チクチク
日も暮れ、肌を刺す寒さが強くなってきました。少年は台所で火を起こしごはんをつくっています。老人は今日収集した木の実でなにやらへんなものをつくっていました。
「おいハゲ。なにつくってんだ?」
調理をしながら少年は老人に訊きました。
「はん。おまえにはやらんぞ」
「いらねぇよ!」
「これじゃよこれ」
といって老人は少年の後ろに立ち、あるものを少年の頭から首へ通しました。
それは糸でどんぐりを束ねた首飾りでした。不格好で不揃いな形のどんぐりたちが、胸元で淡く茶色く煌めいているようでした。
「な、なにこれ」少年はちょっとどもりました。少し嬉しかったのです。
「おまえのじゃないぞ。村の五歳の娘のじゃ」意地悪そうに老人はいいました。
「明日はクリスマスじゃ。村の子らにクリスマスプレゼントをつくってるんじゃよ」
「クリスマス?」
老人の悪戯心に呆れつつ、クリスマスという単語に少年は興味を持ちました。およそクリスマスというものを知っているものではない少年でしたが、奴隷時代に耳にだけはしたことがあった単語だったからです。
それを話している雇い主はとても楽しそうで、聞いている相手も幸せそうな顔をしていました。そんなところを傍からみているだけだった記憶が少年にあります。
「悪魔が煙突から家に潜入して小さい子どもに欲しがっているプレゼントを渡す日なんじゃ」
「サタン!? 悪魔がいいことをする日なのかよ……」
少年は目を見開いて驚きました。たしかに悪魔がいいことをするなんて、嬉しいことかもしれません。でもそれって逆にこわいよな、なんて思う少年でした。そしてもうひとつ、少年はあることを思いました。
「てかなんでそんなんつくってんだ?」
「ん? もちろんあげるためじゃよ」
当然だ、というような口調で老人は言いました。それに対して少年はムっとしました。今朝のようなイライラが、また心に出てきたのです。
「なんでそんな意味のないことするんだよ。どんぐりだってちゃんと食えるだろ?」
老人は作業台に戻って、また別の何かを作りながらこう言いました。
「意味がないなんてことはないんじゃよ。おまえはまだ幼い。いつかわかるときがくる」
「そんなんわかんなくていいよ。生きるためにはいらない。生きるためには自分でどうにかしなくちゃいけないんだ!」
少年は叫んでいました。いままでの自分の生き方が否定されているような気がして、歯止めがききませんでした。
「あいつらみたいな甘やかされて生きているやつらなんかにこんなの必要ない!」
少年はどんぐりの首飾りを思い切り引きちぎります。がらがらとばらばらになったどんぐりは音を立てます。そして家を飛び出していってしまいました。
少年はなぜか悲しい気持ちになっていました。老人がものを作っているときの、ものに向ける優しい目。それをみてなんだか胸が苦しくなりました。ちくちくとします。奴隷として働いていたときにはこんな気持ちありませんでした。
外は真っ暗で、雪がこんこんと降っていました。