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最強の番犬と黒き魔女  作者: しう
『統べるもの』
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4章 24 統べるもの

ジュウベエとレンドがクオンを探している最中、五魔将シューネと遭遇してしまう


ファストの居城がもぬけの殻になった隙を見て、クオンが使用している部屋に訪れた3人を待ち構えていたのはクオンの側仕えをしていたミーニャ。そのミーニャからクオンはここには居ないと言われ、仕方なく探している時に起きた不遇な遭遇であった


ファストよりジュウベエ達の処分を任されていたシューネは素早く処理し、自らの与えられた任務に戻ろうとするが、2人は思いの外しぶとく粘る。魔の世に来てジュウベエの腕が上がり、レンドはテイラーの能力を引き継いだのも粘れている要因ではあるが、もう一つ決定的な要因があった


──────相性


シューネの魔技は『霧化』『分離』『魔毒』の3つである。レッタロッタの魔技をそのまま引き継いだのだから戦闘スタイルも自ずと同じになる。物理攻撃に対して『霧化』による防衛。3つ全ての魔技を使った毒による不意打ち。大抵の者は『魔毒』に侵される事により簡単に死に至る・・・はずだった


しかし、ジュウベエの能力『洗浄』は服の汚れを落とすだけではなく、侵入して来た『魔毒』をも『洗浄』する。つまりジュウベエ、そして、ジュウベエのそばに居るレンドに毒を打ち込んだとしてもすぐに『洗浄』されてしまう


シューネにとってジュウベエは数少ない相性の悪い相手だった


だが、自力はシューネに軍配が上がる。毒が通じぬのならと『霧化』と『分離』を駆使して2人を追い詰める


それでも決定打には届かないのは、単純にシューネの経験不足。レッタロッタの魔技を手に入れてから戦うのは初めて。上手く使いこなせているとは到底言えなかった。レッタロッタが自由に『霧化』『分離』を使い、クゼン達を翻弄していたのに比べ、シューネはようやく片腕を『霧化』『分離』し不意打ちを仕掛ける程度。戦闘狂のジュウベエやテイラーに守られているレンドに致命傷を与える事は叶わなかった


シューネは次第に焦りを覚える


脳裏にはゴブリンの巣窟に投げ込まれたレッタロッタの姿。そして、その後にゴブリンを産み続ける姿・・・おぞましいゴブリン達に蹂躙され、為す術もなく産み続ける姿は元五魔将の尊厳など欠片もなく、失敗すれば自分も同じ道を辿ることになると心に深く恐怖が刻まれていた


息の合った連携で攻撃してくる2人。どうせ『霧化』により効かないと分かっていても攻撃の手は緩めない。それがシューネの苛立ちをますます増幅させた


テイラーの守りは固く、レンドは未だ無傷。問題はジュウベエにあった。攻撃を重視し、ろくに避けない為に全身は傷だらけ。避けたとしてもギリギリで避ける為に傷は増えていく


レンドはジュウベエの攻撃が当たるようにサポート的な動きを見るが、それをシューネに見透かされ、集中してジュウベエを狙うようになりバランスが崩れる


「ジュウベエさん!ここは一旦引きましょう!」


「どこに~?それに逃がしてくれると思う~?」


引く事は叶わない。ならば相手が死ぬか自分が死ぬかしかないとジュウベエは突進を繰り返す


剣はすり抜け、相手の攻撃は神出鬼没。シューネが焦ろうとも絶対的な不利は変わらなかった。常に動いていたジュウベエが遂に肩で息をし動きを止める。すぐさまレンドがフォローに入るが、それを無視してシューネはジュウベエをここぞとばかりに攻め立てる


魔法、打撃、魔毒・・・毒は瞬時に消せるが、魔法で吹き飛ばされたダメージと打撃で受けたダメージは蓄積されジュウベエを追い詰める


とうとう膝を落とし、前のめりに倒れるジュウベエ。無視される不甲斐なさと倒れるジュウベエの姿がレンドを奮起させ、雄叫びを上げシューネに突進するが、シューネは執拗にジュウベエを狙う。レンドの剣は空を切り、地面を叩くと背後から血の吹き出す音が聞こえた


