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[中編/完結済]『曲空虚空』――確かな筆力に支えられた近未来アクションSF小説

 


 ある日突然、空から女の子が落ちてきたら、あなたならどうします?

 逃げますか、夢だと思いますか、恋に落ちますか?

 それとも、一緒に戦いますか?


 さて、今回ご紹介する作品は、非常にレベルの高い近未来アクションSF小説です。

 空を映し、天候や季節を管理する『空塔』に支えられた、鏡面体の下にある都市。そんな十二ある都市のうち一つが、この物語の舞台になります。

 都市にいる人々は転移ポートと呼ばれる装置によって、自在に各所へ移動することができる。また、空である鏡面体の上には、同じ鏡面を空とするさかさまの都市「虚都」があり、その実物を見た人間は誰もいなくても、それが公的な事実であると知られている。

 そんな異世界と近未来がミックスされたような不思議な世界観の中で、しかし人々は学校に通って授業を受け、会社に勤めて仕事をこなし、それをごくごく当たり前のものとして暮らしています。

 主人公も、そんな住人の中の一人。高校一年生であるアキラは、模型やジオラマが好きな普通の少年で、そうした趣味をお人よしの幼馴染のミヤにからかわれつつも、なんの不自由なく学校に通っていました。

 生誕祭という世界規模のお祭が迫ったきたある日、しかしアキラは路傍でとんでもない事件に遭遇します。

 空から女の子が降ってきたのです。

 逆さに浮かぶ謎の美少女は、自分は空の向こうにある「虚都」の住人で、あるゲームに参加するためここにやってきたのだと言います。そのゲームには、こちらの世界の住人とタッグを組む必要があり、アキラに自分の相棒である『代行者』になって欲しいと頼むのです。

 訳が分からないので了承出来ないでいるアキラでしたが、そうするうちにゲームの他のプレイヤーが彼らに襲い掛かってきます。ゲームに勝利した暁には、この都市を滅ぼすと宣言する敵のプレイヤーを前に、アキラはついに決断を下すのでした。



 そんな風に始まるこの物語ですが、まずこのお話は独特な世界観が非常にユニークで素晴らしいです。

 人工的に管理された、閉鎖空間である都市。主人公やその周辺の人々の『普通さ』と特殊な世界観とのギャップが面白く、また彼らがごく当たり前のものとして認識している世界の『違和感』が徐々に明らかになってくる過程にはぞくぞくしてしまいます。

 また、もう一つ。鏡面世界からやってきた『プレイヤー』たちの特殊能力も実に魅力的です。

 『プレイヤー』たちは自分の協力者である、この世界の『代行者』にスキルと呼ばれる能力を譲渡するのですが、主人公が謎の少女から渡されたスキルは他の『プレイヤー』たちのそれとは違って、決して戦闘向きではない特殊なスキルです。

 そのスキルをいかに利用してゲームを攻略し、他の『プレイヤー』たちに勝利するのか。単純なアクションシーン以外にそうした頭脳戦が繰り広げられていることも、この物語を非常にスリリングで楽しいものに仕立て上げています。


 しかしこの物語でもっとも素晴らしく魅力的なものは、物語の冒頭から各所に張り巡らされた伏線と、それが縒り合わさって紡ぎだされる意外な『真実』の姿でしょう。

 堂々と、あるいは何気なく書かれたシーンのあれこれが実はすべて伏線であり、そうして真相が一気に明らかになった時の衝撃といったら、まさに脱帽の一言です。

 謎を少しずつ積み上げていき、一方真相を徐々に匂わせ明らかにしていく描写力と展開速度の妙は、なかなか真似できるものではないでしょう。

 単なるボーイ・ミーツ・ガールなアクションSFと侮ることなかれ。

 この驚きと感動は、ぜひとも実際に一読して、共感していただきたいものです。


 作品は中編ということで決して長すぎないので、一気に読み上げることも可能です。実際に私は、続きが気になって一日で読みきってしまいました。

 大変面白い作品でした。

 これは、かなりのオススメです。



『曲空虚空』 / 藤村 由紀様 (http://ncode.syosetu.com/n1685x/)

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