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ある晴れた日の昼下がり

作者: 萌咲

ん、ここは...

気づいたら目が覚めた。

太陽は頭の上まで登っていた。

ん…と伸びをし辺りを見回す。

何もない、辺り一面草原だ


ザワザワ、ザワザワ

「おい、人が倒れてるぞ」

「大丈夫か?」

「救急車、救急車!」


草原を歩き出す。

一歩一歩が心地良い、軽やかな気分だ。

気温はちょうどよく、ポカポカしている。

辺りは相変わらず何もない。

てくてく、てくてく進んでいく。

進んでいくうちに周りにポツポツと木が見え始めた。

鳥のさえずりがチチチチと聞こえる。

小気味いい。

とっても晴れやかな気分だ。


ピーポーピーポー

「救急車だ!」

「救急車が来たぞ!」

「おい、そこをどけ!」

「ここです!」

「通ります、通ります。」


ふう、と一息休む。

ちょうどよい木陰を見つけたので木により掛かる。

ざわざわ、ざわざわと風で木が揺れる。

ふー、気持ちいい。

なんとなく空を見上げる。

透き通った青い空を雲が通る。

まん丸い雲、細長い雲、曲がった雲、色んな形があって面白い。

いくら眺めても飽きないな、そんな気持ちになった。


ピーポーピーポー

「緊急車両通ります。」

「意識がありません。」

「脈は正常、呼吸もしています。」


また歩き出す。

おや、あれは…

一軒の小屋が見える。

中に入ってみよう。

ギィ

中を見てみる。

古びてはいるが一通りのものが揃っているようだった。

タンスにテーブルに暖炉まであった。

ん、メモがあるな

ひっくり返して見てみる。

Death will not lose death

"死に損ないに死を"

なんだろう、これは。

よくわからないものだ。

しかしなんだか無性に気になる。

悪いとは思うがとりあえずポケットにしまう。

別に普段から盗むくせがあるわけではない。

ただ、どことなく胸騒ぎがしただけだ。

他にめぼしいものはないようだ。

また宛もなく外を歩いてみようか。


ガタガタガタガタ

「どいてください!」

「通ります!通ります!」

「えらい急いでるな」

「さっき救急車きたもんな」

「急患かな?」


てくてくてくてく

歩いて行く。足が羽のように軽い。

いくらでも歩いていけそうだ。

「ぉーぃ」

後ろから声がする。

「おーい」

「ハアハア、追いついた」

見ると中年ぐらいのおじさんの人だった。

ずっしりとした体格だ。

「君がこれを落としたのを見たんだ」

「だから渡しに来た」

「はい、これ」

手渡しで紙を渡される。

「じゃ、俺はこれで」

トットットと先を走り出していった。

何を渡されたんだろう。

手元を見るとそれはさっきのメモだった。

でもなんで?

私が落としたのを知ってるの?

それに追いかけるほどだったの?

疑問が浮かぶ。

あの、と声をかけるには先程の人は遠すぎた。

が、まだ見える。

よし、追いかけよう。私は走り出した。


ピコン

「これから手術を開始する」

「メス!」


どんどん走る。

走るスピードが上がる。

目の横を過る草木の流れが早くなる。

これほど早く走れた気がしないほど早く走れる。

おじさんは遠くにいた。

だけど段々近づいては………いなかった。

早い、早すぎる。

どうみても私のほうが若い。

でも距離は離れていた。

まだ走れる。そう思いさらにスパートを切る。

走る、走る。

どんどん走る。

届け、おじさんまで…

私は空を飛んでいた。


空を飛び、走る、走る、どこまでも

走って走って。

ハア、ハア、ハア、ハア

空が回る。目が回ってるのか?

