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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 33 アモン・デムート④

ジェラとイム達が住む村の近くまで来ていたデハク達の為にアモンは簡易的に住める場所を作った。と言っても土魔法で土を盛り上げ、そこに人が寝る事の出来るスペースを作る単純なものだった


エンデの跡目を継ぎ、ジェラと結婚したイムが村長をやっており、アモンはイムに断りを入れて空き地を利用・・・デハク達は気まずそうにお互いを見つめ合いどうするか悩んでいたが、意外にもデハク達の中で1番魔族を恨んでいるように見えたサーナがアモンの作った土家の中に入っていった


デハク達はそれを見て、サーナが入るならと各家に入りひと息ついた


怒りで忘れていた疲れがどっと出たのか、殆どの者が家に入るなり寝息を立てる


《優しいな・・・自分が入らないと他の者が入らないと思ったんだろ?》


「・・・」


周囲が静まり返った頃にサーナは家からそっと抜け出す。それに気付いたアモンが話し掛けるが、サーナはそれを無視してしばらく歩き、全部の土家が見渡せる位置に辿り着くと座り膝を抱える


《見張りなら俺がしとく・・・身体を休めろよ》


「・・・用がないなら消えな」


《用があるから消えないでおく》


「・・・犯すなら犯せ・・・どうせ抵抗しても無駄なのは分かってる・・・」


《俺をなんだと思ってんだ・・・用があるってのは聞いておきたい事があるんだが・・・武器を持って村に行き、どうするつもりだったんだ?殺されるのは目に見えてるだろ?》


「・・・」


《もしかしてあれか?わざと玉砕して魔族の悪い噂を広めてこの世界に居られないようにしようとしたとか?デハクがどうせ死ぬなら・・・とか言ってたしな》


「・・・」


《・・・そうか・・・邪魔したな。ゆっくり身体を休めておけ。ここは俺が守ってやる》


頑なに口を閉ざすサーナにアモンはそう告げると立ち去っていく。残されたサーナはその後ろ姿を睨みつけながら自らの膝に爪を立てた


「・・・ふざけんな・・・ふざけんな・・・」


闇に包まれた夜、空には月や星が輝いている


そんな中でサーナは夜空を見上げること無く、じっとアモンが去った方向を見つめていた──────





明けて次の日、土家の中で寝ていた者達は外からする匂いにつられて起きてきた。そして、匂いの方向を見るとそこには2mほどの大男が寸胴に火をかけ、何やら中の物をかき混ぜている


「な、何を・・・」


《おう!ちょっくら村から持って来させた。もうすぐ出来るから待ってろ!》


「・・・」


しばらくかき混ぜた後、アモンは寸胴の中をすくって味見した。リメガンタルに住んでる時に無理やり色々な食べ物を食べさせられたお陰で味は何となく分かるようになっていた


《・・・よし!多分いける!》


アモンは頷き、用意していた器に寸胴の中身を分けていく。村を襲われ、怒りに震えて飛び出して来た者達も、その匂いでようやく自分がお腹を空かせている事に気付く


アモンの言葉に若干の不安を残しつつ、渡された器を受け取ると、デハクは空っぽの胃に流し込んだ


「・・・美味しいです・・・」


村長であったデハクが飲み干すと他の者達もアモンから受け取り口にし始める。中には物足りなさそうにする者もおり、アモンは無言で器を取り上げるとまた寸胴からすくって渡した


その光景を遠くから無表情で見つめるサーナに、デハクが近寄り器を渡そうとすると首を振られて断られる。デハクはサーナの隣に腰を落ち着かせると、器をサーナの横に置いた


「・・・あの者は魔族・・・それは分かっておる。村を襲われ、みんなで武器を作り、魔族発祥の地と言われていた村に向かった気持ち・・・今でも忘れてはおらん・・・誰も忘れてはおらん。昨日の夜・・・あの土で出来た小屋の中に入った時・・・久しぶりに1人になった気がした・・・そして、考えた・・・もし村が魔族を受け入れてたら・・・」


「違う!村のみんなで話し合った結果だ!奴らが来なければ他の村との合流も上手くいってた!そうすれば、人手が足りなくなる事なんてなかった!奴らが来なければ・・・」


「・・・そうだな。みんなそう考えている・・・奴らが来なければ・・・と。だがな・・・他の村の者に話を聞いたり、彼を見ていると・・・もしかしたら別の道もあったのかもしれないと・・・」


「そんなものはない!そんなことは断じてありえない!」


「・・・そうだったな。我らはいわれなき暴力にさらされた。それは紛れもない事実であり、魔族がこの世界にいなければ起こり得なかった事・・・魔族さえいなければ・・・この先ずっと幸せだったかも知れぬ。ただ・・・ふと考えてしまったんだよ・・・私達はなぜ魔族を拒んでしまったのかと」


「なにを・・・」


「彼らが最初・・・村に来た時、私達は彼らを拒んだ。彼らを知りもしないで、変化を恐れてね。他の村が受け入れても・・・彼らの力で発展しても・・・私達は彼らを拒み続けた・・・」


