[長編/連載中]『異世界から帰ったら江戸なのである』――ネタとパロディの絨毯爆撃!時代小説風コメディ
今回わたしが自信を持ってお薦めしたいのは、左高例様の時代小説風日常コメディ「異世界から帰ったら江戸なのである」です。
物語はタイトル通り、異世界にトリップし生涯を異世界で過ごした一人の老人が、若返った上なんやかんやの末に地球に戻されたと思ったら現代ではなくて江戸だったというお話。
勇者たちの襲撃を受けて、居候していた魔王城から逃亡することになった現代日本出身の異世界人の九郎は、そのどさくさの中で一人地球に送り返されます。
しかし、何十年かぶりの故郷だと思いきや、そこは地球は地球でも町人文化が花開くお江戸の町。
生活習慣も何もかもが違う”異時代”に放り出された九郎は、最初に出会った町人佐野六科の営む蕎麦屋『緑のむじな亭』に居候しつつ、江戸に住まう様々な人と好を結び、時には事件に巻き込まれ、時には事件を巻き起こし、なんやかんやで江戸の暮らしに馴染んでいくという、痛快時代小説風コメディです。
もっとも、時代小説ではなく時代小説”風”というのがこの作品のミソであります。
なにしろ享保年間の江戸の風俗を踏まえてありながら、突込みが追いつかないほどのパロディやネタの絨毯爆撃!
なまじ江戸の文化や時代背景が丁寧に記載されている分、ここでそれを被せてくるのかと脱力したり腹筋を痙攣させたりと、忙しいことこの上ないのが憎いところ。
もっともお蔭で、時代物である事で感じがちな敷居の高さは一切なく、秀逸なコメディとして心置きなく笑いに身を委ねることができる訳です。
しかもその一方で、この作品の魅力は『笑い』だけではありません。
時折差し込まれる派手で迫力のある戦闘シーンやぞっと背筋が冷たくなるようなホラーな展開、痛ましく理不尽な悲劇に、徐々に明かされていく謎や秘密、そして過去なども作品にどっぷり惹き込まれるのに十分な要素となっています。
そんなシリアスな展開と馬鹿馬鹿しいコメディの配分は、まさに絶妙の一言! 互いが互いを引き立てて、より一層面白さを増しているのです。
またこの作品の素晴らしさは、バラエティ豊かな登場人物にもあります。
愉快奇天烈摩訶不思議な妖怪画家の石燕先生。
アウトな意味での子供好き『青田刈り』の菅山利悟に、完全にアウトな人斬り中毒者『切り裂き』中山影兵衛をはじめとした、個性的すぎる同心二十四衆と火付盗賊改方。
謎めいた『狐面の薬師』阿部将翁や気のいい最強の武芸者『六天流道場主』録山晃之介。
ヤヴァイ未来しか見えてこないギャルゲ主人公系鈍感少年の雨次とその幼馴染。
そんな一度登場したら絶対に忘れないような個性的すぎるキャラクターたちが、その他もろもろ目白押しなのです。
そもそもこの物語の主人公九郎は、決して最強ではありません。
見た目はともかく実年齢はそうとうなお爺ちゃんであるため経験だけは豊富ですし、様々な便利異世界グッズも多数所有しております。
しかし、化け物レベルに強い人間は周囲に何人もいるし、現代知識を活用してもそれで大成功を収めるということは左程ありません。
それでもそんな彼が、周囲の愉快な仲間たちと和気あいあいと過ごす江戸の日常は、実にユニークで魅力的で、飽きの来ない楽しいものなのです。
笑いぎっしり確かな満足を感じさせてくれるこの作品、更新ペースも早いのでかなりお奨めです。
『異世界から帰ったら江戸なのである』/左高例様
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