向い来るレンドすら無視してシューネがジュウベエに手刀を突き立てていた


「僕を狙え!!」


《だってあなた・・・つまらないのだもの》


シューネは仕方なくレンドに蹴りを放つがテイラーがそれを防ぎレンドが剣を振り下ろす。無論シューネは『霧化』しその攻撃をやり過ごす・・・繰り返される攻防・・・最初は弱いレンドに狙いを定めていた為に思うような攻撃が出来なかった。テイラーを超えてレンドにダメージを通そうとするならシューネはそれなりに本気を出さなくてはならない。その本気を出した時の隙をジュウベエが狙っているのは明らかだった


ジュウベエが倒れている隙にレンドをと魔力を高めるが、倒れているはずのジュウベエから不穏な気配を感じ、一旦飛び退いた


《面倒ね。やっぱりあなたから・・・》


シューネは倒れているジュウベエに駆け寄ろうとし、それをレンドが阻止しようと追いかける


するとシューネは何を思ったか突然振り返るとレンドではなく、レンドの後方に視線をやり驚きの表情をする


《なぜ・・・》


シューネの表情を見て後ろに何があるのか気になり振り返るとレンドは言葉を失った


ファストを先頭に視界を埋め尽くす程の魔族がいつの間にか存在し、こちらへと向かって来ていた


《ファスト様・・・なぜこのような・・・》


《帰りが遅いから見に来た・・・まさか五魔将が人如きに手間取っているとは思わないからな・・・何かあったのかと思い見に来たら・・・まさかまさかだよ》


《い、いえ!これは・・・》


《言い訳は要らない。さっさと片付けて戻るんだ。人の世は次の段階を迎える・・・終焉の時をな》


《その者達は・・・》


《ああ、人の世に送り込む。どうやら魔獣だけでは足りないらしい・・・しぶとい奴らだ》


ファストとシューネの会話を聞き、レンドは思考を繰り返す。ラフィスが起こした『招くもの』事件・・・数体の魔族を引き連れてディートグリス王国を混乱に陥れた事件はレンドも当事者であった為に詳しく知っている。たった()()の魔族が人の世に現れた事で国自体が傾きかけた。そして、今レンドの目の前に魔族は数百・・・いや千を超える数がおり、それらを人の世に送ると言っているのだ。何度思考を巡らせても人類の滅亡という結果に辿り着く


「・・・ジュウベエさん・・・」


今頼れるのはジュウベエだけ。倒れているジュウベエに助けを求めるも、それに応えるようにジュウベエがふらつきながらも立ち上がる


「どうした~?少年・・・具合でも悪いのか~?」


《くっ、まだ動くか!》


《シューネ、コイツらを使え》


《!・・・いえ、私だけで・・・》


《使え》


《は、はっ!お借り致します!》


有無も言わさぬ迫力にシューネは五体の魔族を選びレンドへと向かわせる。これでシューネはジュウベエに集中が出来る・・・もう言い訳は通用しない


「少年!耐えてな~・・・すぐ助けに行くから~」


《ふざけた事を・・・もうあなた達はお終い・・・核を抜いてゴブリンの餌にしてあげるわ!》


「それは君が行きなよ~。君の元の器が待ってるよ~?」


《くっ、ほざけ!!》


ファストの前で無様は見せられない。それこそジュウベエの言うようにレッタロッタの二の舞となりかねないから・・・焦る気持ちを抑え、動揺を隠しつつシューネはジュウベエを始末する為に動いた。一方魔族に囲まれたレンドは・・・


「ちょちょっと!なっ!まっ!」


五体の魔族にいいように弄ばれていた。打撃が防がれる事が分かると魔法を駆使してレンド自体を浮かせる。右へ左へと身体は飛ばされ、まるでボール遊びのボールのような扱い・・・ほとんど魔法が使えないレンドはダメージは受けていないものの脱出する術なく弄ばれる


《へぇ、面白そうね。確かにあれなら守っている魔技を発動してようとも防ぎようがないわね。どれくらい耐えられるかしら?》


「・・・」


宙を右へ左へと飛ばされるレンドを見てシューネが笑いながらジュウベエの焦りを誘う。しかし、ジュウベエはブツブツと何かを呟きながら剣を構え、一向にレンドの方を見る気配はなかった


