注ぎ方を誤った愛+おまけ
前話の関連
『おとーさま!』
『何だ、ミーナ』
『おべんきょー、たくさんできるようになりました!』
『・・・・』
ああ、可愛いな、俺の娘。
褒めてほしそうに頭を強調するような体勢で、俺に擦り寄ってくる。
いつも通り、反射的に手を伸ばしかけるが、すんでのところで踏みとどまる。
いかん、このままでは娘は思い上がる。妻と話し合ったばかりではないか。
当時の俺は、そんな馬鹿なことを考えていたわけで。
『その程度、俺の娘ならば当然だ。あまり調子に乗るな』
『おとー・・・・さま・・・・?』
悲しそうな目。やめてくれ愛しい子よ。全てはお前の将来の為なのだ・・・・!
心を鬼にして、俺は言葉を続けた。
『思い上がるなよ、その程度のことでは駄目だ。精進しろ。何か明確な成果を見せたとき・・・・まあその、なんだ。存分になでなでしてやるから・・・・』
後半になるにつれ、非情になりきれず語気が弱まってしまった。だって、可哀そうだったし。
『・・・・!』
何か悟ったような表情をして、コクリと頷いたイルミアナ。
『いままでいじょうにがんばればいいのですね』
その言葉通り、娘は今まで以上に努力を重ねる子になっていった。
数日後のことだ。
『おべんきょー、またすすみましたよ!』
『その程度当然だ』
『・・・・はい』
残念そうな表情をしたかと思えば、次の瞬間にはやる気に満ちたものに様変わり。
俺が冷たくあしらえば、目に闘志の炎を滾らせた娘が自分の部屋へ戻っていく。その繰り返しだった。
『おべんきょー、みんなのなかでいちばんになりました!』
『・・・・マジで?』
どうやら同年代の貴族の息女の中で、一番学力高くなっちゃったらしい。この子。
流石にこれは褒めてもイイよね・・・・。
最近娘をほめる回数を自らめっきり減らしてしまった俺は、娘の頭に触れられないことから、大変飢えていた。
具体的には、腕の震えが止まらず、娘の甘えた顔を毎夜夢に見るようになった。
一種の禁断症状だったと、俺は思うね。
『よく頑張ったなぁ!偉いぞっ!』
思いっきし、わしゃわしゃと頭を撫でてやる。
イルミアナは、一瞬何をされているか理解できない、という顔をして、
『やった・・・・!ほめてもらえたっ』
嬉しそうに顔を緩める娘を見て、どれだけ必死に、この子が甘えたい気持ちを我慢していたか思い知った。
厳しく躾けはしても、もう少し褒める頻度は増やそう。
そうしないと、俺もイルミアナも持たないだろう。特に俺。下手すれば禁断症状悪化して死んじゃうかもしれないよ。
他にも、
『ミーナ、お前の容姿は凡庸だ』
『よーし?ぼんよう?どういうことですか、おとーさま』
『別に言うほど可愛くないということだ。お前は可愛くなどない。『普通』だ。いいな?お前は、可愛くない。お前を可愛いとはやし立てる者がいても、あくまでお世辞だ。本気じゃない』
『わたしは、かわいくない・・・・』
『そうだ』
もう最後には半ば洗脳に近いこともしてたと思う。
本当はこの世のどんな存在より愛らしい娘だったが、自分の容姿に自信を持ちすぎて他者を見下さないか不安になった。
それならば、端から己の容姿が周りより劣ったものであると、思い込ませればいい。
当時の俺は、この発想天才じゃん!なんて思っていたが、今思い返せばあまりに娘が不憫だ。
将来に目を向けすぎて、目の前にいる小さな我が子への配慮が疎かになっていた。
それでもひねくれずに育ってくれたのは、教育云々以前に、娘が生来持ち合わせた性質がよかったのかもしれない。本当に悪いことをした。
親父に悪気はない。無い頭を振り絞って、娘の将来を案じた結果、ああなったのだ・・・・!
感想っ!ありがとうございました!
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有りがたき幸せでございます。