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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
112/160

4章 31 アモン・デムート②

──────魔族襲来


リメガンタルの街に衝撃が走る


口から火を吹いただの、門番を頭から食らっただの、そびえ立つ街の外壁を跨いだだの情報は錯綜し、混乱に陥っていた


多くの民は家に閉じこもり遠巻きに見ている野次馬が数十名、そして、門番が呼んだ兵士達がアモン達を取り囲む


ひとしきり睨み合いが続くと兵士達を掻き分けて、アモンより更に大きい図体の男がノシノシとアモン達に歩み寄る


「てめえか?魔族と名乗る輩は」


《見ろ!カーラ!俺よりデカいぞ!》


《刻みますか?》


《いやいや、デカさを誇った事は一度もないぞ!?余計な気を回すなよ》


刻んで男をアモンより小さくしようとするカーラをたしなめ、アモンは男と対峙する。筋骨隆々でアモンより一回り以上大きく見えるその男は覆い被さるように正面に立ち、アモンを睨みつける


「街の噂より随分ちいせえな・・・で、魔族がこの街に何の用だ?」


《おう!国王に会いに来た。案内してくれ》


「バカかてめえは?てめえなんかと陛下は・・・」


「ジラテン様!国王陛下より・・・」


「・・・本当かよ」


アモンを恫喝する巨漢の男、ジラテンの元に1人の兵士が走り寄り、耳打ちする。ジラテンは顔を顰め、視線を兵士からアモンに移す


「ちっ!陛下がお呼びだ・・・ついて来い!」


《おお!話が早くて助かる》


ジラテンは不機嫌そうに舌打ちし言い放つと踵を返し街へと向かう。その後をアモンとカーラが続き、兵士達も後に続く。野次馬達は何も起きなかった事に不満と安堵の入り交じった複雑な表情で彼らを見送った




ジラテンはいちいち建物を見ては興奮するアモンに苛立ち、目的地の王城に着いた時には感動して動かなくなったアモンを怒鳴り散らし、何とか王城内に押し込むと、本来向かうはずの王のいる場所ではなく別の部屋に案内した


《ここに国王が?》


「ちげぇよ!陛下に会うのにそんなみすぼらしい格好が許されると思ってるのか?」


《・・・ダメか?》


「あったりめえだ!さっさとこれに着替えろ!女!てめえもだ!」


ジラテンは2人に服を投げて寄越すと部屋の隅まで歩き壁に背を預けた。腕を組み、視線をカーラに固定すると口元をニヤケさせる。王都でも滅多に見られない程の美女の肢体を目に焼き付けようという算段だ


恥じらいながら脱ぐのだろうと思いきや、予想に反しての脱ぎっぷり。投げ渡された服を地面に置いたまま着ていた服を脱ぐと、全裸になって渡された服を拾い上げ、どう着るのかと悩んでいた


カーラの恥も外聞もない行動にジラテンは興奮する事なく逆に冷めた目で2人の着替えを見守る事となってしまった


アモン達は苦労してなんとか着替え終わり、初めて着る服に戸惑いながら着た服を見て満足気に頷き、満面の笑みでジラテンを見た


《おう!似合ってるか?》


「後ろ前反対だ!女も!てめえらわざとやってるだろ!!」





ジラテンに怒られてシュンとなったアモンと新たな服装に慣れないカーラは着替えが終わった後に分厚く硬い木で出来た手錠をかけられた


両手を固定され、王城内を歩くと一際大きな扉の前でジラテンが止まり振り返る


「妙な動きをするな・・・すれば即刻殺す」


アモンを睨みつけ、腰にぶら下げた剣を少しだけ抜いた。ジラテンとしては脅しのつもりで剣を見せたのだが、残念ながらアモンには通じない。しかし、空気の読めるカーラに肘をつつかれ、アモンはとりあえず頷いた


フンと鼻を鳴らし、扉に向かいジラテンが大声で名乗ると扉は自動的に内側に開き始め、アモンの目にはその輝かしい部屋が飛び込んで来る。赤い絨毯、壁にはロウソクが揺れ、壁際には槍を持つ鎧を着た兵士達。そして、奥には段差があり、その1番高い所の装飾が施された椅子に座る者が見えた


