この世界は
この世界には魔法が溢れている。しかし魔法は全員が同じように使えるというわけではない。
例えば火に関する魔法でもマッチ程度の火しか出せない人間もいれば、火炎放射のような形状の火を操る人間もいる。
そして人それぞれ得意な魔法も違う。
火を扱うのが得意な人間。
水を生み出すのが得意な人間。
それは生まれ持った個性であり、後天的にどうこうなるものではない。だから自分が理想とする魔法の適正を持つ者もいれば、正反対の適正を持っている者もいるのだ。
しかし火属性の魔法が得意な人間が水属性の魔法を使えないかと言われれば、答えは『NO』である。
水属性の魔法が得意な人間には明らかに劣るものの、火属性の魔法が得意な人間でも水の魔法を使うことは可能だ。
ただし水属性の魔法が得意な人間が扱う水魔法が滝だとすれば、火属性の魔法が得意な人間が扱う水魔法は水鉄砲のようなもの。
そんな勝負にならないものを無駄に扱うぐらいなら、自分の得意な魔法を扱う方が余程マシだ。
生まれ持った魔法の才とは、それほどに大きい。
だから漫画の世界みたいにあの魔法もこの魔法も総てが最強の威力で扱えるなど『有り得ない』のだ。
ただ例外として、ごく稀に得意な魔法以外をもそれなりの威力で使える者も存在するが。
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魔法学園『アクトクレスタ』。世界中にある学校・学園の中でもマンモス校と呼べるほどの生徒数を有する所だ。
この世界の学生は通常の授業とは別に、『魔法学』というものを学ぶ。それは魔法を正しく扱う心、自らの力を上手に扱う術、それらを学ぶことで魔法だけでなく人としての成長を促す目的もある。
そんな学園の生徒の一人である久瀬 恭弥は朝のトレーニングを終え、いつも通りの時間に登校していた。
「おーっす!恭弥!」
そんな恭弥の背後から元気に声をかけ、肩を組んで来る男がいた。
「透。朝から声でかいんだけど。」
恭弥はやれやれといった表情をしながら彼の方を横目で見た。
「相変わらずテンション低いなぁ。朝なんだからもっと元気にいこうぜ!」
「俺が普通。透が異常なんだよ。」
こんな感じなのが恭弥にとってはいつもの光景だ。
恭弥に声をかけたのは『天谷 透』。恭弥の幼馴染みであり、親友だ。学年は透の方がひとつ上だが、透の方が精神的には恭弥よりも下のように感じてしまう。
そしてそんな透は学園の有名人でもある。
「あ、雷帝じゃん!おはよ!」
「雷帝、おはようございます!!」
同じ学園の生徒が次々に声をかける。透はその全員に挨拶を返していく。
『雷帝』……それは透の別称だ。雷魔法の使い手であり、生まれ持った才能や魔力の多さもあり、二年生でありながら学園の生徒会長を任されているほどだ。
学園の生徒会長とは学園の顔であるため、最上級生の三年生の中から学力、魔法能力、性格を総合して優秀な生徒が就くものであるだけに二年生の透がその座に就くというのはかなり異例のこと。
そして、それが認められているということが透の能力の高さを示している。
「おー。雷帝さまは朝から大人気だ。」
「茶化すなって!」
そんな雑談をしながら、他の生徒と同じように二人とも学園へ向かうのだった。