「だから・・・襲われても仕方ないって言うの!?」


「そうじゃない・・・知りもしないで拒むのではなく・・・知る勇気があれば少しは違ったかも知れない・・・そう思っただけだよ」


「そんなこと・・・」


「サーナ・・・魔族は悪かい?」


「・・・」


魔族は悪である


昨日までのサーナなら即答していただろう。しかし、今は即答出来ない自分に驚く。視線の先にアモンの姿が映る。彼が・・・彼らが存在しなければ、村は襲われなかったのは確かだ。しかし・・・自分は魔族の事を知らない事に今更ながら気付かされる


デハクは立ち上がり、器を置いたまま立ち去っていく


残された器に目をやり、もう一度視線をアモンに戻すと、いつの間にか真剣な顔をして話をしていた。なぜかその姿を見てはいけないと顔を伏せる


結局、器の中身が減る事はなかった・・・




サーナの頭の中でデハクの言葉と最愛の者の姿がぐるぐると駆け巡る。なぜ自分がここに居て、なぜ座っているのかさえ分からなくなる。混乱は極み、錯乱状態に陥りそうになった時、離れた場所がざわつき顔を上げた


身体が震える──────空っぽの胃が全てを吐き出せと命令する──────アイツらがそこに居ると──────



「なんだよ、ここ?しけたジジイばかり・・・おっ!頑丈そうなのいるじゃん!」


男3人がカーラに連れられて扉をくぐって来ると、リーダー格の男が周囲を見渡し、アモンに目を付けた


《カーラ、コイツらが?》


《はい》


《・・・何て言って連れて来た?》


《『思う存分暴れられる場所がある』と》


《そうか・・・なるほどな》


カーラはアモンの横に扉を開くと奥からファストが現れた


《魔人と言っても人と何ら変わらないな》


《ああ・・・しかし、予想より見つけるのが早かったな》


《なーに、簡単な事さ・・・》


「おい!なにさっきからごちゃごちゃ言ってやがる!」


「ん?おい、ディルド!あれ・・・」


「あん?・・・ほう、コイツは・・・」


リーダー格の男、ディルドがアモン達に向かって叫んでいると、隣の男がサーナに気付き指を指して教えた。えづきながらも睨み付けるサーナを見てディルドの口角が上がる


「なるほどね・・・あの女がいるって事はここにいる奴らは全員()()()の奴らか・・・」


その言葉を聞いた瞬間、デハク達は土家の中に置いていた武器を取りに行き、戻って来ると3人を取り囲む


「おいおい、勘弁してくれよ・・・今どき復讐なんて流行らないぜ?それに・・・お前らに俺らをどうこう出来ると本気で思ってんのか?手が震えてるぜ?」


現にデハク達の武器を持つ手は震えていた。怒りでではなく恐怖で。村に突如現れ、破壊の限りを尽くし、無慈悲に村の者を殺し犯した者達がここにいる・・・その時の恐怖が身体を震わせ、動けなくしていた


「村が無くなったからってこんな所に住んでんのか?お前らにはお似合いだよ!」


ディルドが腕を振るとアモンの作った土家が炎によって弾け飛ぶ。他の2人も面白がって魔法を放ち次々と土家を壊していく


その姿が村の悲劇を思い出させ、一人また一人と地面にへたり込ませた


「ハッ!情けねえ・・・てか、姉ちゃん・・・俺らを騙した罪、その身体で支払ってもらうぜ。それに・・・」


ディルドはサーナに視線を移すと舌を出し、その身体を舐めるように見つめた


「あの女・・・えらい抱き心地が良かったからまた行こうと思ってたんだ。ここにいるとはラッキーだぜ。またヒーヒー言わせてやるよ」


ディルドの言葉が終わる前にサーナは走り出していた。途中、へたり込んでいた者の武器を手に取ると叫びながらディルドに向けて突いた


しかし、武器は呆気なくディルドに取られると、腕を捻られ身体は自然と後ろを向いた


「やっぱ堪んねえ・・・」


サーナの首を舐め、空いてる手で胸を鷲掴みにして耳元で呟く


デハク達が何とか恐怖に打ち勝ちサーナを助けようとするが、ディルド達のひと睨みでまた身体は動かなくなってしまった


《左からディルド、アグヴ、ジャン・・・3人とも魔族と人の間の子で、ここらで1番大きい街、サラスンに住んでいる》


「あん?なんだてめぇ・・・」


《その親である魔族は?》


《過去に魔獣討伐で私が他の所へ行けと命じてるな。つまり人である母親に育てられて魔人って訳だ》


《ちょっと待て!魔獣?この世界に?》


《ああ。君がリメガンタルに行っていた10年間・・・私達が目を離した隙にこちらの世界に何体か来ている。魔素が少ないのと、討伐したお陰で被害はほとんど出ていないのだが・・・魔物が誕生してしまった》


《魔物ってまさか・・・》


《魔獣とこちらの世界の獣・・・異種交配ってやつかな》


《マジか・・・なんで教えなかった!?てか、俺が番をしている時は1匹も来なかったぞ?》


《君に近付く魔獣や魔物がいたら生存能力が著しく低いと言わざるを得ないね。君はあちらの世界で魔獣を見かけた事があるかい?あと、教えなかったと言うが、私は君の部下ではない・・・聞かれない事を教える義務はないし、どうせ君に教えたところでこう答えるだろ?『これも交流だ』と》


