二章二節 - 短氷柱
中州の冬は終わろうとしていた。
屋根や通りの端にはまだ雪が残っているものの、雪の解けた水滴が太陽の光を乱反射し、町中が小さな水晶をちりばめたようにキラキラ輝いて見える。
冬中、軒下で成長を続けていた氷柱も、気付けば手のひらほどの長さに縮んでいた。
「おか~さん、こおり~」
近くを通りかかった子どもが、手を引く母親に甘えた声を出す。氷柱が欲しいのだ。透明で冷たい氷柱は、子どもたちにとっては宝石ほどの価値を持つ。
じっと透明の内側にある泡を眺めてもよし。その冷たさや、水の固まる不思議さに驚いてもよし。
そして何より、氷柱をかじりたいのだ。味もにおいもないが、それは確かに冬にしか味わえない珍味と言える。
比呼は手近にある氷柱を手折った。
「はい」とほほえんでその子どもに渡してやる。
「あ」
いきなり目の前に差し出された氷柱に、子どもは目をまん丸にした。
母親も驚いたように比呼を見る。彼女も比呼の事は知っているらしい。
膝に届きそうな長髪、華奢でなかなかの美青年――。彼の特徴は分かりやすいものが多いので、当たり前かもしれないが……。
母親は慌てて子どもを自分の後ろに隠そうとした。
しかし、子どもの方が素早い。
「ありがとう、きれいなおにーちゃん」
比呼の差し出していた氷柱を受け取り、にっこり笑う。ちょうど歯の生え変わる時期なのだろう、前歯が一本ない彼の顔は、とても愛らしかった。
「どういたしまして」
比呼も思わず笑みになる。
その悪意を全く感じない笑顔のおかげか、彼の後ろに雷乱がいるのを見て安心したからか、母親は子どもをかばうのをやめた。
しかしそれでも、全ての警戒が解けたわけではない。「どうも」と比呼から目を逸らして一礼し、氷柱を舐める子どもの手を引いた。
「おにーちゃん、またね~」
一方の子どもは振り返り、氷柱を持った手を振ってくれる。
その笑顔がうれしくて、比呼はしっかり手を振り返した。
「よかったな」
雷乱が日々の剣術の鍛錬でごつごつした大きな手を比呼の頭に載せる。
「うん」
そうほほえむと、雷乱の手が乱暴に頭をなでてくれた。与羽や凪の手のようなやさしさはないが、同じように暖かい。
「よし、それじゃぁ、少し歩くか」
そして雷乱は城下町をはずれ、北へと歩きはじめた。




