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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
113/160

4章 32 アモン・デムート③

《なんでぇー!?》


《ん?ああ、アモン。やっと帰って来たな》


カーラが開いた扉により一瞬で村に戻って来たアモンとカーラ。10年の歳月は思ったよりも村に変化をもたらしていた。まず目に飛び込んで来たのは魔族の世界に戻っていたファスト。そのファストがいた事にもおどろきだったのだが、広場にいるだけで数名の魔族が目に入る


《な、なんで・・・》


《?何がだ?》


アモンの中ではアモンがバースヘイム王国国王イーサンに受け入れてもらえるまで誰もこちらの世界に来ないものと勝手に思い込んでいた。しかし、それをファストに告げた訳では無いのでファストは普通にこちらの世界にやって来て生活していた。しかも・・・


《見ろ!私の子だ。どうやら我々同士では産まれないが、人と交わる事で子が産まれるみたいだぞ》


10年間のアモンの悩みもファストはあっさり解決していた。カーラとの間に子は出来ない・・・それは薄々気付いていたが、人と試した事は無い。もしかしたら・・・そう考えたこともあったが試しはしなかった


《そ、そうか・・・で、どれくらいの者を連れて来たんだ?》


村に数名いる魔族。もしかしたら、狩りに出ている者もいるのではと尋ねるとファストは指を1本立てた


《10000ほどだな》


《なんでぇー!?》


《・・・なんでって・・・そういう話だったろ?人の世界の事を伝え、争いをしないと誓った者からこちらの世界に連れて来た。近隣の村に行き事情を話し、住ませてもらい・・・それを繰り返していたら自然と評判が広まって・・・》


ファストの話ではサドニア帝国とディートグリス王国にも魔族は進出しているという。なぜアモンの耳にその事が入らなかったかと言うと、アモンがバースヘイム王国の国王に話をしている最中に話をこじらせないようにとファストがバースヘイム王国だけ中心部に近い村や街を避け、細々としている場所だけに限定したからである


いつの間にか外堀を埋められていた形になったアモンは膝を落とし地面に手をついた


《お、おい・・・ま、まあ私達を全く受け入れない街や村もある。そこを・・・なっ?》


落ち込むアモンを慰めるファスト。そのファストを通り過ぎアモンの前に立つ人物がいた


《・・・?》


アモンは突然暗くなった事を不思議に思い顔を上げると見知らぬ女性が陽を遮り立っていた


「アモン!おかえり!」


《・・・どちらさんで?》


「~~~!!アモンのバカー!!」


女性の正体は村長のエンデの孫娘ジェラであった。ここでもまた10年という時の流れを感じてしまう。少女から立派な大人の女性へと変貌を遂げたジェラに感心していると公衆の面前でとんでもない事を言い出した


「わたしをアモンのお嫁さんにして」


周囲の動きが止まる。アモンは2人ほど他の者達と表情の変化が違う者に気付いたが、気付かなかったフリをしてジェラにやんわりと断りを入れた


断り自体を冗談と受け止めるジェラ。まるでアモンと結婚するのが当たり前のような言い方をするジェラに違和感を感じるも、アモンの帰還を喜ぶ村人が開いた宴により有耶無耶になり夜を迎えた


ひとしきりエンデと話した後、もはや習慣となった睡眠をとるべく割り当てられた部屋のベッドに横たわる


コンコン


誰もが寝静まった夜半過ぎ・・・予想通りの展開にアモンは軽く返事をして訪ねて来た者を招き入れる


《どうした?こんな夜中に・・・ジェラ》


月明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中、ドアを開けて入って来たジェラの表情は影となり見えない


「昼の話・・・本気だから・・・」


横になったまま顔だけジェラに向けると、その姿にピクリと眉を動かす。身体の線がはっきりと分かる薄手の服。ほんの1週間・・・しかも少女の時に共に過しただけなのになぜ・・・そう考えているとジェラは気付いたのか自ら語り出した


「アモンと初めて会った日・・・肩に乗せてもらって、魔法を見せてもらって・・・それから短い間だけど一緒に生活した日々・・・わたしは思い返さない日はなかった。ファストさんが大勢連れて来た時も・・・イムに・・・告白された時も・・・感じる事が出来なかった感情が・・・今日再会出来た時に・・・溢れてきた」


