注ぎ方を誤った愛
父親の独り言です。
何でこの世界に写真があるんじゃ設定ガバガバやぞこのクソ作者がっ!と思う読者様もいらっしゃると思いますが、どうかご容赦ください。娘の思い出に浸る父親、という構図を考えたら、アルバムの頁捲る中年の姿が思い浮かんだもので。
「うちの娘、可愛すぎないだろうか」
娘の成長記録と写真を見返して、俺は呟いた。
だって、仕方あるまい。母譲りの美しい黒髪に、見るものを魅了する藍の瞳。
その上、やればできる子だ。というか、何かをやらせれば、何でもできるようになってしまう天才肌な子だ。
その上、謙虚で自意識の低い。・・・・それはまぁ、俺と妻の教育のせいでそうなってしまったのだが。
我が娘、イルミアナは、とても器用で、何でもできる子だった。
ひとたび物事に熱中すれば、それを長年やった者以上に上達させる。
最初はそのことにただ感心し、褒めまわしていた。
でも、気づいた。
このまま褒め続けて成長したら、この子はとても傲慢な性格に育ってしまうのではないかと。
危惧した妻と俺は、娘を厳しく躾けることにした。
まず、すぐに褒める、ということをしなくなった。
娘が異常な早さで物事を上達させても、その程度のこと誰にでもできるから思い上がるなと、厳しく接した。
娘の容姿も、可憐でそんじょそこらの令嬢より愛らしかったが、お前は美しくなどないむしろ他者より劣っている、などと嘯き、容姿の面でも性格がひん曲がらないよう、注意した。
全ては娘の為・・・・しかし、ちょいとばかりやりすぎてしまったようだ。
気づいた時にはすでに遅く、娘はことあるごとに己を卑下する自己評価の低い性格になってしまった。
傲慢になるよりはいくらかマシだが、両親の育て方のせいで性格が歪んでしまったのだから、罪悪感がそれはもうすごいのなんの。
お詫びというかなんというか、自分たちが持ちうる権力と地位と伝手の限りを尽くし、娘の婚約者にふさわしい、伯爵家の男を見つけ出した。
ディードリッヒだ。武人で戦場での評価も高く、凛々しく、貴族令嬢たちにも大人気だという漢。
可憐で器用さに恵まれた娘に相応しい相手、そう思っていたのだが。
娘は、自己評価の低い性格であると同時に、一生懸命で、頑張り屋に成長していた。
ある時から、自分が何かを成し遂げても、両親に褒めてもらえるという機会が極端に減ったことに気付いた彼女は、それまで以上に物事に没頭し、上達させ、また褒めてもらえるようにと努力するようになっていたのだ。
それが災いし、どういうわけかディードリッヒのプライドに傷をつけたらしい。
彼は娘との婚約を破棄する、などと言い出し、エルドノム家とも縁を切るなどとぬかしやがった。
ふっざけんなよテメー。娘は一生懸命お前に尽くしてたじゃねえか。なのに、何が『自分より優れてるのがむかつく』だコラ。寝言は寝て言え。いや、例え眠ってたとしてもその発言は許さねえな。むしろ永眠させてやりたいね。
我が家と縁を切るのなんて、別にどうでもいい。俺と妻はただ、娘への贖罪のためだけに、ディードリッヒとの婚約へ持ち込んだのだ。
娘は政略結婚だと思い込んでいるようだが、それは断じてない。全ては、娘の幸せのために・・・・。
娘が幸せになれるというなら、相手が例え平民であっても別に構わないくらいだった。
没落上等。娘の為なら、別に家柄なんてどうだっていいさ。
だからこそ、いい相手だと思っていたのに、その実プライドに縋るばかりの小物だったとは、ディードリッヒには失望したよ。もしアイツが伯爵じゃ無けりゃあ、俺アイツのことぶん殴って沸騰した油ん中ぶっこんでたね。
まあ、娘が悲しむだろうからしたくてもできないけど。
ディードリッヒがあんなゴミ屑だったことに気付かず、娘の婚約者に選んでしまったのは完全にこちらの落ち度だ。また娘に謝罪しなくてはいけないことが増えた。
一刻も早く、娘には次の相手を見つけて、幸せになってほしかった。
そんな折、娘がイミラウス公爵に求婚を受けたと妻から聞いた。
何としても、そのまたとない幸せになれる機会を手にしてもらおうと、妻は娘をうまく騙し、家の地位向上のためだと嘯いて、その求婚を承諾させたという。
ナイスだ俺の嫁!しかし、相手のイミラウスだが、なかなかの美形だというのに、異性に関する噂は全くと言っていいほど耳にしない。もしや男色家なのかと思えば、そういうわけでもないらしい。
ピュアで恋愛に奥手な男なんだと俺は予想したね。しかも、爵位は公爵。
娘はいい相手を釣り上げたものだ。うちの娘の良さがわかるとは、イミラウスの奴、なかなかいい目をしている。
ともあれ、これで一安心。
やっと、娘は幸せになることができるのだ。
幼少期の躾で彼女を歪めてしまった分、娘が困ったら絶対に助けてやりたいし、助けを求められたらどこへだって駆け付けるさ。すべては、贖罪と娘の幸せの為。
娘は、幸せで温かな家庭を築くことに憧れているようだった。
その憧れが、すぐにでも叶うことを切に願い、今日も娘が出て行ってしまった自宅の一室で、思い出に浸る。
「できることなら、孫の顔見てから死にたいものだね」
なお、そのままイルミアナ父が彼女を甘やかし続けた場合、結構ヤバい性格になってました。
イルミアナがひねくれずに育ったのは、両親の洗脳・・・・げふんげふん教育の賜物ではあるんですよね・・・・。
次話は、父親視点のおまけです。
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