【運命の出会い】
それから退院して暫くすると長田から連絡がきた。退院以来会っていなかったので会わないかとの誘いだった。
約束したカフェオリジナルへ行くと、ガラス越しに長田が久野を見つけ手をあげた。正面には見知らぬ女性が座っていた。長田につられて女性がこちらを振り向く。目が合うと軽く会釈した。
店内に入り「アイスキャラメルマキアートを1つ」と注文し、カウンターで受け取ると2人のいるテーブルに置き、長田の隣りに座った。
久野が「こちらは?」と聞くと、女性は「初めまして、光智晴夏です」と挨拶した。久野も「初めまして、久野千里です」と挨拶をかわしアイスキャラメルマキアートの蓋を外しストローでかき回した。
久野はなぜ晴夏が同席しているのか解らず長田の顔をのぞき込む。長田が「実は……」と口を開いた。「知人にこの不思議な体験を話したところ、是非取材させてほしいって記者を紹介されて」と頭をかきながら「知人に話しだけでもしてあげれないかと頼まれまして…… 電話でお願いしようとも思ったんですが……」と愛想笑いした。
久野が「いやいや、何かの勧誘でも始まるのかと思いましたよ……」と言ったのをスルーして、晴夏は「早速ですが、何故入院することになったのですか?」と聞いた。久野は『せっかちな人だなぁ……』と思いつつ話しを始めた。
ダイビング中に事故にあい、何の外傷も無かったが、意識不明で入院していたこと。夢の中で子供だった長田を火事のなか抱えて助け出したこと。その夢が原因かは解らないが、自分と長田の意識が戻ったこと。歩けるようになって、待ち合い所の自動販売機の前ので長田に会い、同じ夢を見ていたことを聞いて驚いたこと。退院後もずっと考えていたが、長田と会うのは病院で会ったのが初めてだったなど、順を追って話した。
一通り話しを聞くと晴夏が口を開いた。晴夏が「事故にあわれたのは、何時ごろのことですか?」と聞くと、久野は「1年前の8月だったかっと……」と答えた。
すると長田が「私も8月に…… 久野さんとは接点なんてないと思ってたけど偶然ですね、他に何か共通点があったりして……」と言った。
晴夏が「ちなみに何日か覚えてますか?」と聞くと、久野は「確か31日だったかと……」と答えた。
それを聞いて長田は「何だ残念、同じ日だったら運命感じちゃうんだけど」と横から口を挟む。「運命感じちゃうって…… 今どき田舎のホストでも言わないですよ」と久野が笑って突っ込んだ。
長田が「私の方が少し早いな…… 階段から転落して病院に運び込まれたのが、確か28日だったと聞いています」と言うと、晴夏が真剣な面持ちで「実は私の父も去年の8月28のガス漏れ事故から意識不明のままで……」と言った。
「長田さんの事故と同じ日ですか…… 偶然にしては出来すぎですね……」と久野が言うと、長田は「それこそ運命感じちゃいますね」とおどけてみせた。そんな長田の冗談もむなしく、変な緊張感が漂う。