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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『拒むもの』
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1章 9 魔力の器

カダトースに到着後、すぐにギルドマスターに報告した一行


当然怪しまれたもののデラスのギフト『鑑定』の結果という言葉を覆す言葉はあらず半ば強引に『ドラゴンは居なかった』という調査報告で幕を閉じた


すでに暗くなっていたのでもう一晩宿屋に泊まり、いざセガスへと準備を終えて馬車に乗り込もうとした時、昨日の面子が全員見送りに来た


「もう少しゆっくりしていったらどうだ?」


「セガスに俺の連れが来ているかも知れないからな。あまり空けられないんだ」


「そうか・・・」


ゲインは名残惜しそうに微笑む。出会った当初と比べて表情は大分穏やかになったように見える


ファーレンは笑顔で、モリスが泣きながら別れの挨拶をする中、デラスが神妙な面持ちでクオンらの前に立つ。そして、意を決したのか、真っ直ぐクオンを見つめて頭を下げた


「どうかご同行させてはもらえぬか!」


「断る!」


必死の願いを瞬時に断るクオン。モリスが「義兄さんも半端ねえ」と呟いていた


「何故だ!」


「理由は3つある。1つ目はウザイ。2つ目は俺らに連れて行くメリットがない。3つ目はウザイ」


「・・・1つ目と3つ目が一緒なのだが・・・」


「・・・とにかくウザイ」


「くっ・・・」


取り付く島もない程に容赦なく切り捨てるクオン。デラスは返す言葉を失い、挫けそうになるがそれでも立ち上がる


「私はギフト『鑑定』を持っている。色々と役に立つと思うが・・・」


「特に必要ない。メリットには程遠いし、ウザさをカバー出来ていない」


「どこがウザイと言うのだ!」


「初めにギルドで会った時の見下した態度、興味を持ってからしつこくする態度、自分の欲求を満たす為だけに頭を下げる態度」


「がはっ!」


「調査に来てやったって立場だったのかも知れないが、これから護衛をする者に対してあんな態度を取って良いことなど1つもない。レンド達は鑑定で見て力不足に感じたかも知れないが、レンド達が来なければ俺も黒丸も来ていない。つまりあの場で俺らを追い返していたら、お前らは捨丸の腹の中だったかも知れないんだ。お前の浅慮のせいでな」


「ぶはっ!」


「これから心を入れ替えるとしても年齢的に無理だろう。染み付いた選民意識が変わるとは思えない。なので断る」


「はぶぁ!」


クオンの容赦ない口撃に撃沈したデラスが片膝を地面に付けて項垂れている隙に4人は馬車に乗り込んでセガスへと走らせた


道中特に問題なくセガスに着くと依頼完了の報告にギルドへ


そこで受付にいたカミラに完了報告書を渡すと荷物を置きに宿屋へ向かう


街に入ってから人の視線がクオンの頭の上で眠るステラに集中するが、特に話しかけられる事はなく遠巻きに「何あれ?」程度で済んでいるのは今まで下着姿の幼女を連れ回していたお陰かもしれない


荷物を置いて遅めの昼食を食べているとレンドが突然テーブルに手を付き頭を下げた


「クオンさん!僕を・・・鍛えてくれませんか!」


突然の申し出に寝ながらチーズリゾットを食べていたマルネスが目を開け、肉をアムアム咀嚼していたステラがまだ噛み足りないのに肉を飲み込んでしまう


「落ち着けレンド。この前のシールドベアの時みたいに・・・」


「いえ、そうではなくて!昨日のクオンさんみたいにドラ・・・ステラと対等に戦えるような力が・・・」


≪カカッ・・・無茶を言う≫


「無茶は承知です!でも・・・」


≪承知しておらんよ。妾が言ったのは強くなるのが無茶ではなく、強くなる方法が無茶と言うたのだ≫


「・・・え?」


「黒丸」


≪いいではないか。覚悟があるなら教えても。それで無理なら諦めもつこう≫


「クロフィード様!その方法って何ですか?教えて下さい!」


レンドが一縷の望みに期待し興奮する。鼻息の荒いレンドを見て引いたマルネスがクオンに助けを求めるが、クオンは無視してリゾットを食べ続けた


≪むー・・・まあ良い。とりあえず座れ。話はそれからだ≫


マルネスは興奮したレンドを落ち着かせ椅子に座らせる。そして、ドラゴンと対等に戦えるようになる無茶な方法を語り始めた


≪方法は簡単・・・魔力の暴走を起こす事よ≫


「・・・あのー、その魔力がないのですが・・・」


≪クオン~≫


「甘えるな。お前がお前が聞かれてるんだ、ちゃんと答えろよ黒丸先生」


≪くっ・・・良いか1度しか言わないからな!ギフトのない人にも魔力は存在する。人の中には魔力の器があり、その中に魔力が蓄積されるのだが、ギフトのない人はその器の中にある魔力を使う事はない。つまり常に満タンなのだ≫


