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[長編/完結済]『君が消えた六月三十一日』――詳しくない人にこそ読んで欲しい、愉快で奇妙なクトゥルフホラー

 ちょっと前から、クトゥルフ神話がメジャーなジャンルとして巷で認知されつつあるように思います。

 某ラノベとアニメ作品、TRPGにその関連動画と情報源は沢山ありますので、詳しくは知らなくても、薄ぼんやりとなら聞いたことあるという人は意外と多いのではないでしょうか。

 『イアイア』とか「窓に窓に!」なんてネタを、パロディとして使っている作品も良く見ますしね。


 もっとも、深く調べようとすると何だかややこしいし、そういや自分ホラーって苦手だったわ。なんてことで、結局興味はあっても曖昧な知識のまま、という人は少なくないと思われます。実際、私もそうした一人です。

 でも、やっぱり面白そうだし、深淵に足を踏み入れる前に、まずはお試しで気軽に楽しんでみたい! という人にお勧めしたいのが、今回ご紹介する作品です。




 これは剣崎月さんという作者様が、F<エフ> という昔のハンドルネームで書かれた回顧録――風の作品です。


 かつて「小説家になろう」なんてものがまだ存在しておらず、一時創作者も二次創作者も、各々が自身のホームページにて作品を公開していたような時代に遭遇した、奇妙なサイト。

 関わりあうと失踪する、と実しやかに言われていたそれが再び姿を現した……。という事で、知り合いに頼まれたF<エフ> さんが、当時本当に姿を消してしまった知人と件のサイトに関するまとめを『小説家になろう』上で行った――という形で始まるこの作品。


 正直なところ、読み始めた当初私は、これがクトゥルフ系の作品だとはまったく気付いていませんでした。むしろ、「創作なのか現実(ノンフィクション)なのか???」と思いながら読んでおりましたよ。

 何しろ、以前その情報を管理していたサイトが、『インフォシーク』というすでにサービスを終了したレンタルサーバーで、お蔭でサイト自体が消えてしまったというくだりは、かつて同じ『インフォシーク』でサイトを運営していた私にとっては、リアリティたっぷりでしたし。(笑)



 そんな風に、実際にあった身近な出来事や『小説家になろう』というコンテンツそのものを利用した作風は、現実味どころか創作であることを疑わせるほどに生々しく、だからこそ進んでいく不可解な展開に、まるで現実が浸食されたかのように錯覚する奇妙な面白さがあります。

 そんな不気味さが、あるいは『クトゥルフ』的なのかも知れませんが。(違うのかも知れません。何分無知なものでして……)



 その後、ストーリーは『作者』であるF<エフ>さんの、大学時代の思い出を中心に語られていきます。

 もっともその大学というのがアメリカのミスカトニック大学である訳ですから、普通の大学生活であるはずがありません。

 日常的に巻き込まれる不可解な事象、不条理でスプラッターな事件に、不気味で謎めいた出来事。

 その関わりが現在にまで続き、唐突に発覚する繋がりや、因縁めいた思い出話に関連していきます。


 個人がつらつらと書いた記録に相応しく、話は過去に現在に過去にといささかややこしい程に移り変わり、ついにはまったく予想だにしない形で幕を閉じます。

 それはあまりに衝撃的で、読んでいて唖然とさせられるかもしれませんが、その不条理さがまた『クトゥルフ』的なのかなぁと(以下略)。



 私の説明だと、ただただ不気味でオドロオドロシイだけの作品と思われそうなのですが、実際の読み口は意外なほど軽快でユニークです。

 それは『作者』であり主人公であるF<エフ>さんの、何事にも動じない肝の座り具合だとか、突込みだとか掛け合いだとかが、読んでいて楽しいという事もあります。

 また途中から登場するマスコットキャラ的な存在『サバチー』が、可愛らしいからかも知れません。

 ただし情け容赦ないまでにグロテスクで不条理でスプラッターな展開が出てきますので、それがどうしても受け付けないという人には、残念ながらお薦め出来ません。


 しかしそれでも構わないということでしたら、クトゥルフなんてほとんど知らないという人でも、充分楽しめることは請け合いです。

 読み終わった頃には、きっと鯖缶を持って『イアイア』と唱えていることでしょう。


 『小説家になろう』というシステムを利用した、一風変わったクトゥルフホラー。

 多少の不条理やスプラッターが平気なら、ぜひお勧めです。




 『君が消えた六月三十一日』/ F<エフ>様

 (http://ncode.syosetu.com/n5405bi/)

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