《・・・から?何を言ってるの?まあ、いいわ・・・そろそろ終わりにしましょう・・・》


ジュウベエに地力では勝るシューネ。レンドという邪魔者が入らなくなった今、全ての力をジュウベエに向ける。再び激しい攻防が始まった



「うっぷ・・・ちょっと・・・まずい・・・かも・・・」


レンドはと言うと相も変わらず空の上。急激な横移動を強いられ、重力がかかり内蔵に負担がかかる。身体に纏っているテイラーではそこまで守る事は出来なかった


背後からの突風で前へ、正面からの突風で後ろへ・・・左から・・・右から・・・前後左右為す術なく繰り返される


「誰か・・・助け・・・ぐえっ!」


意識を失いかけたその時、何者かが宙に投げ出されてるレンドを咥えて飛び去る。何が起こったのか分からないレンドは新たな敵が現れたと咥えてる口を開き逃げようとするとひょこっと顔出す懐かしい顔と目が合った


「・・・マーナ!?」


「ちょっと!こんな空中で落ちたら死んじゃうでしょ?こじ開けようとするの止めてよね」


「あ、いや・・・もしかして、これ・・・ステラ?」


自分を咥えてるものの顔を改めて見るとどこかで見た顔だった。と言ってもこの大きさのステラと会うのは2度目であり、ドラゴンの顔の違いなど分かるはずもなく、色と何となくで聞くとマーナは当然と答えた


「それよりも何よあの数・・・って!なんか飛んでくる!」


「えっ・・・マーナ!魔法だ!逃げろ!!」


上空を旋回するステラ目掛けて魔族達が一斉に魔法を放つ。火、水、風、土の大小様々な魔法が放たれ、ステラは慌てて速度を上げて魔法を避けた


「問答無用ね・・・足りるかしら?」


《案ずるな、マーナ。我らの奇跡のコラボ・・・とくと見よ》


「なんだよ奇跡のコラボって・・・って、ステラが喋った!?」


「今更何を・・・言ったでしょ?ステラは喋ってるって・・・あっ、そうか、今までは私以外聞こえなかったんだっけ?・・・まあ、今はそれどころじゃないか・・・ジャバ!ランコ!チーボウ!行ける?」


《龍使いが荒いな》《りょーかいだわ!》《やっぱその名前ヤダな》


「私達も今咥えてるレンドを下ろしたら合流する!それまでお願いね!」


《これで貸し借りなしだ!》《古代龍の強さ・・・見せるだわ!》《やっぱチートスの方が良かった》


三者三様の返事が聞こえ、ようやくレンドの視界にも入って来た。赤、緑、茶色のドラゴンがステラの横に並んで飛んでいる様が


3匹のドラゴンは急降下し各々の口からブレスを吐く。炎が、竜巻が、岩石が魔族の群れに降り注ぐ


「凄っ・・・うわっ!」


ステラもまた急降下し、少し離れた場所に降り立つとレンドを地面に吐き出した


「ペっとするな、ペっと・・・うわぁ、唾液が・・・」


「贅沢言わない!で!?簡潔に今の状況を教えて!」


「あ、ああ・・・全部敵でアレが敵の親玉だ」


「・・・了解・・・あいつら相手だと魔力は吸えそうもないわね・・・ステラいける?」


《やるしかなかろう・・・なるべく大気より魔素を集めておいてくれ。それが奴らへと牽制ともなるはず》


「・・・そうね。さすがに大気中の魔素を枯渇させるのは無理だけど・・・ステラ達への供給を考えたらやるしかないわね・・・レンドはあるかどうか分からないけど安全な場所へ!」


「馬鹿にするな!僕だって戦える!」


「・・・私が見た時はいいように遊ばれてた気がするけど?」


「1対1なら・・・多分・・・なんとか・・・」


「え?相手は魔族よね?」


「僕の事はいいから!さっさと戻るぞ!」


「え、ええ・・・」


さすがにこの場でテイラーの事を細かく言う暇はないとレンドが押し切ると、少し不安げに頷く。マーナも同じくこれまでの状況を細かく説明する暇はなかった



ここに来るまでの間、マーナとステラは老龍であったジャバとの戦闘の後、ウォータードラゴンの縄張りへ向かった。そこで聞いたのは魔族による魔獣の乱獲の話。乱獲から逃げて疲弊していたドラゴン達には協力は望めないとマーナとステラは諦めて他の当てを探す。もしマーナ達が乱獲がファスト主導で行われている事を知っていたならば協力を仰ぐのは容易だったかも知れない