「え?でもそれでしたらツー様みたいに暴走を・・・」


≪黙って聞け、ハゲ!人は器に溜まった魔力が使われないと、器に蓋をする。使わないのだからそれ以上必要ないとな。逆にギフト持ちは使えば減るのだから蓋はしない。だから、一定期間使わねば暴走するのだ≫


「ハゲてはいません」


≪じゃかぁしい!でだ、ギフトのない者が暴走させるには無理やり器に魔力を注ぎ込むしかない。蓋がされておるので外部からではなく内部からのう≫


「な、内部から?」


≪簡単だ。魔物を摂取すれば良い・・・ただしゲロマズだがのう≫


「摂取・・・食べると言うことですか?」


≪そうだ。食べて器を超えた時、魔力は暴走し蓋が開く。さすれば魔力を使った時、自然と魔力が回復する・・・つまり大気中の魔素を取り込める身体となる≫


「それと強さとはどういった関係が・・・」


≪クオンとステラが戦っている時、クオンは剣で龍鱗を傷つけ、拳であの巨体をねじ伏せた。それは剣に魔力、拳に魔力を纏い攻撃したからだ。ステラクラスのものと戦うのなら魔力を纏うのは必須だのう。もし今のお主が魔力を纏えるようになったとしても、器に蓋がされておる状態では魔力を使っても減る一方・・・魔力が尽きたら人はどうなるか知っておるか?≫


「まさか・・・死ぬ?」


≪カカッ・・・安心せい、死にはせん。ただ魔力が使えなくなるのと同時に倦怠感が付きまとう・・・回復手段の乏しいお主が魔力切れになったら・・・果たして耐えられるかのう≫


「つまり・・・強くなるにはまずは蓋を開けて魔力が回復できる状態の体作り・・・そして、その魔力を使えるようになれば・・・」


≪ステラにかすり傷くらいは付けれるかも知れんのう≫


かすり傷・・・それでも今のレンドにしたら大きな一歩だ。拳を握り強くなる糸口を見つけた事に喜んだ


「レンド・・・なぜそこまで強くなりたい?」


リゾットを食べ終えたクオンが口を拭きながらレンドに問う。目はいつもの様に糸目だが、声色でその質問が真剣なのが伝わって来た


「あ、あなた達2人を見て・・・自分の世界が如何に狭いか知りました。もちろん危険な場所に行かなければ力は必要ないと思うのですが・・・いざと言う時に誰かを守れる・・・誰かと共に戦える力が欲しいです」


「なるほど・・・ね。黒丸が説明不足だから2つほど補足する。1つは器の蓋の開放・・・これは危険を伴う。魔物を喰らい、無理やりこじ開けようとするのだ・・・蓋が開かねば器が壊れる。そうなると魔力が一生使えない所ではない・・・体内で魔力が破裂し最悪死に至る」


ゴクリとレンドの喉が鳴る


「2つ目はたとえ成功したとしても・・・元の生活には戻れない可能性がある」


「え?・・・それはどう言う・・・」


「俺が好き好んで薄目だけしか開けてないと思うか?エリオットと戦ってるのを見たと思うが、俺のギフトは『拒むもの』と言われている。詳細は言えないが、字面を見れば少しは理解できるだろ?」


「そのまま・・・攻撃とかを拒む・・・ですか?」


エリオットとの戦いでエリオットのギフト『飛翔剣』はクオンに届かなかった。あれがクオンのギフトだとすれば飛翔剣を拒んだという事になる


「そう・・・攻撃だけ・・・ならいいんだけどな。例えば俺の隣でいつの間にか寝ているアホが邪魔だと感じたとする。まあ、邪魔くさいのは確かなんだが・・・で、俺が『拒むもの』を発動したとしたらどうなると思う?」


「え?・・・クロフィード様を拒むと?」


「ああ。まあ、ぶっちゃけやってみないと分からないが・・・消し飛ぶか吹き飛ぶか・・・」


「ええ!?」


「昨日の調査隊の・・・ファーレンか。あいつが布で目を隠していたのも同じ理由だと思う。ギフト『千里眼』が何かを見ようとすると発動してしまう・・・俺の『拒むもの』も思ったら発動してしまう場合がある。それを防ぐ為に見るって事を極力避けてる・・・誤発動を防ぐためにな」