《うぐっ・・・確かに・・・》


「おい!お前らさっきからうっせえぞ!」


自分の事を調べあげられている事に腹を立てたディルドがサーナを突き放しアモン達の元へと歩み寄る。それと同じくして残る2人もアモン達を睨みつけながら後について行く


《・・・生存能力が著しく低い奴がいるぞ?》


《そうだね。彼らを調べるとどうやら住んでる街では大人しくしていたみたいだ。魔人の身体能力、そして、魔法を駆使して色々と役立っていたみたいだよ。恐らく彼女らの村を襲ったのはその能力に溺れたってところかな・・・街ではいい子ぶって、溜まったストレスを発散させる為に自分より強い魔族がいない村を探し出し襲った・・・》


《ストレス?》


《街で過ごす為にはいい子でなくてはならない。ただでさえ人と比べると能力が高いのだから、怖がられたら追放されかねない。それに魔族がいない村を襲った理由は魔族の強さを知っているからだと思う。大方、街にいる魔族に挑んだりして実力差を知っているんじゃないかな?自分の能力を使いたいのといい子でいなければならないという思いがストレスとなり、その捌け口に選ばれたのが彼女らの村・・・ってところだろうね》


「・・・」


アモンとファストに無視され続けたディルドが2人に向かって火魔法を放つ。しかし、カーラがアモンとファストに当たる前に扉を開き、魔法は扉に吸い込まれるように消えていく


「チッ!・・・アグヴ!ジャン!やるぞ!」


「おお!」


3人は広がり構えを取るが、アモンは意に返さず未だ動かないデハク達を見た


《デハク達の反応を見る限りコイツで間違いないだろうな。さてどうするか・・・》


《彼らにやらせるんじゃないのか?彼らもそれを望んでいるのだろう?》


《いや・・・》


「違う!私達はそんな事が・・・出来るなんて思っちゃいない!私達は魔族に殺された・・・その事実を世界に知らしめたかっただけ・・・それが私達の出来る・・・唯一の抵抗だから・・・」


《そりゃあそうだね。この3人を殺せるなら村が襲われた時に殺してるはず・・・アモン、どうするんだ?》


《・・・》


サーナの訴えはアモンが10年の歳月をかけてバースヘイム王国から勝ち得たものと真逆であった。自分らの死をきっかけに魔族が危険であると知らしめる・・・それが世界に広がれば魔族は世界から疎まれるかも知れない


「さあ、殺せよ!ここで殺しておけばなかったことに出来るかもしれないぞ!?魔族が村を襲った事実も・・・私達が存在した事実すら!!だが、覚えておけ!お前らはこの世界のガンだ!いずれ世界はお前らのそん・・・ざい・・・を」


勢いよくまくし立てていたサーナの言葉が途切れる。子供の・・・夫の命を奪った魔族・・・許すことが出来ないその種族の者の顔を見てサーナは口を閉ざす


デハク達もアモンの表情を見て胸がつまる・・・それほど悲しい表情だった


《すまねえ・・・》


「え?」


《魔力の使用を『禁』ず》


アモンは表情を変え、魔人である3人に対して能力を発動する。一瞬何かされたと思い自分の身体を確認する3人であったが、どこも変化のないことに安堵しアモンを睨みつけた


「ハッ!なんだそりゃ?魔力を禁じる?何が・・・」


《デハク!サーナ!コイツらはもう魔力が使えない。俺が殺ってもいい・・・だが、復讐を遂げたいのなら武器を持て!怒りをぶつけろ!》


「なっ!?・・・えっ!?」


アモンが何を言ってるか理解が追いつかずデハクが固まっていると、素早くうごく影が目の前を通り過ぎる。その影は取り上げられ地面に捨てられていた武器を拾い、そのままディルドに突進して行く


「サーナ!!」


デハク達が一斉に影の名を叫ぶ。それは制止する叫びなのか、行動を後押しする叫びなのか、叫んだ本人達にも分からなかった



「バカが!」


アモンの意味不明な言動に惑わされていたが、武器を持ち襲いくるサーナを見て冷静さを取り戻す。また武器を奪って・・・ディルドは先程と同じように手製で粗末な武器の柄を取ろうと手を出した。農具のフォークを少し削って先を尖らせただけの簡易的な武器。仮に取るのを失敗したとしても肌を貫通するはずもないとタカをくくっていた


ズブリ


思ったように身体が動かず、ディルドが柄を掴むより早くフォークの先がディルドを捉える。それでも決して通す事はないだろうと思っていたフォークの先は簡単に肌を突き破り、肉を押し潰す


