四日目〔不穏〕前編
遥さんは早朝に帰ってきた。
どれほどの事があったのか、笑みは絶やさずともいつもとは違って見えた。
「行くかなぁ。生きてるうちに・・・。君も来るかい。」
僕は素直に従った。結さんは、ここで待っていると言って動かなかった。
おそらく、休みたいのだろう。結局現場に行くのは、僕と遥さんだけだった。
まずは蘭の部屋を覗く。
ちなみに、遺体はもうない。遥さんの部屋に運ばれており、検死が終わったら腐る前に処理してくれるらしい。鬼木さんの死体はもう無い。
「ざっとこの現場を見ると、出血量が半端ないなぁ。だけど、部屋の物を移動した跡はない。そして、死体があった場所は扉の近くだ。部屋に入ってすぐにやられたんだろうなぁ。」
そう言うと、遥さんは真っ先に机を漁りだした。机の上には本がいくつかあるだけだ。
その幾つかの本の内、一つを迷いなく持ち上げた。
「やっぱりな。だから、俺を・・・。」
遥さんは懐に本を入れると足早に立ち去った。
僕はそれをいそいで追いかけた。
遥さんが来たのは食堂だ。そこで遥さんはいきなり天井を見上げた。
天井には梁とシャンデリアがあるだけだ。
遥さんは机の上に椅子を置き、登るとシャンデリアを調べた。
遅れて着いた僕は息を切らしなが遥さんを見た。
「どうしたんですか・・・。いきなり・・・。」
そんな僕を見て、遥さんは笑った。と同時に窓を指さした。
僕が窓を見ると、遥さんは違う違うと窓の外をさした。
「あそこに井戸が見えるだろう。でもあの井戸におかしな点はないかなぁ。」
遥さんの言ったことを僕は探した。その井戸は遠くてあまり詳しくは見えないが、もう使えないのだろうか井戸から水を掬う桶と紐がない。
「凶器の紐があの井戸のものだと・・・。」
いやいや、と遥さんは指を振った。
「紐と桶じゃァない。君は意外に目が悪いんだなぁ。あの井戸には滑車がない。おかしいだろう。基本的に井戸がなくなっても、外すのは紐と桶だけだ。滑車を井戸を残したまま外すなんてさ。」
そう言うと、次はシャンデリアを指さした。
「ここにわずかだけど血痕があった。これはおそらく、鬼木さんの手首のものだろう。」
遥さんは椅子を戻し、そこに座ったあとに僕も座るよう指さした。
「整理しよう。鬼木さんの殺人は、ワイヤーで首を切られたことと手首を切られたことによる出血死。とはいっても始めは高所から打ち付けることで殺そうとしていたんだろう。そのために、滑車を使った。だけど、手首が一度シャンデリアに当たったことで勢いが弱まって目立った傷もなかったんだろう。滑車をつけんのは犯人から見ればいつでもいいとして、滑車を外すのもそこまで気にしなくていい。」