バースヘイム王国国王イーサン・リンベルトである


アモン達は中程まで進み、止まるよう指示される。もちろん手錠はしたままであったが、アモンはようやく国王と会う事が出来た


お互いの名乗りが終わり、早速アモンは魔族がこの国に住む許可をくれと頼むが、あっさりと断られる。そこからカーラに助けてもらいながら魔素の事とレーネの事を説明するが、一向に首を縦に振る気配はなかった。アモンを頭のおかしい男と思っているのか兵士達はアモンを嘲笑し、国王イーサンのそばに居る大臣達は呆れ顔。それでもアモンは諦めることなく説得を続けた


アモンの熱意に絆されたか、しつこさに参ったのか・・・イーサンは熱弁を続けるアモンの言葉を遮った


「分かった分かった・・・そなたの言葉が本当ならば我が国の繁栄に多大な影響を及ぼすだろう・・・魔法による獣討伐に開拓、治水なんでもあれ・・・だが、疫病の原因が魔族ではなかったとしても魔族を恐れる国民は多いはず。そこでだ・・・こちらの条件を飲めば考えてやらんでもない」


《・・・その条件とは?》


大臣と兵士達が国王の言葉に動揺する中、イーサンは指を1本立ててアモンに告げる


「10年・・・そなたが人に危害を加えなければ信用してやろう」


《10年だと!?・・・10年とは・・・》


「永いか。しかし・・・」


《何だ?》


「・・・なぬ?」


《だから、ジュウネンとは何だ?》


「・・・」


それからイーサンによる時間講座が開かれ、アモンはようやく10年という時の流れを理解する


《・・・つまり、日が昇り、沈んではまた昇るを繰り返す事により日が経過し、それが40回繰り返すと月が経過し、400回繰り返すと年となる・・・10年とは4000回、日を繰り返した事だな?》


「・・・そうだ。これより10年、誰一人として傷付けてはならぬ。破らばそこで終わり・・・魔族はやはり危険であると国民に流布せねばなるまいな。もちろん受けぬのも自由・・・」


《よし!受けた!》


「・・・10年だぞ?」


《くどい!4000回だろ?任せておけ!》


「まか・・・ジラテン」


あまりにも簡単に承諾するアモンに対してイーサンは条件がどれだけ厳しいものか分からせる為にジラテンを呼び寄せる。そして、イーサンが耳打ちするとジラテンはニヤリと笑い頷き、指をポキポキと鳴らしながらアモンに近付く


「よお・・・本当脳天気な野郎だな。てめえが陛下とどれだけ達成するのが難しい約束をしたか今から教えてやる・・・よ!」


ジラテンはノーモーションで右ストレートを放ち、その拳は吸い込まれるようにアモンの頬に打ち込まれる。拳一つで成り上がったジラテンの渾身の一撃・・・誰もがアモンの死を疑わなかった・・・ジラテンを除いて


「っつ!・・・くっ!」


ジラテンは放った右拳を押さえアモンを睨めつける。目の前にいたのは自分より小さい自称魔族・・・のはずが、今瞳に映るのは自分より遥かに大きい何か。拳の痛みを忘れる程の衝撃がジラテンの背筋を凍らせる


《これは困った。もしかしたらこれも傷付けた事になるのか?》


痛がるジラテンを見てアモンは眉をひそめる。それを見てイーサンは顔に手を当てため息をつくと答えた


「・・・今のは意図した事ではない・・・たとえ理不尽な暴力に晒されても手出しすれば反故となる・・・と、伝えたかったのだが・・・」


《そうか!なら良かった!勝手に殴って勝手に傷付いてもダメとかだったらどうしようかと思ったぞ》


「・・・期限はこれより10年間・・・この街に屋敷を用意しよう。出歩く時は監視をつける。少しでも誰かを傷付けた場合・・・」


《大人しく俺達の世界に戻るさ。そして、二度と来ねえし来させねえ》


「・・・そこまで言うたつもりはなかったのだがな」


《傷付けるつもりはサラサラないからな!それでも緩いくらいだ・・・なんなら俺を殺すか?》


《アモン様!!》


今まで黙っていたカーラが血相を変えて叫びアモンを睨みつける。人にアモンを殺せる訳が無いと思っており、ジラテンが殴りかかった時も気にする素振りすら見せなかった・・・にも関わらず叱責したのは、そんな約束をして万が一破ってしまったら、人がアモンを殺せなくても自分で死を選ぶ事をカーラは知っているからだった


