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PROLOGUE





……返せ






私の




私の翼を






返せ……






季節は夏。

本条ほんじょう さとるの通う高校は明日から夏休みだ。


「っしゃー!!遊びまくるぞー!!」


歳は18歳。大学受験を控えているにも関わらず髪は金、耳にはいくつものピアスがぶら下がっている。

見た感じ“不良”な悟だが、周りの“不良”に比べ真面目なところがある。

例えば…


「お前、最後の最後まで数学の授業だけ出たな…」


成績表を担任から受け取ると乱暴にかばんの中に投げ入れた。


「だって祥ちゃんの授業だし!!」


そう。悟は従兄弟である中尾なかお 祥一しょういちの担当する数学の授業のみ欠かさず出席していたのだ。

歳の離れた弟と妹が生まれるまでずっと祥一を兄の様に慕って来た悟にとって、自分の高校に教師として現れた従兄弟の授業は楽しみでしょうがなかった。


「…の割にはあまり成績は良くないな」


悟が授業に出るのは、祥一が喋るのを茶化すためだった。

そのため、例え出席日数は足りていても成績は良いはずがない。

“真面目”というのはあくまでも他の不良と比べて“真面目”なだけで、実際は対したことがないのだ。



終業式が終わった後すぐに悟は学校を飛び出した。

校門には今にも地べたに座り込みそうな格好で、“悟の友達”が数人たむろしていた。


「おーサル、終わったのか??」

「サルって呼ぶなっつってんだろ!!」


悟は周りから“サル”と呼ばれている。

“さとる”から“と”を抜き取ったものだ。

本人としては気に入っている訳もなく、何度正しても周りがサルと呼ばなくなる日は来なかった。


友人を尻目に悟は駆け足で家路へと向かった。

今日は終業式ということで、従兄弟の祥一が家に遊びにくるとのこと。

最近はテストの問題作りだの採点だの言って、1ヵ月以上も家に姿を現さなかった。

久々にゆっくり話が出来ると思うと悟は胸が弾んだ。悟はスキップ混じりで家へと向かった。

いつも通る道…右手には小さな公園がある。

砂場とすべり台があるだけの小さなものだ。


しかし、いつもと何かが違う。

入口の辺りで何か黒い大きなものが落ちているのが見える。


好奇心の強い悟は足を止め、その“黒いもの”に近寄った。

そこにあったものは…




「…人じゃん」



悟はその黒いものが人であることを確かめようと、頭らしきところを掴んでみた。どうやら意識はないようだ。



「ぅえ…ホームレスかよ。近寄るんじゃなかった…」

そういって離れようとしたとき、“ホームレス”が悟の腕を掴んだ。


「いっ……!!」


腕を掴んだ力はとても人間のものとは思えないほどのもので、思わず痛みに顔を歪めるほどだ。

振りほどこうとしても全くビクともしない。

蹴り倒そうと足を上げた瞬間、それは口を開いた。



『……せ』



小さすぎて聞き取れない。

しかし背筋が凍りそうなほど不気味な声で、まるで金縛りにあったかのように体が動かない。



『…えせ』



体が強張る。


「…っんだょ!!聞こえねぇんだょ!!」


悟が重い口を開くと“それ”の目が大きく開いた。



『私の翼を返せ』



その声は頭の奥の神経にまで響き、強張っていた体は震えが止まらない。


恐怖


普段なかなか恐怖というものを感じない悟にとって、今この感情をどう処理して良いのかがわからない。


目が離せない。


人間の声とは思えない恐怖の声と、黄色く光った“それ”の目が悟の体の自由を奪った。


悟はそのまま気を失ってしまった。

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