彼の朝
「99……100……」
そこまで数えた彼は立ち上がる。
4月の始めだからだろうか、まだ朝の空気はひんやりとしていて大きく呼吸すると肺の中を冷たさが充たす。
彼がいるのは公園。ここはかなり広く、子供が遊ぶ遊具だけではなく大人たちがトレーニングに使えるような器具も設置されていて子供だけでなく大人でも楽しめる場所になっている。
今まで腕立て伏せをしていた『久瀬 恭弥』は日課にしている筋トレを終え、トレーニングの場にしている公園にある大きな時計を見上げた。
「6時か。」
恭弥の裸の上半身から蒸発する汗が煙が立ち上るように見えるのは、まだ気温が高くない朝だからだろう。屋外でなければ風呂上がりだと言われても違和感はないほどに汗が気化している。
ただ、流石にズボンこそ履いている。いくら朝とはいえ、屋外で全裸など警察沙汰になるだろう。そんな下らないことで騒ぎになんてなりたくないし、そんな騒ぎを起こすなんて頭の足りてない奴だけだろうと彼は考える。
「さぁて……そろそろ学校に行く準備しなきゃな。」
学校。そう、恭弥はまだ学生だ。しかもこの4月から高校生になったばかりの。
しかしその肉体はとても高校生にはみえないほど引き締まっており、無駄がない。
それはトレーニングの賜物だろう。理由は昨日今日始めたばかりではないからだ。
中学生になった頃から始め、既に3年。まず最初に5キロを走り、懸垂・腹筋・スクワット・腕立て伏せを100回づつ。これが朝のトレーニング。これを2時間かけてやる。
これを恭弥が早くこなそうと思えば、この程度の量は1時間以内に終わるだろう。だが、ただやればいいだけの日課ではない。
全身の筋肉を意識し、体を動かすことに違和感がないことを確認しながら、見せ掛けの筋肉を付けるのではなく『使う身体』を作るためのトレーニング。
だからこそきっちり時間をかけて行う必要がある訳だ。
「……うん。今日も問題はないな。」
体の調子を確認し終えて、汗を持ってきていたタオルで拭い、着て来ていた服を着直すと空を見上げた。
「今日も良い天気になりそうだ。」
明るくなってきた空を見て、恭弥は少し微笑むのだった。