二日目〔無為〕後編
月島遥は、人差し指を立てた。
「まずは、この中に犯人が居る可能性だ。正直に言えば、七三で低い。そもそも、鬼木翼が殺されたのは俺が検死した上では俺らが気絶していた時とかぶっちまう。この中で法螺を吹かれれば別だが、基本的には“一部屋に二人気絶運ばれていた”。俺は結と同室。箭内は鈴波。日向望は新田桜。恐らく諏訪学が鬼木翼とだろうな。」
遥さんは一度言葉を区切り、こちらを一瞥する。
周囲が注目する中、僕は遥さんの考えが読めた。
「じゃぁ・・・・、僕が鬼木さんを殺したとでも・・・。」
諏訪さんの言葉は震えている。そんな諏訪さんを見下し、嘲笑うように遥さんは不敵に笑った。
「そんな在り来りなことで犯人が決まるかよ。俺が言いたいのは“気絶していた同室のふたりの中で先に起きていた方が確率が高い”ってことだ。該当者は手を挙げな。」
遥さんは言葉を切らない。それは、誰もが集中して聞くはずだろう。
“僕を除いて”
手を挙げたのは、蘭と桜さん、白浜さんの三人だった。
「ってことは、諏訪学が法螺でも吹かねぇ限りは鬼木翼が先に目を覚ましていたってことだな。んで、食堂に来た順番としては、まず結が死体発見。次に、俺が付き添いで遅れて来た後、新田桜と日向望が駆けつけ、諏訪学が来た後に箭内と鈴波が最後に来た。これに可笑しい点はないな。」
遥さんは周りを見回した。
いや、見回すふりをして僕にアイコンタクトを取る。
僕もそれに答えて周囲に気を配る。
「んでもう一つ。凶器についてだが、これが見つかっていないのも現状だ。そして、“鬼木翼はあくまで首を切られたことによる出血死である”ことだな。・・・。」
遥さんはしばしの沈黙後、目を閉じた。
その時間は嫌に長く感じたが、それでも数秒しか経っていないことは理解できる。
「俺らにはこの程度の推理しかできねぇ。そして、あとは全て推測でしかねぇ。素直に言わせてもらえば、これによって犯人の確率に個人差ができちまった。これが弊害なのは火を見るより明らかだろうな。今日は、これ以上は無駄だろう。」
遥さんはゆっくりと目を開ける。
そして、表情を初めに見せたものに戻した。
「とりあえず、飯でも食べて気楽にいこう。ちなみに、非常食じゃなくて冷蔵庫内のパスタでなんか作ってくれるとうれしいなぁ。」
その言葉に、新田さんは呆れ、日向くんや蘭や結さんは笑い、学さんは呆然としていた。
それでも、僕達は食事の準備を始める。
これも彼の才能なのだろうか。
こんな場所でさえ、自らの空気で塗りつぶしている。
皆が食堂の調理場に向かう中、遥さんは僕に問いかける。
「・・・何かわかったかい。」
その言葉に僕は首を横に振った。
その姿を見て遥さんは
それも大切な情報だなぁと苦笑するのだった。
僕は甘かったのかもしれない。
次に誰が死ぬかなんて、犯人しか知らない。
ましてや、どうして殺されるかなんて・・・。