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ペア

 それは数年前のある日。

 突如として動物はある種の進化を起こした。凶暴化、身体の変化はさも当然のこと、更にはその動物の発達している部位が更に強化された個体も誕生した。それは獣だけにとどまらず虫、まして人間にまで及び、その被害の拡大は止まることを知らない。


 人はそれを『アルテリア』と呼称し、当然のことに排除しようとした。

 だがそれは剣や銃といった通常兵装では微動だにしない特殊な体質を持っており、当然のことながら人間は敗北を味わうことになる。

 国は止むを得ず核兵器を投入するがその勢いは止まることを知らず、とうとう人間の七割は死に人間の住める地の六割は怪物たちの支配下になった。

 人間は残った四割に結界を作り怪物達から逃れることになる。


 これを崩落と呼び、後世に聞かされる惨劇として世に刻まれることになる。



「……今月、どうしよ」


 目の前の機械に表示されている額に呆れを通り越して現実逃避してしまいそうな今日この頃。俺こと織村快はその額と財布の中の額を合わせていかに過ごすかを考え始める。


「二人でこの額……? 無理無理、絶対一週間もたない。あと二日後には家賃払わなきゃだし、それで食料とか電気代とか諸々計算に入れても……無理だ。絶対無理」


 取り敢えず取り出せる額は全部取り出して銀行から出る。

 残念なことに最近は仕事がないせいでろくなお金が稼げずにろくな生活を送れていない。そろそろ仕事が欲しいところだが……


「こんな弱小事務所じゃなあ」


 怪物たちが世間に認知されるようになってから新たな職業として奴らの討伐専門の『イェーガー』が登場した。

 多くの事務所はペアで創設されそこから雇われる形で他のペアたちが加わって大きくなって行くスタイルで、俺もその流れで事務所を立ち上げた。

 大抵は奴らが出現した場合にそれを排除しその活躍度によって報酬が振り込まれる感じなのだがそれもなく、一応いろんな依頼を幅広く受けているつもりではあるのだが認知度がなさすぎて依頼が滅多に来ない。


「なんか仕事来ないかな。こう……なんというか一発でドン! みたいな」


 なんて考えていてもそう来るものではないのだが。

 ぶっちゃけ俺たちの仕事がないってことは今は平和という事で喜ばしいことである。まあその分、俺の財布の中は減って行く一方なわけだが。


「そこのお兄さん」


「はい?」


 突然かけられた声、それ反応して振り向くと年老いたお婆さんが一人、ポツンと立っている。

 なぜか違和感を感じた。周りの景色とそのお婆さんとで、何か違和感があるように思えた。


「どうしたんですか?」


「いや特に変なことじゃないんだけどねえ。アンタ、イェーガーかい?」


「まあ、そうです、けど」


「ならよかった」


 お婆さんは依然としてそこにたっているだけ。なのに違和感は増すばかりだ。優しげな雰囲気は何かに飲み込まれていくようになくなり、その表情は無になっていく。


 これは。


「お前は、アルテリアか?」


 その言葉を言った瞬間、老婆だった存在は爆散する。いいや、老婆の皮を剥いで本性を現した。普通の子供が見れば吐いてしまいそうになるほどに憎らしい身体。その瞳は狂乱に満ち止める事は死以外にないとされる。


 アルテリア、人間の七割を亡き者にし人間が住んでいた領土六割を占拠した怪物。


『コ、ロスゥウウウウウウウウ、ゾォオ……イェーガアアアアアアアアアアア!!!』


 右のストレート。動作は遅くただの力任せの一撃を右に飛んで回避する。地面と接触した拳のインパクトは容易に地面を砕き衝撃波を生んで俺を更に吹き飛ばした。受け身をとって着地、両足に力を込めて全力疾走する。

 アルテリアを倒すには現在東京都を覆うものと同類の術式を込めた武器で攻撃する以外は跡形もなく吹っ飛ばすしか方法が無い。でなければ奴らの即時回復によって元どおりになる。だが残念なことに今そのどちらも行えない状態だ。なら他のイェーガーが来るまでここで足止めするかないのだが果たしてどこまで持つか、それが問題だ。