そんな事とは露知らず、マーナ達が協力者を探していると再び老龍ジャバが現れた。そこに敵意はなく、ただ人の世で死を遂げた炎龍王ジャバの事を聞きたいとファイヤードラゴンの縄張りへ招かれる


マーナはそこでファイヤードラゴン達の前で聞いた話になるけどと前置きしつつ炎龍王ジャバの最後を伝えた・・・今回マーナ達が魔の世に訪れた理由と共に


すると老龍ジャバから協力の申し出があり、マーナ達は快くその申し出を受けた。そして、ファイヤードラゴン達の協力の元、魔力を吸収させてもらい老龍ジャバをステラと同様にエンシェントドラゴンへと進化させる事に成功する


エンシェントドラゴンとなったジャバからの助言で魔族に追われていようとも一匹くらいなら協力を得られるのではという提案に基づき各ドラゴンの縄張りへ訪れ事情を話し、ウィンドウドラゴンからはランコ、アースドラゴンからはチーボウを借り受け、その度にエンシェントドラゴンへと進化させ今に至る


ちなみにランコとチーボウは名前がなく、共に行動するには不便だと名付けはマーナが行った


大冒険を経て四種族のエンシェントドラゴンを引き連れて散り散りになった仲間達とクオン達を探しに来てみればいきなり大量の魔族に遭遇し、更に実の兄がその魔族達に弄ばれている場面に遭遇する


多少面食らったが、魔族による魔獣狩りはコイツらがやっていたのではと直感的に感じ、それならドラゴン全体に協力を仰げたのにと後悔する


マーナは悔やみながらも先行して魔族を相手取るジャバ達の元へと急ぎ戦いに参戦する



五体の魔族対エンシェントドラゴン四匹とプラスレンド


その勝負は思ったよりも簡単に勝負が着いた


各エンシェントドラゴンが圧倒し、レンドも一体の魔族を辛うじて倒す事に成功する。すると意外にもファストから賛辞を送られる


《お見事・・・いい見世物だった。まさかエンシェントドラゴンと魔族の戦いが見れるとは・・・なかなか楽しませてくれる。もう少し見ていたかったのだが時間切れだ》


ファストが片手を上げると後ろに控えていた魔族達が一斉に動き出す。左右に分かれ動きレンド達を取り囲むように円を作る


「やっばりそうなるわよね・・・で、レンド・・・一応聞くけど何か考えがある?」


「ある訳ないだろ?・・・」


マーナに答えながらチラリとジュウベエを見る。未だにシューネとの戦いを続けているが旗色は良くない。こうなるとドラゴンの力を借りて一度離脱をと考えるが・・・


《逃げたくば逃げたまえ。その前に君達は私に操られ、人の世で人を減らす手助けをする事となるだろう・・・余興としてはそちらの方が楽しめるか・・・》


「・・・冗談じゃないわ!・・・アレ、性格悪過ぎない?」


「そうじゃければクオンさんを攫ったりしないだろ?・・・どうする?」


逃げようとすればファストに操られ同士討ちをさせられる。かと言って戦うにしても多勢に無勢、勝てる見込みはなかった


《逃げるならそこの男を咥えた時にそのまま逃げるべきだったな》


「仕方ないでしょ?ジャバ・・・あそこで魔族と戦ってる人も仲間なのよ・・・置いて逃げる訳にはいかないわ」


《そうよそうよ!魔族を前に逃げるなんてとんだ古代龍の面汚しだわ!》


《やっぱ手伝ってやるなんて言わなきゃ良かった。古代龍になれる・・・なんて口車に乗せられなければ・・・》


ランコが吠え、チーボウがブツブツと文句を言う。足並み揃わない状況にジャバがため息をつくと更に魔族達が動き出す


《魔力を・・・まさか一斉に?》


「えっ?もしかして・・・」


ジャバの言いかけた言葉を一瞬で理解し、マーナは顔を青ざめさせる。状況が飲み込めないレンドが説明を求めるようにマーナに視線を送ると、マーナは首を振って答えた


「魔族達が一斉に魔力を溜めているの・・・恐らく魔法を放つつもり・・・」


「そ、そんなの防ぎようが・・・」


《ないだろうな・・・我らは塵も残らぬよ》


《この地に降りた時点で死は覚悟の上。惜しむらくはもう少し古代龍として生きたかったものだ》


《充分だわ!逃げる一方だった魔族にひと泡吹かせただけで満足だわ!》


《やっぱ・・・最悪・・・》


ステラがレンドの言葉を続け、ジャバ、ランコ、チーボウが観念したかのように呟く。そうしているとファストはジュウベエと戦っているシューネを呼び寄せ、レンド達を滅する準備を整えた