「あ・・・え?いっ・・・てぇぇぇぇ!!」


ディルドの絶叫がこだまする


その声に反応し、サーナは一旦武器を引くと再び突き刺した


致命傷にはならない・・・しかし、血は吹き出し、激しい痛みが全身を駆け巡る。ディルドは転がりその場から逃げようとするが、サーナは更にフォークを突き立てた


「てめえ!止めろ!・・・・・・あ、れ・・・なんで?」


アグヴがサーナを止めるべく魔法を放とうとするが、魔法は出ず・・・いつもと感触が違い自らの手を眺めた。そして、思い出したようにアモンに振り返りあの言葉を思い出す


魔力の使用を『禁』ず


ディルドは手製の武器で傷付き、自分は魔法を使おうとしても使えない。そうして初めて気付いた。魔力を禁じられ、鋼のような肉体も圧倒的な破壊力の魔法も使えないのだと


「そ・・・そんな・・・ヒィ!」


気付くとデハク達が武器を持ち、静かにアグヴ達に近寄って来ていた。ジャンもようやく事の深刻さに気付き、慌てて武器が落ちていないか探した


しかし、そんな都合よく武器が落ちている訳もなく、瞬く間に2人はデハク達に取り囲まれる。そして、デハク達がもっとも聞きたくなかった言葉がアグヴ達の口から発せられた


命乞い


ディルド達が村を襲っている時、何度も・・・何度も何度もデハク達が口にした言葉。理不尽な暴力を受けながら、既に何人か殺されてしまった後も・・・何度も何度も口にした言葉。デハク達が生きているのはそれが受け入れられた訳では無い。ただ単に()()()彼らは帰って行ったのだ


当時の光景が湯水のように溢れ出る。意思とは関係なく


震えは止まり、ただみっともなく命乞いをする2人に視線は注がれた


もう・・・止まれない


デハクの村・・・少人数の為、みんな家族みたいなものだった。子供も少ないながらにいて、遊ぶ姿をみんな目を細めて見守っていた。村はいずれ衰退し、他の村との合併かなくなってしまうだろう。それでも笑顔を絶やさず日々を過ごすことがこの上なく幸せだった


手にヌルッとした感触があり、気付くと目の前には肉塊と化した2つの死体が転がっていた。全員息を荒くし、死んだと分かっても武器を手放さずにいた


デハクは目の前の死体が2つである事に今更ながらに気付き、顔を上げる。そして、涙を流しながらディルドにフォークを突き刺すサーナを見た。フォークの先は既に全て折れ、それでも一心不乱に繰り返し突き刺すサーナ。ディルドは途切れ途切れに言葉を発する。言葉ばかりの謝罪に吐き気を催す命乞い。その命乞いを聞き入れた訳では無いが、デハクはサーナを止めなくてはという衝動にかられる。手を伸ばし、サーナを止めようとした時、大きな影がディルドとサーナの間に入り込む


「どけ!どけよ!!」


《アモン様!》


サーナは邪魔するアモンの身体にフォークを突き立てる。硬い肌に阻まれ柄を離しそうになるが必死に堪えて何度も・・・


アモンは特に何も言う訳でもなくて振り返ると寝転がり身体を丸めるディルドの身体を踏み潰した


絶叫・・・そして、身体をピクピクと震わせやがて事切れる


「な・・・なにしてんだよ・・・ふざけんな・・・」


《お前の仇は俺だろ?》


「・・・ふざけ・・・んな・・・」


サーナはその言葉を最後に気絶し、アモンに抱えられる。こうしてサーナ達の復讐は一旦の終わりを告げた──────






デハク達は復讐を遂げ村に戻っていた


ディルド達に襲われ、半壊した村はもう戻っては来ないだろうと放置していた為、人の住める状態ではなかったが、何とか使えるものは使ってどうにか住めるようにまで復旧させた


もう残っているのはデハク達老人とサーナのみ。以前の活気が戻る訳もなく、ただ死を迎えるのを待つのみだった・・・ある一点を除いては


《おう!ベン爺さん!腰はどうだ?》


「治りゃ苦労せんわい!今日も頼んだぞい」


《働かざる者食うべからずって言葉知ってか?働けよ・・・》


「うっ、腰が・・・頼んだぞい!アモン」


アモンは家の中に入って行くベンに疑いの目を向ける。その様子を見ていた他の者達がクスクス笑い、その者達をじろりと睨むとそそくさと自分達の仕事に戻った


デハク達の復讐が終わった後、アモンは無理やりデハク達に付いてきた。サーナが起きていたら絶対に反対したはずだが、サーナは気絶した後全く起きず、村に戻る時もカーラの扉で一瞬だった為に断る暇すらなかった


復讐を遂げ生きる気力を失っていたデハク達だったが、精力的に動くアモンに乗せられて何となく()()()()()()()()()


《おっ!よう、サーナ!》


家から出て来たサーナに気付き、アモンが声をかけるが無視される。もうあの日から3週間経つが、サーナとは一言も言葉を交わしていない。それでも他の者達が食事を運ぶと少しだが食べているようで、何とか生き長らえていた


「・・・アモンさん、少しいいかな?」


相変わらずのサーナを見てため息をついているアモンにデハクが声をかける。アモンは頷き、場所を移した


《どうした?・・・出て行け・・・とか?》


「まさか・・・その逆ですよ。目的を遂げ、生きる気力を失っている今、生きているのが不思議なくらいです。もし生きている理由があるとしたら、それはサーナさんと・・・アモンさんのお陰です」