「確かにファーレンさんはギフトを発動する時だけ・・・逆に見なければ発動しないって事ですか?」


「そうでもない。極力抑えられるだけであって、感情が昂れば発動してしまう場合もある。まだまだ俺も未熟だからな・・・。つまりだ・・・力を身につければ、それだけリスクも付きまとう可能性がある。分かりやすく言えば女王アントを倒せなければ、ドラゴン調査の護衛の話なんて来なかった・・・とかな」


「あっ・・・」


「死ぬ危険性、力を得た時のリスク・・・それに見合う覚悟があるなら教えてもいい。見合わないのであれば剣の腕を磨くなり体力を向上するなりいくらでも方法はあるが・・・」


「クオン!レンドみたいな立派な理由じゃなくても・・・見合う覚悟があるのだったらやる価値があるって事よね!」


「うん?まあ、そうだな」


「レンド!私はやるわ!あなたがやらなかったとしても・・・私はやる!」


「お、おう・・・俺もやる・・・俺もやってやる!」


急に立ち上がりながら叫ぶマーナ。それに釣られてレンドも立ち上がり叫んだ


突然やる気になったマーナに首を傾げながら、クオンは鼻ちょうちんを作っているマルネスの代わりに具体的な方法を話す


まずは魔物を喰らう。もちろん生ではなく調理してでも可能だが、調理すると魔素が減る為その分多く取らねばならない。クオン曰く魔力が満タン状態では食えたものではないとのこと


せっかく魔物を倒すのだから依頼を受けてからとギルドに赴き、なるべく美味しそうな魔物の討伐依頼を探す


「素材としてなら見た事ありますけど食材として見た事ないのでどれが美味しいのやら・・・」


「俺も分からんな。黒丸は寝てしまったし、捨丸は言葉が通じないし・・・」


いつの間にか木刀になっていたマルネス。封印の布をしていないにも関わらず名前が上がっても顕現しなかった。そうなると名前やイメージで決めるしかなく、依頼書と睨めっこしながらどれを受けるか決める


「この前のシールドベアは肉質も硬そうだな」


「ですね。これなんてどうです?フォングスパイダー」


「ヒィィィ・・・止めてよ蜘蛛なんて・・・しかも毒あるし」


「ソウルマンティス・・・はCランクか」


「受けれるのはDランクまでですからね。やはりシールドベアを食べるしか・・・」


「食べるならフォングスパイダーだな。あれは身は少ないが食べれない事はない。シールドベアは肉が硬すぎて人間では噛みきれん」


後ろから声がして振り向くとそこにはカダトースで別れたはずのデラスの姿が・・・


「なぜいる?」


「か、観光だ・・・観光。別について来た訳では無い・・・ところで魔物を食べるのだろう?この中なら断然フォングスパイダーだぞ?」


しれっと話題を変えてクオン達の輪に入るデラス。呆れるクオンだったが、デラスの鑑定の力を使えば毒などで死ぬ心配は無くなる・・・特に必要ないとは言ったものの意外とすぐに使い道がある爺さんだった


「デラスさん、食べた事あるんですか?」


「あるぞ。不味いと言われたら食ってみたくなるのが探求者だ。どれほど不味いか気になるだろ?」


気になりませんと思うレンドとマーナだが、ここは素直に頷いた


「で、でも蜘蛛はちょっと・・・」


「捌いてしまえば蜘蛛か熊か分からんだろ?まあ、私なら1番食いやすい調理方法を知っているが・・・」


チラリとクオンの方を見るデラス


「でも確かフォングスパイダーって毒を持ってたような・・・」


「毒の部位を除けばいい。首の付近に毒袋がある」


チラッ


「そうなると捌く時にそこを気をつければ・・・」


「1度捌いてるから私なら可能だな」


チラッ


「デラスさんなら・・・」


「まあ、私の『鑑定』を使えば万が一もないがな」


チラッチラッ


「分かった・・・分かったよ。だから、チラチラ見んでくれ。こちらから同行を願おう・・・何と呼べば?」


「ムフ!・・・デラスで良い。共に依頼を受ける仲間ではないか・・・で、あの方は?」


キョロキョロしながらマルネスを探すデラス。クオンは無言で木刀と化したマルネスを差し出した


「まさか・・・そんな・・・フォォォォ!ぎ、擬態だと!?しかも無機質な物に・・・捗る・・・これは捗るぞ!」


両手で大事そうに受け取り、舐めまわすように観察しながら叫ぶデラス。ちょっと引く


「何が捗るか知らんが早速狩りに行きたい。準備をして行くぞ」


目が血走ってるデラスから木刀を取り返すと、名残惜しそうに悲しい顔をするデラス。それに呆れながら木刀を腰に差し、ギルドでフォングスパイダーの討伐の依頼を受けると準備の為に街に繰り出した