ぐるぐるしている。

よくわからない、距離が、速さが。

ドサッ

私は土の上に倒れた。


「気がついたかい?」

目を開ける。

茶色い天井が目に入る。

ここは外ではないようだ。

「ここは俺の家だ」

聞き覚えがある声だ。

そう、これは…

「おじさん!!」

私は大きな声を出した。

「君は倒れていたんだよ」

「僕を追ってたね、気づいてたよ」

「でも追いつけなかった」

「心配だから戻ったんだよ」

「ふふ、でもこれで二度目だね」

疑問に思う。

「二度目って何が?」

私は言った。

「君を助けるのだよ」

「まあ一度目は助けたと言えないかもな」

「ほら、メモを渡したの」

「ああ」

「それでこれが二度目だ」

スッとおじさんがカップに入れた紅茶を渡してくる。

温かい。

私はそれを一口飲んだ。

「自生してる葉を集めて紅茶にしたんだ」

「実は僕はこういうのが趣味でね」

「なんというか手作業が好きなんだ」

「君はどうだい?なにかやるの?」

「いやあ、私は...」

言葉が詰まる。

私はなにか好きだったのだろうか、なにかよくやる趣味のようなものがあったのだろうか。

わからない、というより思い当たるフシがない。

まるでロックが掛かったように思い出せない感じだ。

「わからないんです、なにも」

私は言った。


ピー、ピー、ピー、ピー

「なかなか時間がかかってますね」

「でも本番はこれからですよ」

「主治医もだいぶ汗をかいてますね」

「これは長い手術になりそうだ」


「そういえばどうしてここにいるんですか?」

「それがね、僕は気づいたらここにいたんだ」

「あっ私もそうです!」

「そうかい、そうなんだ」

「実はね、僕は人に会うのは今回が初めてではないのだよ」

「五人、十人、いやそれ以上会っているかもしれない」

「君もまた、そんな中のひとりだよ」

へえ、と私は言った。

この人はどんな思いでいるのだろう。

それに、私は今まで人に会ってない。

この人が会ったという人はどこにいってしまったんだろう。

ただそれを聞くのはちょっと怖い気がする。

聞いてもいいんだ。でももし何かあったら…

そう、殺人とか。

「今まで会ってきた人はどんな方でしたか?」

「いや、至って普通な方達だよ」

「年齢も性格も性別も違う」

「ただ、そうだなあ、一つ共通点があるとすれば皆一葉にここに来る前の記憶が無いことか」

「まあ、僕もそうなんだけどね」

ハハッとおじさんは笑う。

悪い人には見えない。そう私は思った。

よし、思い切って聞いてみよう。

聞くだけだ、大丈夫。怖くなったら逃げればいい。

後方の逃げ道を確認して私は聞いた。

「今まで会ってきた人はどこに行かれたのですか?」

「…」

少し長い沈黙が襲う。

やっぱり、聞かないほうが良かったか。

「いやあ、それがね。いつの間にか消えてしまったんだ」

「消えてしまった?」

「そうなんだ」

「不思議な場所だよ、ここは」

「ここを出て違うところに行くという人にはもうそれきり会わないし、こんなこともあった」

「部屋に泊めている人がある日ぱったり消えたんだ、忽然とね」

「その日は普段より起きてくるのが遅かったから気になって下手に覗きに行ったんだ」

「そしたらいなかった」

「出入りしてる様子もなくてね」

ふう、とおじさんは紅茶を一口飲む。

「でもね、私はここが気に入ってるんだ」

「なんだか新天地みたいでね」

「ここがとっても、落ち着けるんだ…」

「そうでしたか…」

「だいぶ話し込んでしまったね、今日はもう夜遅い。良ければここに泊まっていくといい」

この人は悪い人ではない。好意に甘えてもいいのではないだろうか。

ふと窓に目をやると外はもう真っ暗だった。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「部屋は地下にあるよ、ゆっくりしていくといい」

バタン、と部屋に入る。

小奇麗にまとまっている。ベッドはふかふかだ。

ボン、と横になる。

「ふうー、今日はいろいろあったなあ」

「不思議な場所、か」

ポケットからゴソゴソとしまった紙を取り出す。

"Death will not lose death"

「死にぞこないには死を、かあ」

「どんな意味だろう、これ」

「でもなんとなくわかる気がする」

「小屋に置いてあったけど、まるで前から持っていたかのような…」

そんな気がする。

これは前からあった。たまたま、その所有物が小屋に置かれていただけだ。

そこに違和感は感じない。ここではそういうことが当たり前のような気がしてならない。

不思議な事がある場所、それがおじさんの言っていた不思議な場所だ。

「なにか名付けてもいいかもね」

そんなことを思った。明日おじさんと話してみてもいいかもしれない。

ただ私は思う。この世界は異常だと。

普通ではない。わたしはこんなところにずっといるのはごめんだ。

そう、思う。ここにずっといてはいけない。

私はそう、目覚めなければいけない。

生きなければ。そう、起きなければ…


ザワザワ、ザワザワ

「娘はどうなったんですか!」

「無事なんですか!」

「大丈夫です、手術は成功しました」

「彼女は起きます。そう、何もなければ」


パチ、目が覚める。

白い天井が見える。

ここは…病院?

そうだ、私車に轢かれて、それで…

良かった、と心に思う。

なんだか不思議な夢を見ていた気がする。

でもそれは今の現実でも起こりえそうな、そんなリアリティがあった。

まるで、自分が失くした物を探す旅のような…

でも起きれて良かった。そう、心に思う。

「君はこの場所にいちゃいけないよ」

そんな声が、聞こえた気がした。


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