《心残り・・・ってやつか?》


「ええ・・・サーナはまだ若い・・・私達と違ってね。私達が死んだ後、サーナは・・・そう考えると死んでも死にきれませんよ」


《カッカッ・・・いいじゃねえか。そのまま長生きしろよ》


「・・・先日、ロットが逝きました・・・ベンの容態も思わしくない・・・人はいつしか死ぬ・・・そのいつかを受け入れる覚悟は出来ています・・・でもサーナは・・・」


《俺はこの村を離れるつもりはねえよ。誰か1人でも残っている限りな》


「・・・」


デハクは無言でアモンに頭を下げた。そして、その数日後、畑仕事をしていたアモンはデハクに呼ばれる。向かった先はベンの家


《おう!くたばったか?》


「馬鹿言え・・・ほんのちょっぴり・・・生きとるわい」


《カッカッ・・・なんだ?最後に俺の頬でもぶっ叩きたくなったか?》


「ああ・・・頬ではなく・・・尻をな」


《尻?》


「アモン・・・お前さん、いつサーナを嫁にもらうんだ?」


《アホ言え・・・食いちぎられるわ!》


「はっ・・・刃物すら通さない奴がよく言うわい・・・お前さん・・・サーナは嫌いか?」


《・・・()()()


「グハッ・・・・・・今死んだら死因はアモンの寒いギャグになったのう・・・」


《・・・まだ畑仕事が残ってんだ。そんだけ冗談言えるならまだまだ平気だろ?俺は行くぞ》


「まあ、待て・・・アモン・・・サーナは良くも悪くも生きてるのはお前さんの存在があるからだ・・・殺しても殺し足りない相手をお前さんがトドメを刺し・・・気持ちが切れてないのは・・・アモンという存在があるから・・・」


《・・・》


「サーナはワシらにとって最後の子・・・村がなくなっても・・・サーナには生きて欲しい・・・それが出来るのは・・・お前さんだけだ・・・」


《・・・》


「ほれ・・・サーナはムチムチだろ?・・・ワシも歳じゃなければ嫁に貰うのだが・・・魔族の力で何とかならんか?そしたらワシが・・・」


《ベン爺さん、アンタは長生きするよ》


「こら、待て!・・・っつつ!・・・どうなんだ?嫁にするのか!?」


《さーな》


「グハッ!・・・今度は本域で名前に寄せおって・・・これで死んだらお前さんのせいだからな!」


振り返り出て行くアモンは振り返らず手を振って畑仕事に戻った


次の日の朝、ベンは冷たくなり、ベッドの横に『死因はギャグ』と言う書き置きが村を混乱させたのは言うまでもない






ベンの埋葬がしめやかに行われた夜、アモンはサーナの家を訪ねた


一人部屋で薄らと涙を浮かべていたサーナは、アモンの姿を見て涙をサッと拭いて睨み付ける


「なに?」


《・・・ベンの遺言を伝えに来た》


「は?なんでアンタが・・・」


《昨日の夜に呼ばれてな・・・》


「あの紙ってアンタのこと?」


《笑い死んだのならそうかもな》


「チッ・・・で、ベンはなんて?」


《サーナを嫁に貰え》


「・・・頭膿んでるの?冗談としても笑えない」


《残ったみんなの心残りはサーナの今後だとよ》


「・・・私?・・・ハッ、みんな死んだら私は潔く死ぬ!ただそれだけ 」


《そうか》


「・・・さっさと去れよ・・・家からも・・・村からも・・・この世界からも!」


《そうだな》


「~~~!なんなんだ!アンタらは!この世界に来て何がしたい!?人を掻き乱してそんなに楽しいか!!アンタらが来なければケナンも・・・ケイブも・・・」


《そうかもな》


「・・・」


《・・・また来る》


アモンが踵を返し帰ろうとすると、サーナは拳を握りアモンの背中を睨みつけた


「まて!・・・ひとつだけ聞きたいことがある・・・」


《なんだ?》


「アンタが・・・アイツらにおかしな技を使う前・・・なんで謝った?」


《・・・さぁな》


「おい・・・あっ、まて!・・・くそっ!」


アモンはサーナの質問をはぐらかし、そのまま家を出て行った。サーナは出て行ったドアに向けて近くにあったコップを投げつけるとドアに跳ね返り床に転がる木製のコップを眺めて呟いた


「・・・くそっ・・・」




それからアモンは村の者達が亡くなる度にサーナの元を訪れた。時には終始無言で、時には喧嘩口調で罵られる。それでもアモンはサーナの元へ行く。村人が亡くなる度に


ある日の早朝、サーナの家にデハクが訪れる。手には具沢山のスープを持ち、震える手でゆっくりとテーブルの上に置いた


「デハク爺・・・これからは私が・・・」


「なーに、日課のようなものだ・・・それよりもサーナさん・・・とうとう3人になってしまったね」


「・・・2人だ」


サーナはスープを飲みながらデハクの言葉を訂正すると、デハクは苦笑して外を見た


「明日も・・・食べてくれるかな?」


「デハク爺!」


「食べてくれるかな?」


「・・・ああ」


「それは良かった・・・じゃあ私はこれで」


デハクはサーナの答えに満足し笑顔を向けると、その足でサーナの家を出た


「・・・今夜、話し相手になってもらえませんか?アモンさん」


サーナの家を出ると様子を伺っていたアモンに声をかけ、アモンが頷くとそのまま自分の家へと戻って行く。もうこの村にはデハクとサーナとアモンしか残っていない。アモンはゆっくりと家へと向かうデハクの姿をずっと見つめていた──────




