婚約破棄なんて、あんまりです。
見切り発車の、衝動買いならぬ衝動書き。
咄嗟に書きたいと思ったため、設定ガバガバでも許してください。
「お前となど、結婚したくない」
「えっ・・・・?」
「婚約は破棄だ。二度と顔を見せるな」
「ど、どうしてっ・・・・?」
「お前は何をさせてもすぐに上達する。それが腹立たしいのだ。お前は、夫になる存在である俺の後をただついて回ればいいのだ。貴様のような夫の顔を立てられない女、必要ない」
「そんなっ、あんまりです・・・・!」
私は今日、婚約者である、ディードリッヒ伯爵に婚約を破棄されました。私はただ、彼を支えられる強い妻であれるよう、努力しただけなのです。
それが腹立たしい?・・・・努力を、踏みにじられたような気分でした。事実、私の努力の意味は彼との婚約とともに、消えてなくなりました。ただの政略結婚でした。けれども、お相手のディードリッヒ伯爵は、とても凛々しいお方。貴族令嬢からの支持も厚く、私も尊敬の念を抱いていました。だからこそ、彼の名に恥じぬ、よき妻であろうと、頑張ったのです。
彼が仕事に疲れたときの為、癒しの魔法を練習し、極めました。いつの日か、彼が大きな戦いに出陣するとき、もしもの時にお力添えできるよう、剣術を極めました。他にも、料理の腕も上げました。家事だって、使用人がいなくとも一通りできるよう、上達させました。
そうして今日まで、伯爵夫人になる身として、奮闘してきました。結婚したら、子供は何人出来るだろう、温かい家庭を築きたいな、などと夢見ながら。・・・・それが、このざまです。酷いです。あんまりです。もうやさぐれました。
「はぁ・・・・」
とは言ったものの。そう簡単にやさぐれて、拗ねるなんてできっこありません。私は現在、傷心のまま、社交場に来ていました。両親は鬼畜です。婚約破棄されたばかりだというのに、立ち直るまでの時間を与えて下さらない。
早く次のいい相手を見つけろ、だなんて。私は、ディードリッヒ伯爵にすべてを捧げる覚悟だったのです。そう簡単に、次に移るなんてできっこありません。ああ、私には出すぎた夢だったのでしょうか。あのような御方と結婚するなどと。
本当のところ、私は地位も名誉もどうだっていいのです。相手だって別に、凛々しい方でなくてもいいのです。ただただ、温かい家庭を、互いに愛し合う二人で築いていく、そんな人生に憧れていたのです。
そんな憧れも、叶えられる気がまったくしません。もう人生のどん底です。婚約破棄なんて、滅多にあることではありません。婚約者同士、どちらかが問題を起こしたと考えるのが自然です。この場合、大多数の人が、ディードリッヒ様を被害者だと思うでしょう。普段の行いの差です。戦場でも、功績をあげ、容姿も整って令嬢たちに大人気の伯爵と、地味で努力することしか能のない、子爵令嬢。どちらが問題を起こしたかなど、火を見るより明らかです。私なら、確実に子爵令嬢の方が悪いのだろうと思いますもの。婚約破棄を起こし、実家の名を汚してしまいました。もう、誰もこんな娘なんて、貰ってくれないでしょう。
ああ、私はこれから、夫という存在と縁のないまま、天寿を全うすることになるのでしょう。泣きたくなります。
「はぁ・・・・」
ため息をつきたくもなるでしょう。泣かずに耐えられているのが、自分でも不思議でなりません。
「誰か・・・・もらってくれないかな」
そんな願いは、誰かに届くはずもなく―――――、
「そのようなこと、美しい女性が言うものではありませんよ」
と、届いたぁ!?
「イミラウス様!?わ、私のような地位の低いものに、何かご用でしょうかっ!」
あわあわと、対応に困っていると、彼―――――レイダス・イミラウス公爵様は、ニコリと華やかに笑い、
「一度落ち着いてください。そうだ、あちらにとても美味しいワインがございます。ご一緒していただけませんか?エルドノム嬢」
「へ?そ、そんなっ!恐れ多いです・・・・私の家は子爵。公爵様とでは・・・・!」
「そんな位は今関係ない。私は、イルミアナ・エルドノム嬢、あなた自身と話がしたいのです」
「っ・・・・」
なんなのでしょう。なんなのでしょうか、この男性は・・・・!
私、あなたと以前、お話したことほとんどありませんよね?しかも、そのほとんどの中でさえも、当時の私は夫だけを見ていようと心がけていたので、適当にあしらってしまったはずです。なぜ、そんな私に、指名するようなこと・・・・!