準備を終えた4人はフォングスパイダーのいる西側の森に向かう


依頼書の内容からすると森の入口付近に蜘蛛の巣を張り、森の中に入ろうとする獲物を待ち構えているとか


森の中の動物を狩る狩人や採取目的で入る者達にとって脅威になっていた


森の外側を少し歩くと獲物を待ち構えるように一面に張られた蜘蛛の巣を発見・・・気付かずに絡まるとあれよあれよとミイラ男の出来上がり・・・その後ゆっくり食べられるであろう


「蜘蛛の巣の付近にいるとは限らん。獲物がかかれば勝手にもがいて絡まるからな。ほれ、レンド絡まってこい」


「やですよ!デラスさんの方が美味しそうじゃないですか!」


「それを言ったら・・・」


「なんで私を見るのよ、クオン!・・・美味しそうって思ってるって事?」


なぜかクネクネしているマーナを放っておき、誰が犠牲になるか考える。ステラは言葉が通じないのでそうなると残りは・・・


「仕方ない・・・ホイ」


クオンはおもむろに木刀を抜き蜘蛛の巣へ。木刀はそのまま蜘蛛の巣へ絡まり、虚しくユラユラと揺れていた


「なっ!なんて事を!」


「クオンさん!?」


「ちょっと・・・え?」


3人が声を上げるがクオンはお構い無しに蜘蛛の巣に近付き木刀に話しかける


「黒丸!飯だぞ・・・お前が」


最後の「お前が」の部分だけ聞こえない程の声で呟く。飯と聞いた木刀が揺れ始め黒い煙に包まれると何故かメイド姿の黒丸が現れた


「いつ着替えた?」


「そこじゃないです!」


≪ん、寝る前に持って擬態して・・・≫


「答えるんですか!?」


焦るレンドと普段通りのクオンとマルネス。眠気まなこのマルネスが周囲を見て初めて異変に気付いた


≪・・・どんな状況だ?飯は?≫


「蜘蛛の巣に絡まってる。飯はお前だ」


≪訳の分からんことを・・・蜘蛛の巣?・・・クオン!お主!≫


マルネスがやっと状況を理解すると動こうとして蜘蛛の糸が絡みだす。動く度にその絡みつく量が増えていく


「安心しろ。齧られる前に助け出す」


≪ふざけるなー!妾をなんと心得る!うわぁ、ちょっと・・・むがー!≫


「よし」


「よしじゃないですよ!このままだと・・・」


「き、来たぞ!フォングスパイダーだ!」


クオンが腕を組み頷いているとデラスが上を指差して叫ぶ。フォングスパイダー・・・ジャイアントアントと同等か少し大きいくらいだが、足が長く見た目は2倍ほどの大きさに見える。8つの目で蜘蛛の巣に引っかかった獲物の様子を観察し、じっと動かない


≪クモー・・・タスケチクリー・・・タスケ・・・≫


暴れ回ったせいで顔まで包まり完全なミイラとなったマルネス。それを見たフォングスパイダーがカサカサと8本の足を動かしてマルネスミイラに近付く


「くっ!今行きます!クロフィード様!・・・!?」


「はあ・・・あの野郎・・・マーナ、手筈通りに」


レンドが慌てて蜘蛛の巣に突っ込もうとすると、肩を掴まれ振り向くとため息をつきながら首を振るクオンの姿があった。クオンは後ろにいるマーナに何やら言うと右目を開き蜘蛛の巣までジャンプする