夜が更け、今朝のデハクの様子が違ってたのを気にしたサーナがデハクの家に向かうと家の中から話し声がする。壁に張り付き、聞き耳を立てるとデハクとアモンの話し声が聞こえて来た


《またそれかよ》


「みんな考える事は一緒なんですよ・・・自分の身より残された身を案ずるのは」


《だからと言って・・・ったく》


「ふふっ・・・あっ、それともアモンさんには意中の人が?」


《・・・いねえよ・・・だからと言って・・・なあ・・・》


「・・・アモンさんは・・・いや、魔族は歳を取らないんですよね?永劫の時を生きるとか・・・」


《ん?ああ、そうだが・・・》


「アモンさん・・・少しこちらに」


デハクはアモンを手招きしてベッドの傍へと招いた。何をするのかとサーナが覗き込むとデハクは突然アモンの胸倉を掴んだ


「だったら!たった一人の人生くらい面倒見ろよ!哀れむくらいなら愛してやれよ!サーナを・・・一人にさせないでくれ!もう・・・あの子の悲しむ顔は・・・見たくない!」


《・・・デハク・・・》


「・・・すみません・・・貴方の優しさに甘えた・・・()()の最後の願いです・・・貴方は充分過ぎるほど・・・色々して下さった・・・それなのに・・・図々しいのは百も承知・・・それでも・・・」


《・・・デハク・・・もう寝ろ。身体に障る》


「アモンさん!」


《デハク・・・交流ってのは互いがあっての事だ。片方から擦り寄っても意味がねえ・・・だろ?サーナ》


「え?」


アモンの視線を追ってデハクが振り向く。壁に外が望める木枠があり、そこから顔を覗かせるサーナと目が合った


「すまない・・・盗み聞きするつもりじゃ・・・」


「・・・いや、差し出がましい事を・・・アモンさん!?」


デハクがサーナに頭を下げようとした時、部屋を出て行くアモンに気付く。呼び止めたがアモンは一瞬立ち止まるも、そのまま部屋を出て行ってしまった


「デハク爺・・・」


「サーナさん・・・いや、サーナ。村の最後の子・・・願わくば健やかな日々を・・・」


「無理だよ・・・デハク爺・・・」


サーナは夜空を見上げ呟いた。満天の夜空に輝く星。その星ですら今のサーナには眩しすぎた──────





明け方、サーナがデハクの家の扉を開けた。居間にいたアモンが顔を向けると、サーナはアモンに近付きボソッと呟く、『手伝って欲しい』と


寝室に行き、穏やかな表情で眠るデハクを抱き抱え、皆の元へと連れて行く。だらりと垂れ下がった腕をサーナは持ち上げると胸の前で組ませた


少し歩くと人一人分の穴が空いており、そこにデハクを下ろした。ついさっきまで・・・その想いがサーナを躊躇させる・・・しばらくデハクの顔を見つめた後、ゆっくりと土の布団をかけていく。寒くないように・・・そっとかけていく


全てかけ終わった後、サーナは一度大きく息を吐くと、無言でその場を立ち去った。アモンがその後ろをついて行くと、サーナの向かった先に疑問を抱く


「どうした?・・・あるのだろう?」


《・・・ああ》


サーナが向かった先は自分の家ではなく、デハクの家。家の前で立ち止まり、アモンに振り返り言うと、アモンは頷いた


家に入り、サーナはテーブルにつき、アモンを待つ。数分後、アモンは湯気が立つ器を持って現れサーナの前に置いた


「・・・アンタの分は?」


《俺はいらん》


「だからだ」


《?》


サーナは器の中身を一口飲み、中の具をスプーンですくって口にほうばる。怪訝な表情を浮かべるアモンに、サーナは口の中のものを飲み込むと答えた


「味が濃いしいつも変わらない・・・自分で食べないから()()()味が変わらないんだ。少しは変えてみたらどうだ?」


《・・・不味いのか?》


「不味くはない。が、こう毎日のように続くとさすがに飽きる・・・それにここまで味に変化がないと誰が作ってるのかバレバレだ・・・」


《俺が作ってると知っていたら・・・食べなかったか?》


「・・・さあな」


《ギャグか?》


「・・・死ね」


その後、無言で全て食べ続け、全て食べ終わると椅子の背もたれに身体を預けた。目に映るのは家の天井・・・昨日見た星は今は見えない


「・・・私の子は星を見るのが好きだった・・・夜になると顔を出す無数の星々・・・寝る前の数分間の楽しみ・・・時には数を数え、時には繋げて何の形になるか楽しんでいた」


