二章三節 - ふきのとう
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田んぼにはまだ雪が残っているが、それでも田起こしをはじめている人もいる。
所々の田んぼに立ててある笹は、田の神様を祭っているらしい。中州全体が龍神を信仰していても、田や森や火――色々な物に神が宿るという考え方は残っている。
「ほら、これだ」
雷乱が指差したのは、小さな黄緑。ふきのとうだ。丸く、淡い緑の葉がそれを包みこんでいる。まだ硬い球形の中心には、黄色い花弁のつぼみがいくつも寄り集まっているのだろう。
「あそこにもあるな」
もうひとつは、かすかに黄色をのぞかせていた。
「雪をはぐれば、他にもあるかもしれねぇが――」
さすがに素手で雪を掻き分けるのは嫌なのだろう、雷乱は再び歩きはじめる。どうやら、城下の北にある月日の丘に向かっているらしい。
確かに遠目に見ても南側の斜面には雪がほとんどない。あそこなら、一足早く春が来ているにちがいない。
足早にたどり着いた丘の頂は平らにならされている。その縁から見下ろした城下町は、いっそう輝いて見えた。
北側の屋根はまだ白く染まっているが、南側に積もる雪は屋根の下の方まで自然に滑り落ちている。
大通りの中央に見える飛び飛びの小さな白い点は、雪像の成れの果てだ。
もっと近く、足元を見てみると、爪の先よりも小さな緑の芽が透明な雫を纏っていた。
それが虹色に輝き、生まれたばかりの春の息吹をより輝かしいものにしている。
「春だね」
比呼はため息混じりに呟いた。そこで自分の息が白くならないことに気付く。
「だから、そう言っただろ?」
どこか得意げに雷乱。
「でも、北側は冬なんだよね」
そう言いながら、丘の頂を横切り、北側を眺める。
「やっぱり……」
北側には厚みはないものの、まだまんべんなく雪が残っていた。ほとんどいつも丘の陰になる池もまだ凍っている。
その上に見える小さな影は、子どもたちか。氷面を滑って遊んでいる。くるくる回ったり、競走したり――。うまいものだ。




