[中編/完結済]『死霊術士の殺人鬼』――倒錯的で破滅的な、殺人欲求と言う名の愛情表現
今回紹介させて頂きますのは、「好感度が上がらない」で書籍デビューをされていらっしゃいますかなん様の『死霊術士の殺人鬼』です。
実はかなん様の作品は、私がオンライン小説を読みはじめた初期の頃より私設サイトで拝読させて頂いており、その完成度の高さには憧憬の眼差しを向けておりました。
なので「小説家になろう」でも、作品を楽しむことができると知った時は、本当に嬉しく思ったものです。
話が脱線してしまいました。
『死霊術士の殺人鬼』ですが、こちらは転生もトリップもない、純正異世界ファンタジーです。
死霊術士は邪悪な魔法ではなく、専門技術として誰でも学ぶことが可能な世界。
死霊術士のひよっことして、学院で死霊術士を学んでいたミチカ・アイゼンは、授業の一環としてクラスメートたちと一緒に一匹の鼠を甦らせようとします。
しかしどういう訳か、ミチカの元で蘇ったのは鼠ではなく史上最悪と呼ばれた殺人鬼リパー・エンド。
彼は瞬く間に、ミチカ以外のクラスメートたちと教師を惨殺します。
そして、その魔手がミチカにも伸びようとした時、彼は気付くのです。
自らを甦らせたミチカは殺すことができないのだと。
ミチカはギリギリの交渉で、一年という猶予をもぎ取ります。
しかしその後は、ミチカは精霊石に閉じ込められ、不死身の殺人鬼はこの世に解き放たれてしまいます。
それを防ぐ為、ミチカはたった一年で殺人鬼リパー・エンドをしのぎ、彼を地に帰す方法を見付けなければならなくなったのです。
まさしく無理ゲーです。(笑)
初っ端からグロテスクでスプラッタで容赦のない展開から始まる、この物語。
しかしその実、読み口は大変軽快でユニークだったりします。
それは絶望的な状況にもかかわらず、諦めることのないミチカの姿勢とツッコミのお蔭であったり、頭のおかしい殺人鬼でありながらどこか飄々としたリパーの性格が大きく影響しているのでしょう。
しかしそうしたコミカルなやり取りが、その一方でリパーの残虐な殺人行為や、史上最悪の殺人鬼を甦らせたことで、稀代の犯罪者となってしまったミチカへの周囲の憎悪、孤立無援の閉塞感を際立たせているような気もします。
生きることに貪欲なミチカの死に物狂いの抵抗は、例えそれが焼け石に水の足掻きであっても、非常に好感が持てます。
そしてそれはどういう訳か、殺人鬼リパー・エンドの関心も引き寄せてしまいました。(もっとも、ミチカの方は蛇蝎のごとく嫌ったままなのがポイント。)
しかし相手は、息をするのと同じように、あるいは足元を小石を蹴るのと同じような感覚で命を奪う殺人鬼。
その好意の示し方も、また殺すことによって表現されます。これ程はた迷惑な好意の向けられ方は、他にないに違いありません!
けれどそれを承知で読み進めていくと、やがてリパー・エンドのミチカに対する殺人欲求が、これ以上ないほど熱烈で倒錯的な愛情表現にも感じられて、変にときめいてしまいかねないのがこの作品の危険な魅力だと思われます。いや、私だけかもしれませんが。
一年と言う短い期間の中で、本当にミチカはリパー・エンドを地に帰す方法を会得できるのか。
殺すのが先か、殺されるのが先か。死霊術師と殺人鬼という二人の関係は、果たしてどんなを終わりを迎えるのか。
先の見えないこの物語、ぜひとも最後まで読んで欲しいと思います。
非常におすすめです。
『死霊術士の殺人鬼』/かなん様
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