《・・・》


「ケナンは言ってた・・・もしかしたら、あの星には誰かが住んでるのかもしれない・・・もしかしたら、魔族って別の星から来たのかもしれない・・・と。何の変哲もないこの村で、そんな想像を膨らませるのが楽しくて仕方なかったんだ・・・そんな子の未来を・・・アンタらは奪った・・・」


《・・・》


「ケイブが私達を家に隠し、様子を見てくると・・・私はケナンを抱き締め、震えながらケイブを待った・・・家のドアが荒々しく開けられ、瀕死のケイブが・・・あいつに首を掴まれて・・・恐怖で身体が硬直した瞬間・・・するりと腕から抜け出して・・・『父ちゃんを離せ』って・・・あいつの視線は私に向き、勇敢に立ち向かったケナンを振り払った・・・ただ振り払ったんだ・・・ケナンは壁に打ち付けられ・・・・・・ピクリとも動かなかった・・・ケナンの元へ行こうとしたら・・・腕を掴まれ・・・そのまま犯された・・・もう少しで・・・もう少しでケナンに手が届くのに・・・私は・・・・・・その後、見せつけて満足したのか叫ぶケイブを殺して・・・私の耳元で・・・あいつは・・・『またな』って・・・・・・私は汚された身体を引きずり、ケナンの・・・・・・元に・・・・・・」


《・・・》


「なあ・・・私を殺してくれないか?昨日デハク爺とした約束は果たした。もういいだろ?」


《約束?》


「昨日・・・デハク爺は朝食を持って来て言ったんだ。『明日も食べてくれるか?』ってね。私は食べると約束した・・・だから、今食べたんだ・・・だから、もういいだろ?」


《サーナ・・・昨日の夜、デハクと何を話した?》


「・・・他愛もない話しさ」


《そんな他愛もない話で・・・デハクはあんな穏やかな顔で逝ったのか?》


「・・・」


《聞いていたと思うが、デハクはベン爺さんと同じ事を俺に頼んで来た。そして、それが心残りと言っていた・・・俺は返事はしていない・・・それなのにあんな穏やかな顔で逝けるものなのか?》


「・・・」


《約束は守れよ・・・サーナ》


「チッ・・・アンタは今までの話を聞いてなかったのか!?私は大事な家族をアンタらの仲間に殺された!奪われた!それなのに・・・」


《仲間じゃない》


「はっ!魔族?魔人?知らないね!私にしてみればどっちも同じようなもんだ!」


《じゃあ・・・どうすれば良かった?こっちの世界に・・・来なきゃ良かったのか?》


「は?当たり前だろ!アンタらが来なければ魔人なんてものは生まれてこなかった!アンタらが来なければ村は他の村と合併出来ていた!アンタらが来なければ・・・」


《なら勝手に繋がった道を無視し続けろと?魔素が流れて人が苦しんでも無視し続けろと!?》


「はん!それこそ知らないね!アンタは道があったら通らないと気が済まないのかい!?それに魔素?そんな毒みたいなのを撒き散らして偉そうに言うんじゃないよ!」


《俺が撒き散らしたんじゃない!勝手に流れて勝手に死んでいったんだろうが!》


「ふざけんじゃないよ!勝手に死んでいった!?一体何の話をしてんだい!」


《知らない訳がないだろ!30年前いきなり世界が繋がり・・・サーナ・・・お前いくつだ?》


《は?何を今更・・・24だよ!なんか文句あっか?》


《・・・そうか・・・》


アモンは一気に力が抜けたような気がしてストンと身体を椅子に落とす。30年前、魔素の影響で人は絶滅しかけた。それを助けたのが原初の八魔であるレーネ。核を人に埋め込む事により、魔素を受けられる身体に変えた。人々は感謝し、レーネを女神と崇めた・・・エンデの村の者達もレーネが魔族である事を知らず、アモン達を警戒していた。誤解は解けて仲良くなり、リメガンタルで国王イーサンとも打ち解けた。だが、魔族を拒んできたサーナ達はその事を知らない。サーナ達にとって魔族は別の世界から来た化け物のままだったのだ


「なんだってんだい・・・急に・・・」


《俺らは・・・出会い方を間違ったのかもしれない・・・》


「・・・は?」


アモンは拙いながらもサーナに説明した。二つの世界が突如として繋がり、その影響で魔素が流れ込み、この世界で生きとし生けるものが魔素に耐え切れず死に絶えそうになっていた事を。レーネが動き、絶滅の危機を乗り越えた生物・・・


「・・・つまり感謝されこそすれ恨まれたり怖がられたりする謂れはないと?」


《いや、まあ・・・恩着せがましく聞こえるかもしれないが、交流はスムーズにいくんじゃないかなーって思いは多少なりともあった・・・こちらの世界に来て、事情を説明して、仲良くなって・・・国王とも話がついて、どこか当たり前と思っていたかも知れない・・・人が俺達の事を知っていてくれてると・・・》


30年前、魔族が村に来た。当時の話し合いの結果、受け入れない事が決定された時、当時の村人達がどこまで知っていたか分からない。知っていて隠していたのか、知らずにいたのか・・・デハクの様子から少なくともデハクは知らなかったのではないかとサーナは思う


