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夢の魔法  作者: 天窓
9/13

Your Door is Ajar



兎狩りの時間だ。


ぜってぇ逃がさねぇ。はっはっは

今回の狩り(ハンティング)の獲物、雪野さんとの甘い最後の逢瀬では

脱兎のごとく逃げられるという悪役全開の始末だった。

これがどこぞのテンプレ主人公だったら

次に顔を会わせても例によって逃げられる→だが諦めない→距離を詰める

→事件が起こる→身を挺してかっこよく助ける→怪我をする→惚れられる。

一丁あがり。補正ってすごい。


でも自分の人生の主人公は自分自身だ。

そして雪野さんは雪野さんの人生の主人公なんだ。

だから俺に都合の良い主人公補正の事件など期待出来ないのである。

ならばどうするか。結論は出た。


捕縛しよう(すっごい悪い顔)


高尚なる男子高校生の理論はこうだ。

ゆきのん(愛称)は昨日の事を引け目に感じている。おそらく逃げられるだろう。

無口で内向的なキャラは最初逃げる。鉄則。

そして彼女は一度自分から距離をあけてしまったら

そこから距離を詰めるのは容易ではないであろう。

昨日のは扉バン込みの不慮の事故といえるはず。まだ挽回範囲内だ。

大事なのは今からの接触。これを逃すとチャンスが遠のく。俺の心と部室がやばい。


「なら逃げられなくしたら良くね?」


発言したのは筋肉質坊主である。

絵的に問題のある発言で内容も問題あったのでその時は即却下ボッシュートした。

君が体を鍛えているのは知っているが脳まで筋肉に侵されているとは知らなんだ。

だけども1日考えても良い案が出ないし単純接触にタイムリミットと逃走の問題があるので

非常に残念なことながら、一周回って有効かもしれないなと、


本日最後のコースメニュー

我らが担任である春ちゃんの『英語』の時間に結論が下された。

春ちゃんの外国での体験を交えた授業は非常に愉快なのだが

『半ドア』とかいう使いどころの分からない英文を教えるのはやめて欲しい。

テストに出ますかそれ。

あと春ちゃんの英語の発音ですが


「ゆあーどあーいずえじゃー※Your door is ajar.」


ひらがな表記です。

英語の教師としてはどうかと思いますが結婚して下さい。



           ●



放課後。


という訳で一介の可愛い女子高生を男子数人で捕まえるという

危険な思想を持った人間たちが行動を開始する。

こちらの手駒は超能力者2人。

流石に女の子狩りに行くのに女の子使うのも鬼畜の所業で、

ていうか事情が事情なので鈴野さんはやっぱり筋トレで良かった。頑張れワンコ。


「うむ。待たせた」


「大丈夫だ。こっちは担任が最後の授業だったから早く終わったんだよ」


「うん、6組はまだ終わってないみたいだから問題ないよ。……それじゃあ辰野、富士野君。状況を見て行動開始だ」


6組のHRが終わるのを待つ。雪野さんに声をかけるのは俺だ。

唯一接触があるのだから仕方ない。富士野君はあの時雪野さんのアウトオブ眼中だったであろう。

教室からの人の波に飲まれてしまうと困るのだが

恐らく彼女は教室に人が居なくなってから帰ると推測を立てていた。

先日の件もあるのでさっさと帰った方が良いと思うのだが、恐らく人混みが苦手なのだろう。


これは好都合。利用させて貰おう―――――





――――――


HRが終わり教室のざわめきの波が引いていく中で、私は落ち込んでいた。

昨日の事を思い出してである。


彼――夢野君には失礼なことをした。今日一日ずっとその事を考えている。

もしかしたら、もしかしたら。彼は私の『異常』を認めてくれたかも知れない。

それが私の勝手な希望であることは分かっている。

久しぶりに人と接したので夢見がちな期待をしているだけだ。

それに彼と会えても何を話せば良いのか分からない。

もし彼が今、私の目の前に現われたなら多分また私は逃げてしまうだろう―――


「ねぇあんた、何で学校来てるの?」


考え事をしている内に、教室から人は居なくなっていた。

しまった。やはり人ごみに紛れてさっさと帰るべきだったと反省する。

そう昨日考えていた筈なのに。私は既に昨日と同じく囲まれていた。


昨日は廊下で捕まったのだが今日は教室にしたらしい


「おぃおぃ、お前らきっついなぁー。雪野ちゃん泣きそうだぜぇー」


しかも今回はけらけらと笑う男が数人追加されている。あまり良くない状況だろう。


「しっかしさぁー雪野ちゃんも良く見たら顔は可愛いんだから勿体ないよなぁー」


「俺たちこれから遊びに行くんだけど、どう?一緒に――――」


なんでだろう。

なんで私はこんななのだろう。

既に話しかけてくる人たちの声は聞こえていなかった。


…私はずっとこうして生きていくのだろうか。


悪いことなど何もしていないのにこうして小さくなって生きていくのか。


私は


私は―――












「お忙しい所こんにちは!山岳部ですっ!」










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