ジェラは言い終えるとドアの前からベッドへと近付く。すると影で隠れていたジェラの顔が月明かりで映し出された


今の言葉が嘘偽りではないと思わせる真剣な表情


アモンが起き上がるのを阻止するように無駄のない動きで上に乗った


《・・・速いな》


「近付きたい・・・そう願ってファストさんが連れて来た魔族に教わったの。魔法は使えないけど・・・魔力の操作っていうのは何となく・・・」


《そうか・・・よく頑張った。だが、なぜ乗る?》


「動かないように・・・すぐ終わるから・・・」


ジェラは跨ったまま服を脱ぐ。月明かりに照らされる初々しい身体。表情は記憶の中のあどけない少女とはかけ離れ、妖艶な笑みを浮かべる


《ほう?経験済みか?》


「まさか・・・みんなに聞いて予習はバッチリ・・・アモンが戻って来たら捧げようとずっと・・・」


《いらん!・・・そして、服を着ろ!》


「なぜ?」


《なぜって・・・俺には・・・その、結婚した人がいる!》


「カーラさん?」


《カーラではない・・・リメガンタルにさ、妻子を残して来ている・・・もう10人くらい子供がいてお父さん大変だ・・・カーカッカッカッ》


「・・・」


無言で見つめるジェラ。追い込まれてついた嘘にしては完璧だと思っていたが、その視線は冷たい


《・・・そ、それよりもジェラ・・・お前にはイムがいるだろ?》


「なんで今イムが?・・・もしかして・・・」


《もしかしない!俺は妻子持ち、ジェラは仲良くしていた幼馴染みがいる・・・後は・・・分かるだろ?》


何とか説得を試みるアモンだったが、ジェラは頑なに服を着ようとはせず、上から降りようともしなかった。しばらく続く激しい舌戦・・・とは言えないほどアモンの嘘はジェラに看破され、追い詰められていく


どうすれば良いか必死に悩んでいる時、ふとこの状況がこの世界に来る前と同じだと言う事に気付く。ジェラを見てその時の事を思い出しているとジェラの表情が険しくなった


「その目・・・嫌い・・・」


険しい表情から悲しげな表情に変わり視線を逸らす。アモンがジェラに重ねて誰かを見ていたのに気付き、怒りと悲しみが押し寄せてきていた。10年待ったのに・・・その想いが込み上げてきている最中にアモンの次の言葉がジェラに変化をもたらした


《・・・イムが待ってるぞ・・・》


「やっぱり・・・」


《ん?》


「・・・」


ジェラは立ち上がり服を着るとベッドから飛び降りた。そして、無言のままアモンに背を向けて歩き始めると扉の前で止まり、横を向いて小声で呟く


《・・・》


そのままジェラは部屋を出ていき、残されたアモンは一人首を傾げる。ジェラの残した言葉『いずれアナタは私のモノ』という言葉の意味が理解出来ずに・・・




部屋を出たジェラはそのまま家を飛び出した。そして、家の前でうろちょろしていたイムを見つける


「ジェラ!こんな時間に・・・って、なんて格好してんだよ!?」


アモンが帰って来てジェラの気持ちを知っているイムが居ても立っても居られずにエンデの家の前まで来てしまっていた。それを見てジェラは確信する


「ちょっと今日は・・・暑かったから・・・それよりもイムはなんでココに?」


「あ、いや、俺も暑かったからちょっと涼みに・・・」


「そう・・・ちょうど良かったわ」


「え?」


「わたし・・・ちょうどイムの所に行こうと思ったから」


「え・・・な、何か用かい?」


「わたしね・・・この前の話・・・受けようと思うの」


「こ、この前の話って・・・ほ、本当に!?」


「・・・うん・・・」


イムは感極まり、思わずジェラを抱き締める。生まれた時から共に過し、いつの頃からか抱いていた恋心が成就した瞬間だった


「俺・・・ジェラはてっきり・・・いや、何でもない!必ず・・・俺が幸せにするから!」


「・・・ええ・・・幸せになろうね・・・わたしね・・・子供が欲しい・・・」


「ええ!?・・・そ、そうだな!お互い子供がいてもおかしくない歳だし・・・」


腕の中にいる初恋の人の爆弾発言に動揺するイム。動揺しているのを悟られまいと必死に取り繕う


「うん・・・わたしね・・・女の子が欲しい・・・とびっきり可愛い女の子が・・・」


月明かりは祝福するように2人を照らす。しかし、イムに抱き締められているジェラの顔を照らす事はなかった──────







──────アモンとカーラがリメガンタルから村に戻って20年の歳月が経った。バースヘイム王国国王イーサンの宣言やファストの地道な普及活動により、魔族は大陸中に存在するようになる