新たに来た獲物に警戒し足を止めた蜘蛛は、元の場所には戻らず、5m程離れた所で止まりクオンの動きを観察する。巣に足をつけた時点で蜘蛛としては自分の勝ちを信じていた


「んー」


とクオンがマルネスの横に立ち、謎の声を発生させるとすかさずマーナが


「クオン!こんな時にクロフィード様にキ、キスなんて!」


と、叫んだ。その直後、ブリン!と音を立ててマルネスの顔を包んでいた蜘蛛の糸が弾け飛び、だらしのない顔が現れた


≪んー・・・ん?チスは?≫


「悪いな。順番待ちに割り込んでしまったみたいだ。お前の相手は俺の後ろにいる」


≪蜘蛛・・・だのう。見るからに蜘蛛だのう≫


「そうだな。モテモテだな」


≪・・・≫


マルネスは体を包まれたまま無言で宙に浮き、レンド達の所に着地する。そして、無理やり糸を弾き飛ばすとそのまま木刀へと変化して地面に横たわった


「クオンさん・・・少しやり過ぎでは?」


「うん・・・私も片棒担いだけど・・・やり過ぎだと思う」


「人如きが魔族である御方にする事ではないな」


「・・・つまり本当にキスをしとけと?」


「それはダメです」「ダメよ、てか犯罪よ」「万死に値する」


責められたので返すと怒涛の返事が来て流石のクオンも引いた。そんな事をしていると蜘蛛は背後を取り、自慢の牙でクオンを攻撃する


蜘蛛の糸の上を素早く動きその攻撃を躱すと蜘蛛が動きを止める。表情は変わらないが「え?なんで糸に絡まないの?てか、なんで頭にドラゴンを乗せてるの?」と言うように首を傾げた


「今日は食事優先で」


クオンは言うと風斬り丸を抜いて振り上げ竜巻を発生させる。そして、有無も言わさず蜘蛛はその竜巻に巻き上げられ、その体をレンド達がいる地点に叩きつけられた


「ヒィィィ」


蜘蛛が苦手なマーナが仰向けでバタバタ足を動かす蜘蛛を見て悲鳴を上げた時、蜘蛛の巣から飛び降りたクオンが首元に剣を突き立てる


しばらくバタバタと足を動かすが、次第にその動きは弱まり、やがて完全に停止した


蜘蛛の匂いにつられてか、ステラが目を覚まして蜘蛛の死骸目掛けて飛び立つが、クオンに尻尾を掴まれ文句を言うように鳴きまくる


それを無視してクオンがデラスに目線を送ると、デラスは手荷物から包丁を取り出し頷いた


☆☆☆デラス流フォングスパイダークッキング☆☆☆


まずは不要な足を全て切り落とします


次に討伐証明にもなる頭の部分をなるべく大きく切り落とします(その際に毒袋も同時に切り取ってしまいましょう)


胴体の皮を剥ぎ、身を取り出したら冷水で洗います


洗った身を細かく刻み、焼きながら塩コショウを振りかけて完成☆


「・・・簡単ですね」


「下手に味付けすると不味さが際立つ。シンプルイズベストだ」


皿に盛り付けてスっと差し出された。デラスの鑑定済みで毒は入っていない。後はこれを食して魔力を暴走させれば目的は達成される


まずはレンドが鼻を摘み口の中に1つ放り込んだ


「グエエエエ!」


ひと噛みもせず、口に放り込んだ瞬間に身体全体が異物として拒否した。不味いと言うより正に異物


慌てて自分の荷物から水の入った水筒を取り出し口の中を洗い流す


レンドのその姿を見てなんとかなると高を括っていたマーナが青ざめる。クオンの顔をチラリと見るが、いつもの顔がまるで「はよ食えや」と言ってるように見えた


意を決して1つ口に含むと・・・草むらへダッシュして嘔吐・・・年頃の乙女として男性の前で吐かなかっただけレンドよりは耐えてみせた


「凄まじいな、それほどか」


クオンはステラに頭を齧られながら、レンドとマーナの様子を見て呟く


「いや・・・これは・・・ヤバいです・・・もう挫けてしまいそうです」


顔を真っ青にして訴えるレンドは見るのも嫌なのか皿に対して顔を背けながら言うと、マーナも口を抑えながら頷く


「そこまでか?不味いが吐くほどではないぞ?」


「デラス、2人はギフトがなく、魔力も使った事がない。だから、身体が拒否してしまうんだ」


「なんと!つまり魔力が満タンって訳か・・・それで食べてなんの意味が?」


「魔力を暴走させる。無理やりこじ開けるんだ・・・器の蓋をな」


「ほう・・・面白いな。しかし、さすがに無理があるのではないか?身体が拒否しては今のように飲み込む事すら出来まい」


「そうだな。だが、1つだけ方法がある」


「方法?」


「俺のギフトを使う」


レンドとマーナは気が付いた。クオンのギフト『拒むもの』・・・もしクオンが吐くのを拒めば・・・


「クオン・・・日を改めない?今日はちょっと調子が・・・」


「クオンさん?目が・・・開いてますけど・・・」


「大丈夫だ・・・安心して食え。俺が吐くのを拒んでやる」


まずはレンドの頬を掴み口を強引に開けさせると1つ放り込む。口を手で塞ぐと見る見るレンドの頬は膨らみ始めた。目を見開き、涙を流しながら許してと乞うレンドに対してクオンは微笑み呟く


