一日目〔会合〕前編
・・・っ!!
余りの不快感が身体を襲う。
夢であったのだろうか。先程の景色は全く見えない。
視界も多少ぼやけているが、瞳が動き回ることはなく落ち着いている。
そして、はっきりとしはじめた視界に人影。
いや、こちらを心配そうに覗いているのは、少女?
ずいぶんと着慣れているような白いワイシャツと、紺に緑と赤のチェックが入ったスカート。
胸元には少し傾いて紺のリボンが控えめに着いている。
服装から高校か中学だとは思うが、艶やかで肩程までの長い栗色の髪の毛が大人びている。
僕が目を覚ましたことに安堵しながらも喜んでいるようだ。
「あなたはいったい?」
僕としては悪意のない質問だが、彼女は驚きを示した。
「えっ?箭内君?どうしちゃったの?箭内くーん!?」
彼女は耳元で叫んだ。
言われてみれば、自分は何故こんな場所で寝ているのだろう。
そもそも、箭内と呼ばれているが下の名前が思い出せない。
まるで、頭の中を霞が覆うような感覚がある。
目の前にいる彼女は、僕の知り合いだろうか?
頭を抱え、何か思い出そうと悶えたところで考えだけが右往左往するだけだった。
「記憶喪失?何というか、災難だね。当然と言われれば当然かも?」
こちらを覗いていた彼女は立ち上がり、部屋の窓から外を見た。
「気絶させられて、気がついたらこの部屋に運ばれていた。私はスタンガンだったけど、箭内君は後頭部を殴られたみたいだね。」
そういって、彼女は自分の後頭部をこちらを見ながら指差した。
彼女の指した場所を確かめると、確かに腫れ上がっており、触ると染みるような痛さがある。
「えっと、とりあえず分かることとか憶えていることおしえて。そしたら説明するから。」
僕は彼女に言われるがまま、自分のことをすべてはなした。
自分の名前さえ憶えていないのは意外だったらしい。
僕の話が数分もかからずに終わったのに、へーとか、あれ、終わり!?みたいな反応を示した。
「と・り・あ・え・ずー。」
彼女は指を自慢気にたてた。
「私の名前は鈴波蘭。箭内君と同じ高校の同級生で二年、部活は剣道部。箭内君にはいつも通り蘭って呼んでほしいなぁ。」
そういった彼女は僕を力強く指差した。
「君は箭内健。部活は帰宅部。成績優秀だけど授業出ないし自由奔放なんだよね。」
彼女、鈴波蘭は困った顔をした。
記憶にはないが、僕はそれだけマイペースなのだろう。協調性も彼女曰わく無いらしい。
ここ、どこだかわかる?そう、蘭は下を指差しながら僕に聞いた。
この部屋はコンクリートで出来ており、作り自体に特徴はない。
あとあるのは木製の本棚と、僕が今いるベッド。それに、森であろう木々の見渡せる窓に、少し古風な木目のある褐色の扉だけだ。
僕は首を横に振った。
「まぁ、箭内君も起きたし。・・・どうしよっか?」
落ち着いた声で蘭は首を傾げた。
そんな彼女を後目に僕は本棚を覗く。
時代が統一されている訳ではなさそうだ。
本の並びとジャンルに規則性はなく、重苦しいものが多い。なかでも、宗教改革やキリストの歴史なんて物が目に付く。
「箭内くーん。本なんかでなにか分かるのー?」
蘭は本に興味が無いらしく、少しだれた様子を見せた。
「読む本は人の性格を表し、置き方は心情を表す。歴史書が多いのに日本史が無く、ジャンルがばらけているのに似た内容が多い。そして、並べ方に決まりは無く、本もだいぶ傷んでいるが読み込んだ跡はない。」
僕は情報を整理しながら口に出した。
つまり?そう聞いた蘭に一つの結論と仮説を出す。
「この部屋の持ち主かは分からない。いや、この部屋は恐らくあまり使われていなかったかもしれない。そして、この建物の主はキリシタンであり本にはそこまで興味は無いが、一応置いておいたんだろう。ただ・・・。」
そういって、一冊の赤い表紙の本を取り出す。
「この本は、使われていた跡がある。これは、日記?」