《わりぃ・・・今のナシで・・・》


カーラに怒られて両手を合わせてイーサンに謝るアモン。その姿はとても噂に聞いていた凶悪な魔族には見えず、イーサンは気が抜けて玉座の背もたれに身体を預けた


こうしてアモンは10年の時を誰一人として傷付ける事無く過ごさねばならなくなった──────




──────アモン様


────アモン様


《アモン様!!》


《はい!》


魔族は寝ない。寝る必要がないから。しかし、魔素の薄い世界に来てから少しでも魔力を消費しない方法として睡眠が最も効率的であると気付いた。眠る事により魔力の消費を抑え、それでいて魔力を回復する。回復が消費を超えると知ったのはこの生活を始めて1年が過ぎた頃だった


そして、10年の時を経て睡眠マスターとなったアモンの眠りは深く、毎朝のようにカーラに怒られながら起こされる。今日も例に漏れずカーラはご立腹


《いい加減、御自分で起きて下さい。寝てる時間は同じはずですよ?》


《いや、そりゃあ男の方が体力を・・・いてっ!》


《今日は約束の日です。もう少ししたら使者が来るとの事なのでお早めにお着替え下さい》


《わーったよ》


カーラに殴られてようやく目を覚ましたアモンがベッドから立ち上がり振り返ると、カーラは無意識の内に自分のお腹をさすっていた。10年前からこの日まで、アモンとカーラは子供を作ろうとした。しかし、結果は・・・。アモンが見ているのに気付き、カーラはアモンを見つめる微笑んだ


《・・・私はアモン様の従者です。それだけで・・・》


《・・・》


窓から陽の光が差し込んでおり、微笑む顔に陰を落とす


アモンは無言で着替えを済ませ、カーラと共に部屋を後にした




しばらくして使者としてアモンの住む屋敷にやって来たのはジラテン。この10年間一番関わる事の多かったのがジラテンだった。街中での監視から街の外へ行くにも付いてきて、アモンが誰かを傷付けないか見張っていた


「陛下がお待ちだ・・・付いてこい」


この10年間で随分と打ち解けたはずが、今日は妙によそよそしく、表情も優れない。あまりアモンと目を合わさずにさっさと振り返り歩き出すとアモンとカーラは黙ってそれに付いていく


「アモンさん!これ持っていきなよ!」


《いや、だから飯は食わねえって何度も・・・いい匂いだな》


「だろ?食わねえって言っていつも食ってんじゃねえか!ほれ!」


露天商が焼きたての串焼きをアモン達に渡してきた。もちろん売り物なのだが、金も受け取らず笑顔でアモン達を見送った。その串焼きを頬張りながら歩いていると次々にアモンに声が掛かる


「アモンさん、この前は屋根の修理ありがとね」


《おう!》


「アモンさん!また稽古付けてください!」


《おう!》


「アモン、また今度狩りに付き合ってくれ」


《おう!》


「アモーン!遊ぼう!」


《無理!》


「アモンさん、結婚してー!」


《無理!・・・てか、ターニャ!おめえつい最近結婚しただろ!?》


「アモーン!遊ぼう!」


《いや、だから無理つってんだろ!》


歩く度にアモンは声を掛けられ、カーラは男の視線を独占する。10年の歳月はリメガンタルの人々の魔族に対する偏見をなくし、親しみを持って接するまでに至っていた。もちろんアモン達が暇だからと言って率先して交流を行った結果だったのだが


「アモンアモンアモン・・・毎度の事ながら、てめえと歩くと騒がしくて仕方ねえ」


《あん?俺なんかより月に一度は告白されるカーラの周りの方が騒がしいっての!》


《ええ・・・とても迷惑しております。つい先日も先程のターニャと結婚した・・・》


《・・・やめたれ》


浮気なのか結婚前なのか気になる所だが、誰に聞かれてるか分からないのでアモンはカーラを止めた


そうこうしている内に王城に辿り着き、謁見の間の扉がゆっくりと開いている最中にジラテンが振り返る


「アモン・・・・・・何でもない」


《んだよ、気持ち悪いな・・・》


何か言いたげなジラテンにアモンがツッコミを入れるが、ジラテンは軽く首を振り、そのまま正面を向いて部屋の中へと入って行く。アモンは頭を掻いてその後ろ姿を見つめた後、続いて部屋の中へと入った


「待っていたぞ、アモン・デムートよ!」


初めて会った時から10年。その間にも何度となく会ったりもしたが、正式に会うのは10年ぶりであった。10年経つ前に世代交代の話も出ていたが、イーサンはアモンとの約束が果たされるまで王位を譲る気はないと言い張り、とうとうこの日を迎えていた


