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[長編/連載中]『春と秋~大神来国の少女』――剥き出しの生命と魂を燃やす少女の成長記


 今日、御紹介するのは、「アリスズシリーズ」や「左遷も悪くない」を始めとして、完成度の高い作品をいくつも書かれていらっしゃる霧島まるはさんの物語、「春と秋~大神来国の少女」です。

 実は、まるはさんの作品の中でも、これは私が一、二を争うぐらい大好きな話だったりします。

 しかし、この作品の素晴らしさを伝えるのは、なかなか骨が折れる作業です。何しろこの物語の魅力は、言い表すのが大変難しい。



 この物語は、一人の少女の決死の覚悟から始まります。


 ――外壁に守られた町と異なり、壁の外の村で害獣や野盗に怯えながら田畑を耕し生きる貧しい人々。

 その村は非道を強いる村長むらおさによって辛酸を舐めさせられていた。

 追い詰められた村の少女は、思い切って街の役人に直訴に向かうものの、門番によって阻まれ街に入ることも、訴状を渡すことも叶わない。

 犬死にを承知で、それでも目的を果たそうとする彼女の命を、間一髪で救った男がいた。

 糸のように細い眼に、鍛え上げられた体術。

 彼は少女に、悪い奴のぶっ飛ばし方を教えてくれると言うのだった。



 そうやって始まるこの物語は、一人の少女の成長の記録です。

 しかしただの少女ではありません。

 命懸けで、全力を振り絞り成長する少女です。


 少女千秋はその外見から糸目先生と呼ぶ、名前も正体も分からぬ男に師事します。

 彼女はやがて春一と名を知るその男に傾倒し、彼が見ているものと同じものを見るため、そしていつしか彼を守るため、一心不乱に努力をすることになります。

 その努力が、本当にすごいのです。

 春一先生という目標のために、一切の妥協を許さず、全力以上のものを出し切る。

 春一も容赦なく彼女を鍛えていくけれど、千秋はそれに食らい付き、常に最善以上の結果を出そうと貪欲に足掻き続ける。

 命を燃やし尽くすような彼女の生き方は、見ているこちらが冷や冷やしてしまうほど一途で純粋で、なおかつ美しいのです。

 そんな苛烈な魂を持つ彼女に、師である春一もまた魅かれていきます。


 穏やかそうな外見の裏に謎と毒を持つ春一と、春一に心酔しひたむきに彼を追い続ける千秋。

 二人の距離が徐々に縮まっていく様は、千秋の成長に次いでこの作品の見所の一つでしょう。

 また両者の視点が書かれているため明らかになる、二人の認識のズレっぷりも愉快です。

 かつてのアジア大陸を思い起こさせる世界観は独特で、少しずつ明らかになる政治情勢や習俗描写は繊細で興味深いです。


 生ぬるくなく、泥臭くて、荒々しい。

 しかしその一方で、ぞくりとするような色気があり、毒と甘さもある。

 これは剥き出しの生命と魂を燃やすような、そんな物語なのです。


 平和で安穏した話では物足りなくなった人は、ぜひともこちらの作品を読んでみてはいかがでしょうか?

 かなりのお勧めです。








『春と秋~大神来国の少女』 / 霧島まるは様 (http://ncode.syosetu.com/n8880y/)

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