五日目[決意]中編
遥さんを最初に発見したのは結さんだった。
僕が見たのは、壁に背中を預けて座ったままの彼の姿だった。
彼の周りには、所々血に染まった羽が落ちているだけである。まるで天使が力なくもがいた成れの果てのような印象を受けた。
結さんは、ただその死体の前で俯くだけである。
もう、彼は動かない。
僕は彼の表情を確かめた。
なんら変化はない。彼は死ぬ時まで、いや、死体となっても笑みを絶やしていなかった。むしろ、満足気な表情を残していた。
「結さん・・・。」
あれから僕達は、言葉を交わすことなく互いの部屋に戻った。
僕は結さんの部屋を訪ね、入ってすぐ彼女の名前を呼んだ。
「悪いけど、あれも演技。すぐにお茶を入れるわ。」
彼女は何事もなかったように返す。それでも、こちらに顔を見せられないのかすぐにお茶を入れ始めた。
「すみません。」
力無く、僕は謝罪した。
自分に非があるかなんて、関係なかった。
ただ、避けられたかもしれない事態を予想通りにしてしまったことに・・・。
結さんは手を止め、始めてこちらを見る。
「・・・。遥は笑って逝ったわ。今更それは変えられない事実。託された私達が動かなかったら意味がない。“人の死を悲しみ続けるより、ふざけて人を救うことのほうが結果としては正しい。人を救うのに真面目さや私情なんて人が正義を見せつけるだけの枷でしかない。”彼の言葉よ。」
そう、彼女は言った。
まさに、遥さんらしい言葉だ。
彼女は椅子に座ると、血に塗れた手帳を出した。
「遥の遺書。ここには、事実が書かれているわ。あなたにとっては非情な事実が。それでも読むかしら。」
結さんの問いに僕は頷いた。
(これを読んでる時には僕は死んじゃってると思うなぁ。いやぁ、死んでない方がおかしいなぁ。
まぁ、そんな事はどうでもいいよね。
俺が残せる言葉なんて、改めて考えてみれば在り来りなものしかない。それをいちいち書き連ねたところで意味はないだろう。だから簡潔に伝えておこう。
結。すまない。俺は、結果として君に死に目を看取ってもらう事すら出来ないだろう。残せたのは死体だけ。情けない話だが、これだけだ。それでも、俺は君が居てくれて助かった。
ありがとう。
箭内君。君には伝えなければいけない事が二つある。
一つは、自分を見失うな。自分がどういったものでもだ。
もう一つは、謝罪だ。何故なら、鈴波蘭を殺したのはほかならぬ俺だからだ。俺のベッドの下の床板を外せば、すぐに凶器が見つかる。結果的には君を裏切っていた。“君なら俺が無くしてしまったものを探し出せるだろう。”
俺に出来るのはここまでだ。)




