表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩3 - 袖ひちて  作者: 白楠 月玻
三章 水滴る
10/17

三章二節 - 融氷の道

 隣で氷が砕けた瞬間、比呼(ひこ)の体の下にあった氷もその重みに耐え切れなくなり、割れてしまった。何か音がしたのかもしれないが、衝撃と恐怖で混乱した比呼には何も分からない。


「落ち着け、チビ」


 男が比呼の目の前にある氷を砕きながら言う。


「死にたいのか? 与羽(よう)の顔に泥を塗ったら許さんぞ」


 どうしてここで与羽の名が出てくるのか。


 ――ああ、僕が与羽に仕えているから……?


 あんたを信じると言った与羽の言葉がよみがえる。

 比呼の体から、無駄な力が抜けた。混乱していた心が落ち着きを取り戻す。


 体を浮かせておくための、必要最低限の動作。水の冷たさを感じないほどの集中力。

 暗殺者として鍛えてきた技術だったが、今その心にはかつてのような黒い塊はない。


 比呼は冷たい水を()いた。

 一掻き、二掻き――。三掻きで池に落ちた少年のところまでたどり着く。

 張っていた氷は、長い竿を持つ男によって全て割られていた。背後ではまだ氷を砕く音がする。


 比呼は少年のかじかむ冷たい手を強く握った。


「がんばれ……」


 そう声を絞り出し、その手を引く。少年をしっかりと胸に抱き、すぐに体の向きを変えた。

 そこには、一本の道。水路ができていた。氷がまっすぐ池の縁へ向かって割られていたのだ。

 比呼はそこを泳いだ。

 片腕に抱えた少年の体は冷たいが、意識はある。弱々しく比呼の着物を掴もうとするが、手がかじかんでできないようだ。

 彼を安心させるためにも、比呼は少年を抱える手に力を込めた。


 水路の終点には、例の男が立っている。そこは十分氷が厚いらしい。

 比呼は少年の脇を抱えて持ち上げようとしたが、寒さで筋肉が痙攣(けいれん)している。しかし、男が危なげない動作で少年を抱き上げ、後ろの子どもたちに渡した。子どもはすぐに、濡れた着物を脱がされ、乾いた着物で包まれる。


「掴まれるか?」


 次に男は比呼へと手を差し出した。

 弱々しく手を伸ばすと、手首をがっちり掴まれ、吊り上げるようにひっぱり出される。肩関節が悲鳴をあげたが、比呼は気にしなかった。せいぜい捻挫(ねんざ)程度だろう。


「思ったよりは重いな」


 そう呟き、男は自分の着物で比呼の体をしっかりと包み込んだ。


「ご苦労さん」


「あ、あなたは――?」


 寒さで歯をがちがち言わせながらも、比呼は尋ねずにはいられなかった。


「その前に、少しでも暖かいところに行こう」


 男は軽々と比呼を肩に担ぎ上げ、何重にも着物に包まってがたがた震えている少年を抱き上げた。


「竿は置いといてくれていい」


 氷を砕くのに使った竿を一瞥(いちべつ)して、歩きはじめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