「せめて刀さえあればッ」


 あれさえあれば足止めどころか普通にアルテリアを斬って終われるのに銀行帰りに会うなんて思わず持ってきてない。タイミングが悪すぎる。


 そうこう思考を巡らしていることも許さずにストレートを打ち続けて来る。捌くのは簡単だ、のろまで力任せ過ぎて線が見えてる。ヒューマンタイプの推定レベル1と見て間違いない。どのタイプよりも取り分け特徴もなく喋れるだけの他と比べれば脅威度はそこまで高くないタイプだ。これだけの条件が揃っているのに最後の詰めがない。


「危ないですよ、快」


 その言葉と共に烈風が走る。

 瞬間、アルテリアの右足と左腕が切り落とされた。姿勢を崩したアルテリアの頭上に飛び木刀の刃を突き立て地面に叩きつけた。


「全く、私がいないと無茶をする」


「今回のは偶然だから、いや本当に」


「そうですか」


 アルテリアから離れ俺の隣に飛んできた幼女は右に仕込み刀、左に鞘代わりだった木刀の刃を構える。


「俺のはあったり」


「しません。快は下がっててください」


「あ、はい」


「では」


 失った四肢を再生しようとしているアルテリアに再度接近する。

 右腕による単純ストレートを顔をそらし回避しその間を縫うように刀を振るい右腕切断した。


『アアアアアアアアアアアッ!!! イェーガアアアアアアアアアア!』


「寝静まる時です。アルテリア」


 続く最後の四肢の切断。悲鳴をあげることすら許さないように顔面に木刀の刃を突き刺し距離をとった。

 距離をとった少女は深呼吸をとった後刀身の先を敵に向け、左手の指で刀をなぞる。


「焔一閃」


 刀身が真紅に染まる。紅蓮を超えそれは色黒く染まる血の赤を手に彼女は踏み込み、弾丸として彼女は弾かれるように飛び出した。

 名の通り焔のように赤の軌跡が一の閃が走った。目にも留まらぬ音速を超えた速度で放たれる一撃は捉えられることなくアルテリアを貫き通す。アルテリアすら置き去りにする一瞬にして最速の一撃にアルテリアは爆散した。


 事が終えたことを確認すると地面に落ちた鞘に刀を収め木刀用バックに入れた後こちらに駆け寄った来る少女。


「それで、銀行の方は?」


 ギクッ。

 その反応で察したのか彼女はため息を吐く。


「まあ最近の仕事量からしてないだろうなとは思ってはいましたが」


「今ので一応貰える、よな?」


「人への被害は出てないにしろこんなですし、出ない事はないでしょう。けれど少ないとは思いますが」


「……やっぱり?」


「また節約生活の始まりですね。とりあえず今日は火を使わないレシピにでもしましょう。後ついでに電気はつけてはいけません。わかってますね? 快」


「わかってるよ、皐月」


 黒く長い髪によく映える白いリボン。小学校の制服を着て人形のような存在にしてその佇まいは凛々しい、正しく大和撫子を連想させる少女。

 その名を桐ヶ谷皐月。ある事件以降俺が保護者となって共にボロボロアパートに住むペアの片割れ。現在アルテリアに対抗しうる存在として世間に認知されている『エクストラ』の一人。


「ならいいです。早くスーパーに行きましょう。今日は確か卵がセールだったはずです」


「え、卵とか豪勢過ぎない? 大丈夫?」


「経済的にはさしてダメージにはならないかと。あとは料理のバリエーションは卵だけでよく広がるのでいいと思います」


「最後のは自分の願望混じってたと思うんだけど」


「気のせいです。それが終われば警察に行って申請しなければ。現場報告は今のうちにしときましょう」


 バックからケータイを出すと慣れた手つきで操作してケータイを耳に当てる。程なくして繋がった相手に現場報告を済ました後ケータイの電源を切って再びバックに戻した。


「それでは、行きましょう」


「行こうか」


 差し伸べられた小さな手を取れば皐月は優しく包み返してくれる。


 これは俺と彼女、その二人で結成された『対アルテリア組織織村事務所』で起こるアルテリアと、その他諸々との戦闘記録である。

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