原初の八魔であるアモンとファストという絶対的な存在が魔族の行動を抑制し、人にとって魔族は魔法の使える種族として根付いていった


それでもアモンは何か起きた時の為に従者であるカーラに命令する


『大陸全土を見て周り、何か起きた時にすぐ行けるようにしろ』


カーラはその命令通り大陸全土を隅々まで見る為に徒歩で大陸中を歩いている。本来ならばカーラの能力で見える範囲なら一瞬で移動出来るのだが、魔素の薄い人の世界ではすぐに魔力が尽きてしまう為に歩く他なかった


ファストは問題が起きないよう魔族を監視し、アモンは人の世界に訪れた魔族に対して教育及び管理をする為に魔族の世界と人の世界の扉の前で生活するようになった


ジェラの件もあってか、アモンはほとんど村には行かず、行くとしたら何か用事がある時だけ。エンデが生きている頃は何も無くても顔を出していたアモンだったが、エンデが死去してからは年に数回のペースにまで減っていた


絵に書いたような穏やかな日々・・・しかし、その穏やかな日々はある報せにより引き裂かれる


──────村に武装した集団が近付いている


詳細は不明だが、アモンの住む村に向かっているのは明らかだという


アモンは急ぎその場に向かい、武装した集団と対峙した


武装したて()()


《・・・なんのつもりか聞いていいか?》


「・・・」


返答はない。ただ手製の武器と激しい憎悪を目の前のアモンに向けるだけだった。特に先頭に立つ女性・・・もはや正気とは思えない表情にアモンは固唾を飲んだ


《黙ってちゃ分からねえ・・・この先は村しかねえぞ?・・・》


「・・・魔族を出せ・・・」


《・・・何の用だ?》


「お前だけじゃない!!全てだ!!全ての魔族を出せ!!」


狂ったように喚く者達。服装から裕福な者達ではないと見て取れる。武器も農具などを改造した手製の物。魔族の魔法により急激に発展したはずなのに、まるでアモン達が来る前と同じだと感じたアモンはすぐに察した・・・魔族を拒んだ村の者達であると


アモンがリメガンタルに赴き、国王イーサンとの約束を守っている間、ファストは少しずつ魔族を他の街や村へと連れて行き、魔族を広めていった。その中には魔族に対して偏見を持ち、断る街や村も多かったが、近隣の評判などを聞き、徐々に自らの街や村に招き入れる事も少なくはなかったのだが・・・どうしても魔族を受け入れない者達も一定数居たのだ。魔法によって急激に発展した街や村と取り残された形になった街や村・・・その存在を気にはかけていたが、無理強いは良くないと思う気持ちと発展だけが人の幸せではないと考えていたアモンは存在は知りつつも特に何もしてこなかった


《待ってくれ!俺達魔族が何かしたのか?それだったら俺が・・・》


「何かしたのかだと!?・・・ふざけんな・・・ふざけんなぁ!!」


先頭の女性が発狂したかのようにアモンへと走り寄り、持っている刃物をアモンの腹部へと突き立てた。使い古しの包丁・・・その包丁の切っ先がアモンの腹部に当たるが、1ミリも肌に沈むことなく跳ね返される。しかし、それでも何度も何度も突き立てる


切っ先が曲がり、刃が欠けてもそれは続き、とうとう刃の部分が飛んでいき、柄だけになると女性は柄を投げ捨て殴り始める。アモンの硬い皮膚に当たる毎に女性の拳から血飛沫が上がる