「飲み込まないことを拒む」


呟いた瞬間にレンドの喉が動き胃にフォングスパイダーの肉が落とされた。限界まで目が見開かれ、のたうち回るレンドに対して再度呟く


「吐き出すことを拒む」


バタバタと暴れまくるレンド。次第に動きが激しさを増し、そして・・・


「調理した料理一欠片で暴走か。満タンだと楽で良いな」


レンドの身体全体に淡い光が灯り、薄く揺らぐ


「全体強化か・・・レンド!俺を殴れ!」


クオンが叫び、その声に反応してレンドが無我夢中でクオンに殴り掛かる。バチィと激しい音がして、レンドの拳をクオンが受け止めると身体全体を包んでいた光が消えてレンドは気絶した


「クオン・・・お主一体何を・・・」


「後で説明する。まだ1人残ってるからな」


クオンがマーナを見つめてデラスに言葉を返すと、皿を片手ににじり寄る。マーナは首を振りながら後退るが・・・


「動くことを拒む」


動きを止められたマーナが先程のレンドと同じ事をされる。マーナは意識を失うなかで、せめて口移しで・・・と思いながら逝く


「マーナは武具強化か・・・双子でも違うんだな」


薄れ行く意識の中でクオンのそんな言葉が響いた



マーナが目を覚ますとレンドは既に起きており、クオンから何か話を聞いていた。頭痛のような倦怠感を感じながらも3人に近付き腰を落ち着かせる


「起きたか。今ちょうど魔力の説明していたところだ。気分が悪いなら後にするが」


「いえ、大丈夫・・・続けて」


「分かった、無理するなよ。じゃあ、最初から説明する。今感じてるであろう倦怠感が魔力切れの状態・・・これは時間が経つか魔物を食べれば回復する。で、魔力切れが起こった原因として、2人は蜘蛛肉を食べて体内の器が許容範囲を超えて暴走した・・・その時に魔力が表に出たから魔力切れを起こしたんだ」


「魔力が・・・表に・・・」


「そう。暴走状態だから、無意識だけど魔力を使用した事になる。で、魔力切れを起こして気絶した。暴走した時の魔力の出し方で得手不得手が分かるんだけど・・・レンドは身体全体に魔力を纏う全身強化型、マーナは持ってる物に魔力を流す武具強化型に特化してる。まあ、その辺はおいおい話すとして、今日は街に帰って休むとしよう。今デラスに馬車を手配してもらってる」


言い終えたくらいでちょうど馬車がやって来て3人の前に止まる。3人が乗り込むと馬車は方向を変えセガスへと向かい走り出した


レンドとマーナは宿屋に着くなり自分の部屋に戻り夕食も取らずに倒れ込むようにベッドに飛び込んだ


デラスもこの宿で部屋を取り、食堂で夕食を済ますと自室へ


クオンもデラスと共に夕食を済ませて自室へ戻りひと息ついた


ステラにデラスから譲り受けたフォングスパイダーの身を2切れほどあげて木刀を抜く。いつもなら勝手に顕現するはずのマルネスは木刀のまま身動き1つ取らなかった


「・・・ったく」


クオンは木刀を顔に近付け唇を押し当てる。すると黒い煙が発生してメイドマルネスが姿を表した


≪とうとう妾と・・・ムグ≫


「顕現し過ぎだ。魔力切れなんて起こして・・・」


抱きつこうとしたマルネスの口にフォングスパイダーの肉を放り込む。マルネスは少しムスッとした顔をしながらも咀嚼して飲み込んだ


≪ふむ・・・美味いのう。で?先程の続きは・・・≫


「するか、阿呆め。あれ以上魔力切れが続くと死ぬぞ?お前は人と違って魔力切れは生死に関わる」


≪・・・分かっておる・・・≫


「分かってない。前に言ったろ?俺の前では死なせはしない」


≪くっ・・・もう寝る!≫


顔を真っ赤にして木刀になって布団に横たわるマルネス木刀・・・クオンは壁に立てかけようと持ち上げるが、しばらく考えて布団の中に木刀を入れその横で眠りについた────


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