《老けたな・・・イーサン》


「ぬかせ・・・ふっ・・・正直1年もたないと思っていたが、まさかこの日を迎えるとはな・・・」


《で?受け入れてくれるのか?》


「約束したのは10年・・・この日がちょうど10年目だ・・・が、約束したのは昼頃・・・もう少し時間がある。その前に少し話したくなってな」


《なるほど・・・で、話ってのは?》


「うむ・・・ジラテン!」


国王イーサンに呼ばれ、先程まで一緒に歩いていたジラテンがイーサンに一度礼をするとアモンに向いた。そして、アモンに歩み寄ると真剣な眼差しで見つめる


《カッ、懐かしいな・・・また殴りたくなったか?》


「・・・違う・・・ケジメだ」


《あん?ケジメ?》


「俺は10年前のあの日・・・てめえを・・・何の罪もないてめえを殴りつけた。情けねえ話だが、拳を痛めたのは俺の方だったが、そんなのは関係ねえ・・・殴った事実・・・それを精算したい」


《ほう・・・つまり俺に殴り返せと?》


「・・・そうだ」


ジラテンが頷くと周囲の兵士達が騒ぎ始める。もはや兵士達の間でもアモン達は受け入れられていた。なのでこの場はアモン達が国に受け入れられる記念すべき場となると考えていた。先程のイーサンの発言から、今この場でアモンがジラテンを殴れば『誰も傷付けてはならない』という約束を破る事になり、魔族が受け入れられる事は永久になくなる。兵士達は動揺し互いの顔を見つめ合っていると、イーサンは手を上げてそのざわつきを制する


《俺と街の外で狩りをしてる時に言ってたよな?こんなの喰らったら死ぬって・・・おめえ、死ぬ気か?》


「1回は1回だ。もう負い目を感じるのはたくさんだ・・・」


《・・・そうか・・・》


《お待ち下さい!アモン様!》


カーラが制止するも、アモンは指でジラテンの頬を弾いた。ジラテンは指で弾いたとは思えない程吹き飛び、壁際にいた兵士2人にぶつかりそのまま兵士諸共壁に激突・・・壁は崩れ、ジラテンと兵士2人は気絶し地面に倒れ込む


あまりの出来事に誰もが口を閉ざし、その光景を見つめていると、イーサンが玉座から立ち上がり叫んだ


「何故だ!?あと数刻・・・あと数刻でそなたは我らの信用を勝ち得た!なのに何故!」


《何言ってんだ?ジラが負い目を感じてたって言ってんだ・・・端から約束は守れてなかったんだよ・・・》


「負い目だと?そなたは・・・そなたは人と魔族の交流を望んでいたのではないのか!それをたかだか一個人の負い目如きで不意にするほどその望みは安かったとでも言うのか!」


《安くねえよ。だが、友の苦しみを分かってやれなかったのは、ただ傷付けるより遥かに重い・・・どっちが大事なんて関係ねえ・・・天秤にかけるくらいなら俺は俺のやりたいようにやる。ジラが望んだから殴った・・・それが俺の答えだ》


「・・・後悔はないのだな?」


《ない!》


「即答か・・・皆の者!見たであろう・・・魔族アモン・デムートは約束の刻限を過ぎる前に人を傷付けた!これにより魔族はこの世界より撤退!二度と来る事はないだろう!」


10年前なら歓声が湧いていたであろう国王イーサンの宣言。しかし、今は誰もが戸惑い、顔を伏せる。王の言葉は国の言葉、王の意志は国の意志・・・兵士達はただ黙ってその言葉を受け入れるしかなかった


「残念だよ・・・アモン・デムート・・・この人たらしが・・・」


《あん?》


「だから・・・言ったでしょ・・・コイツは殴るって・・・」


アモンはイーサンの言葉の意味が理解出来ず怪訝な表情を浮かべると、そのタイミングで気を失っていたはずのジラテンがよろめきながら立ち上がる。その表情はさっきまでの陰鬱な表情から晴れやかな表情に変わっていた


《おい、ジラ・・・一体何の事だよ?》


「・・・陛下と賭けをした。俺がふっかけたら果たしてアモンは殴るかどうかって・・・俺は殴るに賭けて、陛下は殴らないと仰ったが・・・」


「まさか10年の時を無駄にするとは思わなかった・・・残念だよ・・・賭けは我の負けだ・・・これよりバースヘイム王国は友であるアモン・デムート・・・そして、その仲間達を受け入れる事をここに宣言する!」