「・・・アンタらにしてみれば私達は恩知らずってところか・・・」


《いや、だからそうじゃなくて・・・俺達・・・少なくとも俺はただ人との交流を・・・人と仲良くしたかっただけなんだ。俺達の世界は何も無いから・・・》


アモンは自分達の世界の事をサーナに話す。時に忘れ去られた世界。老いることも無く死ぬことも無い。それ故に去来するのは虚無。やるべき事はひとつ・・・存在するだけだった


「・・・まるで話に聞く『あの世』みたい」


《あの世?》


「悪事を働いた死者が行き着く先・・・アンタらもしかしたら死んだ極悪人の成れの果てなんじゃないの?」


《・・・かもしれないな・・・》


「・・・冗談だ。・・・ったく・・・ハア・・・これじゃあ私達がバカみたいじゃない・・・なんで繋がったか分かんないけど、そこから流れ出てくる毒みたいなもんから救ってくれて・・・魔法で生活を豊かにしてくれてたアンタらを邪険にした結果、村は周りから取り残され・・・アイツらの餌食となった・・・差し伸ばされた手を握っていれば・・・」


《それは違う!俺は・・・俺達と無理に交流するのではなくて、望まれた形で交流したかっただけ・・・だから、拒まれても安心して暮らせる世界でいて欲しかった!》


「・・・じゃあ、やっぱりアンタらが悪いって事?」


《・・・ああ。出会い方が違えばサーナ達も俺達を受け入れてくれてたかもしれない。でも、受け入れてくれなかったもしれない。知ってて尚受け入れてくれなかった村や街が滅びるなんて俺の望んだことじゃない・・・そんなの強制と同じじゃないか・・・俺は魔人の可能性を知っていた。魔族と人の交流によって生まれた新しい種族・・・将来的に世界は魔族と人と魔人に溢れ仲良く暮らしていけるもんだと思っていた・・・俺はあらゆる可能性を想定しないといけなかったのに・・・》


「フン・・・まるでアンタが責任者みたいな言い草だな」


《責任者か・・・実際そうかもな。俺は原初の八魔・・・始まりの八体の・・・一人、アモン・デムートだからな!バースヘイムの国王イーサンにも魔王なんて呼ばれたっけな》


《原初の・・・魔王・・・》


《だから・・・俺には責任がある。魔人を野放しにしてしまった責任・・・そして、デハク達の願いを叶える責任》


「なに?・・・なっ!?」


アモンはおもむろに立ち上がると自らの胸を突き破り、黒い玉を取り出した。血を吹き出しながら、アモンは手に取った黒い玉・・・自らの核をサーナに差し出す


《お前じゃ俺を殺す事は出来ない・・・が、唯一出来るとしたらこの核を持って俺から離れる事。核は魔族の源・・・核が無ければいずれ俺は朽ち果てる。選べ・・・このまま核を持って立ち去るか、俺の嫁になるかを》


「はぁ!?・・・なんだ唐突に・・・バカじゃないのか!?」


咄嗟に渡された核を受け取ってしまったサーナが核とアモンを交互に見て叫ぶ。そして、以前に見た表情をアモンがしているのに気付いた


《すまなかった・・・俺は自分で上手くやっていけてると勘違いしていた・・・知らないところで苦しんでいるお前達に気付くことが出来なかった・・・すまねぇ・・・》


あの時の顔・・・見ている者も胸を締め付けられる悲しく寂しい表情をアモンはしていた。前にはぐらかされた謝った理由・・・なんのことは無いアモンもサーナと同じように責めていたのだ。サーナは自分だけ生き残ってしまった自分を。アモンは助けられなかった自分を


「ふざけんな!アンタ、死んで逃げ・・・る気・・・」


言っていて・・・アモンを責めていて気付く


『私を殺してくれないか?』


もう生きるのに疲れた。ケナンもいない。ケイブもいない。村の人々・・・デハク達もいない。村にはサーナ一人・・・もう生きている意味がなかった。だから、アモンに頼んだ・・・死ぬなら一人で死ねばいい。包丁を胸に突き刺すなり、食事を取らなければ簡単に死に至るだろう。しかし、サーナはアモンに()()()


《・・・どっちなんだ?・・・早くしてくれないと・・・さすがに逝きそうだ・・・それとも逃げずにこの場で俺が消え去るのを見ていたいのか?》


「・・・」


サーナは無言で核をアモンに向けて投げた。アモンは受け取り核を見つめた後、サーナを見る


《これは・・・嫁に来るという意思表示か?》


「うるせえ!さっさとしまえ!」


何故か急激に不安になったサーナが叫ぶとアモンは核を口に入れた。それを見たサーナは安堵する・・・そして、気付く。アモンに死んで欲しくないと思っている自分に


《助かった!死ぬかと思った・・・ぞ?》


コンコンコン


胸に空いた傷口から今飲み込んだはずの核がこぼれ落ち、テーブルで跳ねて再びサーナの元へ。サーナがテーブルから落ちそうになるの核を止めてアモンを見ると込み上げてくる・・・


《ちょ!なっ・・・違うから!返して!》


最愛の人を失ってから、同時に失っていた笑いが──────

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