この公爵様、かなりの美形なのです。男女問わず、ともに引き付ける絶世なる顔立ち。光の反射で、美しく輝く金色の頭髪。やや伸ばしており、後ろ一本にまとめてある。長身で、スーツの下の筋肉もしまっているとの話で、容姿が完成されすぎていて、もはや怖いくらいです。性別の違う私ですら、少しばかり嫉妬してしまいます。
そのような方が、私に何の用なのでしょう。
「それで、話、とは?」
要件だけ問います。だって、周りの目がグサグサ突き刺さるのです。公爵様は、その爵位だけでも、私とでは立場が大きく違います。その上容姿も抜群。何事だ、と、他の社交界の面々はこちらを見据えてきます。その中には、令嬢たちの怨嗟、嫉妬の目も含まれていて・・・・ああ、もう家に帰りたい。
今日は婚約を破棄されるし、公爵様と二人きりにさせられるし、散々です。
「いえ、その・・・・・あなたが、ひどく落ち込んだ顔をしていたもので。何か力にはなれないだろうかと思いました」
なんだ。やはり同情心から来る行動なようです。そんなものでしょう、子爵令嬢に、好き好んで近づく公爵様なんているはずありませんとも。大方、あまりにもひどい顔だったから目に入ってしまったため、情けから慰めようと連れ出した、と言ったところでしょう。
「わざわざありがとうございます。少々、悲しい出来事があっただけですので」
「滞りなければ、その悲しい出来事、教えていただけないでしょうか。私は、あなたの力になりたい」
「・・・・どうしてそこまで?」
「それは、言えません」
言ってはいけないことですので、とイミラウス公爵は、口の前に一本指を立てました。そんな動作だけで、どきりとするくらい絵になる男性です。本当に、住む世界が違う。けれども、公爵様直々に私を励ましに来てくださったのです、感謝の念を込めて、事情を明かすべきなのでしょう。
どうせ、遅かれ早かれ、私が婚約破棄されたことは、貴族たちの情報網によって広がっていくでしょう。本当に生き恥です・・・・。
「実は、婚約者に、婚約を破棄されてしまったのです」
「・・・・!なんと、それは本当ですか!?」
「はい・・・・」
すると、何故かイミラウス様は、きらきらと、宝石のようにその眼を輝かせます。正直、少しカチンと来ました。だって、あんまりじゃないですか。その様子ではまるで、私の婚約がなくなったことを喜んでいるかのようです。
「私とっ、結婚していただけないでしょうか!!!?」
公爵様直々の爆弾発言です。それを聞いた私の表情は、さぞ間抜けなものと化しているでしょう。
「は?えっと、からかって、いらっしゃいますか?」
なんとかそう言い返すと、心外だとばかりに公爵様は苦笑する。
「あ、いえ・・・・つい、舞い上がって告白してしまいました」
「は?」
先ほどから彼はなにが言いたいのでしょう。
「すみません、一度落ち着きます」
「は、はぁ・・・・」
「私と、夫婦になっていただけないでしょうか」
「は、はぁ・・・・って、ハァ!?」
私がつい大声を出すと、辺りがざわめきました。まずいです、このような発言、他の貴族令嬢に聞かれたら、私は殺されてしまうでしょう。
「先ほどから、何を仰っているのですか!?からかうのはやめてください!社交辞令にしても、限度がありますっ!」
「私は本気ですよ。まだ傷心の女性にこのようなこと・・・・すぐには受け入れてもらえないでしょうが、絶対にあなたを手に入れます。せっかく湧いたチャンスだ。絶対に逃さない」
なんなの・・・・!?なんなんですかあなた・・・・!なんなんですか・・・・!?
頭がぐるぐる・・・・もうなにがなにやらわかりません。不意に、肩を突かれました。まさか、もう令嬢の回し者が私を抹消しに・・・・!?絶対これ冗談ですから!私、言い寄られたりなんかしてませんから!殺さないで・・・。
恐る恐る振り返ると、そこには悪い笑みを浮かべた母がいました。嫌な予感がします。こういう顔をする時の母は、決まって何かよからぬことを考えているのです。耳元に彼女の口が寄ってきました。何事か、小さな声で囁かれます。
「ミーナ、その告白、受けなさい」
ミーナというのは、私の愛称です。
「な、何を言ってるの!?お母様・・・・!」
「しっ、声が大きいわ。話を聞いて」
母はさらに顔を凶悪なもので染め上げ、私に近づいてきます。
「これは、うちの地位を向上させるまたとない機会よ・・・・。相手は公爵様。申し分ないどころか、これを逃せば二度と回ってこない好機・・・・!しかも、相手から言い寄ってきてくれているのよ?絶対、受けなさい」
「で、でも・・・・」
「お願い!一生のお願い!家を助けると思って・・・・」
そんな・・・・。やはり、私はエルドノム家にとって地位向上の、政略結婚の道具でしかないようです。我が母ながら、家柄への執念が恐ろしいです。でも、母の言うことは間違ってはいません。むしろ、私にとっても好機なのではないでしょうか。このままいけば私は、ほぼ確実に誰にも貰ってもらえず、一生を過ごすことになるでしょう。そんなのは嫌です。私には、愛する夫と幸せで温かい家庭を築くという、何より叶えたい人生の夢があるのです。
半ば諦めていたものに、光が差した気がしました。でも、まるで利用するかのようで、イミラウス様に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。何の目的か、私に求婚してきた彼。そこに好意など、微塵も含まれてはいないでしょう。こんな、何のとりえもない、夫となる人の気持ちにも応えられないような女・・・・自分で言っていて悲しくなりますが、事実です。
何かしらの打算があるに違いありません。ならば、彼もまた私を利用しようとしているに決まっています。それなら、私も少しくらい彼を利用したっていいじゃありませんか。気持ちが通じていないでしょうから、温かい家庭、というのは無理かもしれませんが、家庭を築くという夢だけは、なんとか叶いそうです。もう多くは望みません。
自分に言い聞かせ、行動を正当化します。そうしなければ、罪悪感で彼の顔が見れなかったでしょうから。
「・・・・お受けします。どうか、私と結婚してください」
なんとか笑みを浮かべて言えた。
彼の顔に宿った感情が、あまりに大きな歓喜の色を帯びていたので、
「本当ですか!?ありがとうございます!」
私はその感情に匹敵しそうなくらいの罪悪感に襲われました。
すぐに完結させると思います。
計画性皆無の僕ですので、長編執筆には不向きです。
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