「・・・サーナさん・・・止めるんだ・・・サーナさん!」


言葉では止まらぬ女性、サーナを一緒にいた者達が強引に腕を掴み止めた。しかし、それでも暴れようとするサーナに他の者達が覆い被さる


地面にうつ伏せにされ、それでもアモンを息を荒くし睨み付けるサーナ。アモンがその目をじっと見つめていると一人の男性が前に進み出た


「アンタは・・・本当に魔族なのだな・・・」


《ああ・・・だから傷付いてやれねぇ・・・》


「傷付いてやれない・・・か。ワシらの所に来た魔族とは・・・えらい違うな・・・」


男性は寂しげな表情を浮かべるとポツリポツリと語り出した


男性の名はデハク。ここからほど近い場所にある村の村長をしている。エンデ達の村と同じで国が管理出来ていないくらい小さい村。狩りをし、畑を耕し、自給自足がほとんどの村に深刻な問題が差し迫っていた


過疎化


100名ほどの小さな村に新たに来る人もおらず、徐々に先細っていく人口。デハクは村人全員と話し、近隣の村との統合を決意したその矢先に現れたのだ・・・魔族が


新しい血を入れたかった矢先の出来事、村では意見が真っ二つに分かれた。魔族を受け入れる者達と受け入れない者達。毎晩話し合いが行われ、結果魔族を受け入れない事が決定し、次に魔族が来た時にそう告げた・・・それが20年前・・・


それから村は一気に衰退していく


受け入れる側の者達が村を抜け、統合の話も近隣の村が魔族を受け入れた事により流れてしまった。それでも村人達は慎ましく暮らしていた・・・が


「・・・先日・・・突如私達は・・・」


──────魔族に蹂躙された──────


悔しさを滲ませて、デハクはその生々しい光景を口にする


歯向かった男は倒され、女は犯され、子供は・・・何も出来なかったと涙ながらに叫ぶデハク。連れて来ているのもサーナ以外全員年配者。デハクは倒されたと言っていたが、()()()()()なんだろうとアモンは歯噛みする


《・・・そいつらの特徴は・・・》


「特徴!?ふざけんな!そいつらを始末して終わりにするつもりかよ!?それでまた新たな魔族が来ないか震えて過ごせって言うのかよ!?ふざけんな・・・ふざけんな!!出て行けよ!・・・消え去れよ!この世から消えちまえよ!!」


押さえつけられたままでサーナが叫ぶとアモンは口を閉ざし、周囲もまた無言で俯く。デハク達は決して魔族に適うとは思っていたなかった。村の惨状、そして、サーナの怒りに触れ、武器を持ちやって来た・・・一矢報いて死ぬ為に


「・・・私達は家族の元に・・・でもひっそりと死んではいかない・・・死ぬならせめて・・・」


《待て、待ってくれ!・・・おい!》


アモンはドスの効いた声で村人達を見つけた魔族を呼び寄せる。アモンの後ろに控えていた魔族は慌ててアモンの前で跪く


《は、はっ!》


《ファストは何処にいる?》


《い、今は・・・街の名前は分かりませんが西の方に・・・》


《ファストにパスを繋ぎ街の名を聞け》


《はっ》


魔族に街の名を聞かせてる間、アモンは大陸中を記憶しているカーラを呼び出す。魔族がファストの居場所を聞き出した頃、カーラはすぐにやって来た


《お待たせ致しました。アモン様》


《カーラ、ディートグリス王国のナムリって街にファストが居る。連れて来い》


《承知致しました》


理由も聞かずカーラはすぐに扉を開きナムリへ。そして、待つ事数分でファストと共に戻って来た


《何があった?・・・アモン》


《その何があったかを知りてえ。俺達の中で村を襲う可能性がある奴は?》


《ないね。君が教育し、私が監視している中でそれをする理由がない》


「なっ!?・・・ぬけぬけと・・・っ!」


《・・・不快な目だ。そんな目を向けられるいわれはない》


はっきりと言い切るファストに対して押さえつけられながらも睨むサーナ。アモンに対して喚いたように恨み辛みを吐こうとするが、ファストの威圧的な視線に言葉を失う


《よせ、ファスト。・・・そうなるとやはり・・・》


《魔人・・・だね》


アモンとファストは気付いていた。魔族が原初の八魔であるアモンとファストに逆らうとは考えにくい。魔法を使い、魔族のように振る舞えるとしたら現状魔族と人の間の子・・・魔人しか考えられなかった


