三章五節 - 春風
「それにしても! あなたはすごいですね!」
うなだれた比呼を見て、何とか話を変えようとアメがにっこり笑う。
「この寒い時期に池に飛び込むなんて、普通できませんよ」
本当は飛び込んだのではなく北斗に落とされたのだが、比呼はあえて訂正しなかった。
「あ、ありがとうございます」
「無謀とも言えるがな」
絡柳がそう口を挟む。
「でも――」
「まぁ、そのおかげで子どもは助かったし、結果としてお前は正しかったと言える。中州は努力と能力、経験に基づいた運の民だ。お前が無事子どもを救い出し、お前自身も元気なら、それはお前の能力と意思がその幸運を導いたんだろう。
『運も実力の内』――もとい、『運を実力が導く』」
さすが文官第五位と言える堅苦しい言葉。
「………?」
「分かりやすく言ってやれ」
戸惑う比呼と、どすの利いた声ですごむ雷乱。
「えっと、いつもは水月大臣もここまでややこしい言葉は、使わないんですけど……」
そんな彼らに、アメが申し訳なさそうに声をかけた。
「要するに、大臣は『お前の判断は正しかった。俺はお前の実力を認める』って言ってるんだと思います。ですよね?」
「あながち間違っていない」
文官五位――水月絡柳大臣が浅くうなずく。
「乱舞――城主に報告しておこう。長髪美形ってところが気に入らないが、なかなか使えそうだ」
一応は認められたらしい。
「ありがとうございます」
「態度も謙虚だしな」
城主への報告内容が一文増えた。
「凪那さんも来たし、一件落着か」
そう言って、絡柳は淡くほほえんだ。
彼の視線の先には、小走りで駆けて来る凪と子どもの母親らしき中年の女性がいた。




