【本能寺の変】
慶福は2人の呆れた表情をよそに、更に話しを続ける……
「しかし長い歴史の中で、一度だけ人間を憎む者がトリニティを手にした事がありました」とそこまで語ると、慶福は急に「お2人は信長はご存知ですよね?」と質問した。
晴夏が「織田信長の事ですか?」と答え、久野が「本能寺の変の信長のことですよね?」と答えると、慶福は「そう、その織田信長です」と言った。久野は『嘘つくにしても、もっと上手い嘘を……』と思った。
慶福は更に「トリニティを手にした織田信長は、そのトリニティが本物かを確かめるため、掟を守る者達に属している利休をお茶会に呼びました。そのお茶会の際、信長は利休を茶室に招き入れ紫の風呂敷に包んだ物を差し出しました。利休は風呂敷を静かに開けて中身を確認すると、本物か調べる時間が欲しいと言ってトリニティを預かる事にしました」と語り始めた。
慶福が「掟を守る者達は、第六天魔王などと名乗る男が聖杯を手にすれば、どんな災いをもたらすか…… 信長がトリニティを手にしてからでは、それを制する手段は無く、トリニティが信長の手に戻る前に信長を亡き者にしようと考えたのです。掟を守る者達は、信長の監視役として送り込んでいた明智光秀を使い謀叛を起こさせました、それが本能寺の変の本当の舞台裏です」と言うと、久野は『もし、それが本当なら明智光秀の理解しがたい謀叛にも納得出来るような……』と思った。
慶福は「その後、利休は信長の意志を引き継ぐ秀吉からトリニティを差し出すよう、散々脅されましたが最後まで拒み続け、唯一トリニティの隠し場所を知る利休が、痺れを切らした秀吉に殺された事で、トリニティの行方は謎となってしまいました。その後、トリニティを見た者はいません」と言った。
晴夏が「それと父の失踪に何の関係が……?」とぼそっとつぶやく。久野は『確かによく出来た話しではあるが、壮大な話し過ぎてにわかに信じがたい』と思っていた。この話しが、どう光智の失踪と繋がるのか興味が湧き始めた久野は、「それで?」と少し意地悪そうに言った。
慶福は「そう、それから400年以上の歳月が過ぎ、それぞれの組織は形を変え、今現在、祖先の意思を引き継ぐのがフリーメイソンや日本だと私や光智も属する八咫烏となり、それと相反するものが、イルミナティや日本では啓明結社となりました。八咫烏は利休の死後、長きに渡り啓明結社を監視してきました」と言った。
慶福は「数年前のこと、啓明結社に潜入させている者より啓明結社内部で動きがあると連絡があり、八咫烏は調査を開始しました。調査の結果、啓明結社内の脳力者による予言があり、魔王復活により長きに渡る怨みを晴らす時は近いとの内容でした」と続けた。
更に「この内容から信長が復活するだけでなく、トリニティを手に入れる可能性があると判断した八咫烏は、組織内の能力者に予知を依頼しました。その内容は、信長と利休がこの時代に転生されていて、前世の記憶を持った2人を会わせてはならないとの内容でした」と慶福は言った。
久野が「2人が会ってしまった場合、どうなるんでしょう?」と聞いた。慶福が「恐らくは信長がトリニティを手に入れ、人間への復讐が始まるかと予想されます」と答える。
晴夏が「2人を会わせなければ良いんですよね?」と言うと、慶福は「私達もそう考え、八咫烏の能力の全てを使い、利休の転生者を探しあてました」と言った。
慶福は「調度そのころ、啓明結社に潜入している者から、啓明結社に情報が漏れているとの報告がありました。八咫烏の内部にも啓明結社の息の掛かった者が潜入している事が解り、私達は対応を急ぎました……」と話しを続けた。