三章四節 - 日と火の熱
日があたる場所でも、やはり寒い。それを察してか、雷乱の連れてきた一人が、持って来た薪に火をつけてくれた。
「お前か、俺から長髪美青年の称号を奪い取ったのは」
彼はさらに自分の上着を比呼に着せ掛けながら、低く言う。
「え……?」
比呼はその青年を見た。
歳は二十代前半――比呼と同じくらい。腰をやや過ぎるくらいの滑らかな長髪を、低い位置でひとつに束ねている。顔は鼻筋が通り、あごは細め。やや黒目がちな目は穏やかで、しかしきりりとした眉が男性らしさをかもしている。
比呼は中性的――むしろ女性っぽい美しさを持っているが、彼は完全な美男子だ。
「ついこの間まで、長髪・美青年と言えば俺を表す代名詞だったんだがな」
不機嫌に比呼を睨み据える態度も、どこか野性味があって男性的だ。
「えと……」
比呼は戸惑った。初対面の相手にいきなり文句を言われたのは初めてだ。謝るべきか、冗談だと思って笑うべきか――。
比呼は彼の性格や気質はもちろん、名前さえ知らない。
返答に困って黙っていると、青年はふと思い出したように自己紹介をはじめた。
「あぁ、俺は水月絡柳。文官第五位。武官第十九位」
戦の多い中州で、武官の位を持つ文官は少なくない。しかし、彼の歳を考えた場合、これらの位はかなり高いと言える。優秀な人物だ。
もちろん、中州最大の文武一致を成し遂げているのは、文官一位、武官四位の古狐卯龍だが。
「こっちは漏日天雨。月見川を挟んだ対岸の国――青原国漏日領主の遠縁だな」
「はじめまして。文官第三十七位。漏日天雨です。親しい人は『アメ』って呼びます」
絡柳の紹介に、少年の世話をしていたアメは深く頭を下げた。歳は与羽や辰海と同じくらいだろう。それでも、文官三十七位。辰海より上だ。
北斗がそう呼んでいたように童顔で、よく日に焼けた肌もあり少年っぽい。背もあまり高くない。明るく優しい面差しで、親しみやすい雰囲気だ。
「えっと、比呼……です」
一応自分も名乗っておく。まだ体が冷え、声も震えていた。火に当たっているところは熱いが、それ以外は氷のように冷たい。
「長髪、美青年、元暗殺者、薬師の居候……、だな」
なぜか絡柳がそう付け足す。
「水月大臣、それは少しひどいです」
アメがたしなめようとするが、絡柳は涼しげな顔をしている。我関せずと言ったところか。
「前半はほめ言葉だが――?」
「たっぷりこめられた皮肉を感じます」
アメの口調はどこか物慣れている。
「別に、そんなつもりはなかったが……。長髪美形の称号を奪われたくらいで、根に持つなどばかげているからな」
そう言いつつ本当は相当根に持っているのを示唆しながら、絡柳は比呼に流し目した。
「……すみません。どうしてもいやなら、切りますけど――」
「比呼さんもそんなに気にしなくていいですよ。半分は冗談ですから」
つまり、もう半分は本気ということか……。




