それは、歴史を正す前章
『私は、悪くない!!』
紫紺の瞳を煌めかせ、彼女は断頭台に告げた。
その声を聞いたものはなく、彼女は、露と成り果てた。
彼女の名は、プロフティア・メテンサルコシィ
彼女は、その名を後の世まで残す。
稀代の───悪女として。
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「────稀代の悪女が残した言葉は、現実とならず、その国は、現在も存在する。その治世も優れたものである………ねぇ」
少女は、その手に余るほどの本を器用に閉じ、椅子に腰掛け直した。
「………第1に、彼女は、悪女とは程遠い人間だ。どの本もどの本も、偽りばかり。そこまでして、プロフティア・メテンサルコシィの罪は重いのか、王家。」
少女は、机に積み重なった本を睨み、唾棄する。
「そもそも、彼女が悪女などと呼ばれる発端には、王家がいた。
なぜなら、彼女に、悪を担う気持ちなどこれ一つ無かったからだ。
彼女は、ただ平穏を求めていた。誰にも見られぬ世界で、ただただ平穏を望んでいた。そして誰よりも、誰かに必要とされたかった。
勉強に励んだのは、知性を磨けば、誰かに認めてもらえると信じたから。
女だてらに剣を、拳を奮ったのは、誰かを守れるかもしれないと信じたから。
マナーを身に付けたのは、誰にもひけに取らぬようにするため
全ては、平穏を、誰かに認められることを、望んでいたからだった。」
少女は、淡々と、否、激昂を滲ませながら、誰に言うのでなく、語り続ける。
「何も!王家の……皇太子の婚約者になど望んでなかった!
プロフティア・メテンサルコシィは、15のとき実力を認めれた。
皇太子の婚約者に相応しいと
彼女は、純粋に喜んだ。
やっと、誰かに認められた。
誰かに必要とされた。
存在意義を手にいれた。
なのに
なのに!あの王家の者共は、彼女を無惨に切り捨てた。何が、真実の婚約者を守るための影武者だ!ふざけるな!彼女だって、生きていたと言うのに!彼女だって、守られるべき存在だと言うのに!
王家は………あの男は………!」
『プロフティア・メテンサルコシィ。お前との婚約は、してなどいない!王家の、皇太子の婚約者の名を語った罪は重たい!それに、真実の婚約者を苛め抜いたこと、更なる重罪となる!貴様には、露となってもらう!』
「…………あの男も、プロフティア・メテンサルコシィに行ったこと、忘れているのか」
少女は、先程の激昂とは裏腹に静かな声で呟いた。
「……………プロフティア・メテンサルコシィは、『稀代の悪女』ではない。
それは、私が一番知っている。」
少女は、椅子から立ちあがり、腰に剣を下ろした。
「なぜなら、私が、プロフティア・メテンサルコシィであるのだから!」
紫紺の瞳を煌めかせ、少女は叫んだ。
「二度目の人生において、私は、誓う。プロフティア・メテンサルコシィとして
私≪プロフティア・メテンサルコシィ≫の歴史を正す!」
誰に言うのでなく、ただ語り続けた少女の言葉は、やはり誰にも届かず、音となり消えていった。
少女の、前世の歴史を正す話は、今始まったにすぎないのだらから。
ここがどこかって?すべての書物が揃った、不思議な空間。
それでいいでしょう?
誰視点か
それは、作者でも分かりません………