《・・・あん?》


「へっ、結局てめえは殴っても殴らなくても受け入れられてたってこった・・・俺達だってバカじゃねえ・・・街での生活を見てどうするべきかなんて、とうに分かってるんだよ」


《・・・だったらおめえ・・・殴られ損じゃねえか》


「バッカ、殴られ得だ・・・これで負い目なく・・・てめえと対等でいられる」


見つめ合う2人。そして、どこからともなく歓声が上がる。兵士達は喜び、アモンを祝福し、イーサンはそれを暖かい目で見つめていた


「ゴホン!・・・アモンよ、我らはただ受け入れただけ・・・つまり拒否しないだけで歓迎している訳では無い・・・そこを違えるな」


《わーってるよ。俺達にだって個性がある・・・好きな人がいたり嫌いな人がいたり・・・恋をしたり喧嘩したりもするだろうよ。それで構わない・・・いや、それこそ交流だろ?》


「どこまでも・・・いや、何でもない。それはそうと、来る魔族には然と伝えておくのだぞ。我が国はもとより大陸における全ての者は法を守り生きている。それは魔族とて例外ではない。秩序を乱せば・・・」


《ああ。そっちで処分してくれて構わない。手に負えなければ俺を頼るといい・・・その時は俺がぶちのめす》


「・・・まるでてめえが魔族の中で一番強いみたいな言い草だな」


アモンの言葉にジラテンが指で弾かれた頬を押さえながらツッコミを入れると、アモンは微笑んだ


《ん?言ってなかったか?俺より強い奴なんざいない。逆らう奴はいるがな》


アモンの言葉にイーサンは胸を撫で下ろす。正直、アモン以外の魔族は未知なる存在であり、最後まで受け入れるかどうか迷っていた。それはジラテンから聞いていたアモンの強さが多分に影響しており、もし魔族が暴れたら人では抑えきれないと考えていたからだ


「そうであったか・・・それを聞いて安心した・・・魔王アモンよ」


《魔王?》


「魔族で一番強いのであろう?その者の事を魔王と言うのでは無いのか?」


《・・・まあいいか。魔王か・・・カッカッ》


「アモン・・・これからどうするつもりだ?この街で・・・」


アモンが魔王と呼ばれた事を笑っているとジラテンが進み出て聞いてきた。街は既にアモンを受け入れている。もちろんカーラも。ならばとジラテンが続けて言おうとした言葉をアモンは首を振って断った


《いや、とりあえず最初に訪れた村に戻る。そこの先に俺達の世界に繋がってる場所があるから、通って来る奴らにきっちりと教育しねえとな!》


「・・・てめえに教育される魔族に同情するよ」


《んだと!?俺だってなぁ──────》


アモンとジラテンが言い争う姿をここにいる全員が呆れながらも微笑ましく眺めていた。10年前の殺伐とした雰囲気からここまで変わるとは誰が想像していたであろうか・・・イーサンは肩の荷が降りたと言わんばかりに玉座に深く腰掛けた




数日後、アモンとカーラは街の人々が見送る中、カーラの魔技で村へと戻って行った。周囲が惜しむ声を上げる中、群衆に紛れ国王であるイーサン、そしてジラテンの2人がアモン達を見送った


「行ってしまいましたね」


「・・・うむ。『じゃあ、行ってくる』と軽い挨拶で終わらせおって・・・」


「くっく・・・」


「なんだ?何がおかしい?」


「いえ・・・まるで恋する乙女ですよ?陛下・・・」


「ばっ・・・バカを言うな!・・・しかし、どこまでも・・・不思議な奴だ・・・あれだけの力を持っていて・・・いや、持っているからこそなのか?」


「分かりません・・・でも、一つだけ言えるのは・・・あいつは天性の・・・」


「人たらし」


イーサンとジラテンは同時に言い、笑った


リメガンタルはアモン達が去った後も悲しみに暮れ、アモン達がいつでも戻って来れるように自然とアモン達が使っていた屋敷を交代で掃除するようになっていた。その行動は次の屋敷の持ち主が決まる数年間続く事になる


しかし、街の人々の願いは叶わず、アモンは二度とリメガンタルの地に足を踏み入れる事はなかった──────


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