《よ、よろしかったので?・・・その・・・ジュウベエの核は・・・》


《気にするな・・・少し気になっただけだ。さっさと終わらせて()に移らねばならない 》


戻ったシューネが恐る恐るファストに尋ねると、ファストはシューネをも見ずにそう答えた。ファストの『次』という言葉に敏感に反応し身体を震わすシューネ・・・レッタロッタを断罪した『次は無い』という言葉が思い出される


《そう怯えるな。今は人とドラゴンの散り際を楽しめ》


ファストは微笑みながら言うと下げていた手を再び上げる。この手が下ろされた時、魔族達は一斉に魔法を放ち、レンド達の命を断つこととなる


「・・・あれ~、何これ~?」


ようやく事態に気付いたジュウベエが、レンド達の元にやって来て頭をかいた。シューネとの戦いに集中し過ぎてマーナ達の存在も魔族達が周囲を取り囲んでいるのも今更気付く


「嘘でしょ!?本当に!?」


「あの・・・ジュウベエさん・・・どうしましょう?」


「えっ・・・無理~。どうにか出来るならボクが教えて欲しいよ~」


頼みの綱のジュウベエはあっけらかんと終わりを告げる。あまりにもあっさり言うジュウベエに対して苦笑いしか出ないレンドとマーナ。その瞬間いっそうの魔力の高まりを感じたマーナが表情を固くする


「・・・来る・・・」


マーナが呟いた直後、魔族達の手から次々に魔法が発動される。マーナは死を覚悟し、そのマーナに覆い被さるステラ。レンドはその場で地面に伏せ、ジュウベエは立ち尽くしたままファスト達を睨み付けた




「少年・・・君は本当に運がいい」


「はっ?えっ?・・・運?」


亀のように丸くなって地面に伏せ、いつまで経っても来ない衝撃に不思議に思っているとジュウベエが突然意味不明な言葉を投げかけてくる。運で魔法が届かないなんて事はあるはずもなく、恐る恐る顔を上げた




正面、左右に展開する魔族達が一様に地面に膝をつき(こうべ)を垂れる。まるで誰かを迎え入れるかのような様相にレンドがジュウベエに振り返るとジュウベエはファスト達とは反対側を見て微笑んでいた


「それとも・・・タイミングがいいのかな~?」


「さあな・・・探し物をしたり寄り道したりしてたから、遅くなったのは確かだ。それでタイミングがいいって言うなら、そうなんだろうな」


懐かしい声。そして、何故かジャイアントアントに囲まれていた時の事を思い出す。振り返るとそこには地面に膝を落とした魔族の隙間をぬって歩く者がいた


「はっ・・・ははっ・・・マーナ・・・助かったぞ・・・」


「えっ?何?・・・ちょっと!またステラは私を庇って・・・あっ!」


覆い被さるステラを押し退けてレンドの言葉の意味を知ろうとステラの身体から顔を出すとその意味を知り言葉を失う。死を覚悟した状態から一転、鼓動が早くなり胸が高鳴る


一方ファストは怒りに打ち震えていた。全てが上手くいっていた。後は詰めの部分だけだと言うのに邪魔をする者が現れたのだから怒りも一入だった


《なぜだ・・・なぜ貴様がここに・・・いや、なぜ魔技を使っている!?》


まるで平伏する魔族達


その間を歩く様はこの場を統べるもののように見えた


自らがあるべき姿をその者が体現している事に怒り叫ぶ


その者──────クオン・ケルベロスに


「なぜって・・・仕方ない、答え合わせをしようか──────」


クオンはレンド達の所へと辿り着くとファストを見て微笑む


クオンとファストの最終決戦が始まる──────

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