し、・・・モグ・・・ふし・・・モグ・・・≫
「飲み込んでから話せ」
≪んぐ・・・しかし、不思議だのう。魔物や魔族は通さんのに、調理した魔物は通すか≫
改めて自分とクオンの間にある神扉を見つめて呟く
最初にマルネスが調理した魔魚、ボーイフィッシュをクオンに投げ入れた時、そして、クオンが投げ返した時も神扉は反応しなかった
「生命活動に関する何かが反応してるのか・・・前にサイレントモンキーがここを通ろうとした時は一瞬で丸焦げだったが、お前がその死骸を投げ入れた時は反応しなかったしな・・・調理は関係ないだろう」
≪アレはあんまり美味くなかった≫
「だからと言ってこちらに投げ入れるな」
お互い思い出して苦笑する。ここ何日かはお互いの話も尽き、雑談に終始していた。それでもマルネスは毎日のように神扉まで足を運び、クオンがいる時間は共に過ごす
その毎日がずっと続くと思っていた────
≪誰だ、そやつは?≫
ある日珍しくクオンが居らず待っていると誰かを伴ってクオンが現れる。クオンより幼き少女はクオンと同じ格好をしてマルネスを見つめ頭を下げた
「兄から聞いております。私はケルベロス・サラ・・・今後兄の代わりにお務めを致します」
≪・・・は?≫
「マルネス・・・俺はお務め以外でやる事が出来た。ここはサラと親父達に任せて・・・」
≪いつまでだ!≫
「分からん。当分ここには来れない・・・約束も出来ない」
≪ふざけるな!≫
突然形相を変え叫ぶマルネス。神扉を隔てているのに、衝撃がクオン達まで届いた
「仕方ないだろう・・・それに魔族は俺らより長命だ。いずれ別れの時は来る」
≪ふざけるな・・・ふざけるな・・・ふざけるな!!≫
「マルネス!戻れ!それ以上近付くな!」
両目を開きマルネスを止めるクオン。一瞬足を止めるが、それでもマルネスは神扉に1歩ずつ近付いていく
≪いずれ別れの時が来るだと?・・・認めぬ・・・妾は認めぬぞ!≫
「マルネス!」
マルネスはクオンを睨みつけながら涙を流し、1歩また1歩と神扉に近付く。クオンがいくら拒もうがその歩みは止める事が出来なかった
≪もし離れると言うならば・・・ここで朽ち果てるのみ・・・死してそなたの傍に・・・参ろうぞ!≫
マルネスは躊躇なく神扉に触れ身体を震わせる。歯を食いしばり全身に激しいダメージを受けても歩みは止めない。激痛に気を失いそうになっても想いの力だけで足を動かす
「バカヤロウが!」
「兄さん!」
クオンがマルネスに駆け寄り、そして、抱きしめる
神扉の結界の力が2人を激しく拒絶した
≪クオン!!≫
「こ・・・っちがふざけるな・・・だ!俺の前で・・・死なせやしない・・・全力で・・・拒んでやる!」
マルネスが驚きの声を上げ、クオンは苦痛に顔を歪める
全力で『拒むもの』を発動するが一瞬痛みが和らいだだけで神扉はまた激しく2人を拒絶した
≪は、離せ!そなただけなら拒絶せん!≫
「ざけんな!クソ結界!てめえがマルネスを拒絶するなら・・・俺がてめえを拒絶してやる!」
クオンは腰の背中側に差した小刀を抜く
神刀『絶刀』・・・あらゆるものを切り裂くシントに代々伝わる刀
絶刀を逆手に持ち、神扉に対して振り上げると人が1人通れるくらいの裂け目が出来る。そして、その瞬間にクオンはマルネスと共に後ろに飛んだ
「兄さん!!」
2人は抱き合ったまま地面に転がり、サラの足元近くまで来る。2人の様子を見ると全身に酷い火傷のような痕
「兄さん!・・・あっ」
サラが駆け寄ろうとした時、神扉の裂け目を目指して次々と魔物が押し寄せて来ているのが見えた。神扉に裂け目が出来た事によりクオンとサラの匂いが魔の世に色濃く漂ってしまったのだ
押し寄せる魔物の数に口に手を当て怯えるサラ。何とか止めようと裂け目に近付いた時に後ろから肩を掴まれる
「兄・・・さん?」
「良く見とけ・・・サラ・・・これが番犬の仕事だ・・・」
クオンは身体を引きずるように歩き裂け目を目指す
サラが止めようとするもそれを笑顔で返して迫り来る魔物の大軍と対峙した
「さあ来い・・・全力で・・・拒んでやる────」