「・・・魔人?・・・」


魔族を受け入れなかった村人が魔人の存在を知るはずもなく、デハクが疑問に思い呟くとアモンはデハクに説明した。魔人とは魔族と人の間に生まれた子供であること。そして・・・


《・・・その魔人を管理出来ていないのが現状だ・・・》


魔人が野放しになっていること。魔族の管理には細心の注意を払ってきた。村から出なかったアモンにもそこはかとなく聞こえてきた魔人の噂。ファストこの子はすぐに魔法を覚えただの、魔技を引き継いだの・・・しかし、悪い噂は入って来なかった為にそのままにしていたツケが回ってきた


「なにが・・・管理出来て・・・いないだ・・・」


《ふん、半分は君らの血だろ?それとも人は全ての人を管理してるとでも言うのか?》


《ファスト!》


「ふざけんな・・・そもそもお前たち魔族が存在しなければ・・・」


《それこそおこがましい。先に住んでた以外で何かあるのか?弱く醜く短命な人に》


《ファスト・・・もうおめえは喋るな・・・》


《ア、アモン・・・》


誰もがアモンの怒気に当てられ身体を震わす。同じ原初の八魔であるファストすら


アモンがサーナに近付くと、サーナを押さえてた者達が手を離し後退りした事によりサーナはようやく開放された


目の前に刃物すら通さない圧倒的な存在・・・それでもサーナはすぐさま立ち上がり、拳を振りかざす


《まず!》


アモンが大声を上げ、ビクリとして振りかざした拳を止めるサーナ。それを確認するとアモンは言葉を続けた


《おめえ達の村を襲った者達を探す!そして、おめえ達の前に必ず連れて来る!煮るなり焼くなり好きにしろ!もちろんその前に指示したやつがいないかをあぶりだす!指示したやつがいればそいつらも連れて来る!その後、俺達をどうするか決めろ!》


《アモン!》《アモン様!》


《なんだぁ?》


《くっ・・・アモン様がそこまでしなくても・・・そ、それに・・・》


人にアモンの生命を委ねる訳にはいかない、握られる訳にはいかないと必死に言葉を絞り出そうとするカーラだったが、振り返ったアモンの怒気に当てられ思うように言葉が出ない。それでも顔を歪めながら言葉を続けようとすると、一気に怒気が緩んだ


《すまねえな・・・カーラ》


《!!!》


アモンの優しげな表情が、声が決意の固さを示す。もう誰がなんと言おうと先程の言葉を撤回する事はない・・・長年仕えてきたカーラはすぐに理解した


《カーラ!彼らの村の近隣を隈なく探れ!ファスト!周辺の魔族及び魔人を集めろ!今すぐにだ!》


《はっ!》


カーラはアモンの命令を受け、デハクに村の場所を聞くとすぐに実行すべく移動した。しかし、ファストは無言でアモンを見つめ、動こうとはしない


《アモン・・・私は納得した訳では無いぞ?》


《おめえにしか出来ねぇ・・・頼む、ファスト》


《!・・・まさか君からそんな言葉を聞けるとはね・・・貸し一つだ》


《上等!熨斗(のし)をつけて返してやる・・・さてと》


怒りで我を忘れそうになっていたアモンはどうにか冷静さを取り戻していた。人を軽んじるファストの言葉に怒りを顕にしたが、実の所は違う。交流交流と言ってたにも関わらず、魔人がやった可能性が高いと思った瞬間にどこかホッとした自分が許せなくて出た怒りだった


それを押さえ込んだアモンは行動に移る。カーラとファストには村を襲った者の捜索を。自分がするべき事は・・・


《ファスト・・・サラムはどこだ?》


《サラムは西の・・・ディートグリスという国のカダノースという街にいる。なぜだ?》


《ああ、カーラに言ってサラムに俺の代わりをさせる。あっちの世界に逃げられても困るし、増えても面倒・・・しばらく出入りは禁止だ》


《なるほど・・・サラムなら私や君以外なら止められるか・・・事情は説明しておこう。・・・君は?》


《・・・俺は・・・この者たちを守る──────》



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