一章二節 - 真冬の雪
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如月(きさらぎ:二月)。中州の冬が最も厳しくなる時期だ。
昼夜無く雪が降り、通りの雪かきもやってもやってもきりがない。
大通りの中央には、子どもたちが作った雪だるまや雪像が列を成していた。与羽がいればすごい雪像が見られるのに、天駆に行っていて残念だ、と言うのは城下町に住むある人の言だ。
それまでは数日に一度だった比呼の仕事も、毎朝に増えた。
下に人がいないことを確認して、雪に鋤をさし込み、体重をかけて屋根の上を滑らせる。積もりたての細かな雪がふわりと舞い上がり、通りへ落ちた。
そしてすぐに、その隣へと鋤を立てる。
「うん、まぁだいぶ板についてきたわね」
屋根の一番高いところに座った凪が、比呼の手際をそう評す。
「屋根から落ちることは無くなったし」
以前は力加減が分からなかったり、雪や氷に足をとられたりして、屋根から落ちることもあった。体術に優れた比呼なので、怪我をすることは無かったが、そのたびに近くにいた人々の失笑の的になっていたのだ。
「……ありがとう」
比呼は顔の下半分を覆っていた細長い毛織物をあごまで下げ、ほほえんだ。凍った空気が頬を刺したが、今はそれが気にならないくらい喜びで火照っている。
「お礼なんていいのに」
比呼よりも幾分薄着な凪は、ほんのり桃色に染まった手を振った。
「寒くない?」
「寒いわよ」
凪は当たり前のように答える。
「でも、中州の冬なんてこんなもんだから、慣れるわ。あたしを早く温まらせたいなら、仕事をしてちょうだい」
「……厳しいな」
比呼は呟いて、新たな雪に鋤を立てる。
その背を、凪はほほをかじかませながらもにっこり笑って見た。長年中州城下町に住んできた人々と比べれば未熟だが、彼は結構筋が良い。道具の扱い方も体の動かし方もすぐ覚えた。
雪おろしは全身を使う重労働だ。慣れていない人がやれば、少なくとも一週間は筋肉痛に苦しむことになるにもかかわらず、比呼は全くそうならない。ここは、かつて暗殺者として鍛えてきた体と、適応力のなせる業だろう。
ただ、素なのか、暗殺者としての使命を解放され気が抜けたからか、今の彼はどこか間の抜けた状態だ。それが、屋根から落ちるなど、小さな失敗を生む原因になっている。
――この調子なら、すぐに中州にもなじめるわ。




