出会い2
翌日。
我ながら完璧な計画である。
「ザイアンスの単純接触効果」を利用するのである。
難しく言ったがなんてことはない、要するに会えば会うほどに新密度は上昇する。
会いたい気持ちが積み重なって恋に恋しちゃう訳である、全然違う。
その真理は毎日会えば壁は薄くなるであろうということだ。
日々挨拶を交わせば自然と人は警戒を解いていく。
これを利用して雪野さんと距離を詰めれば彼女の心の壁―――
「―の前に山岳部が潰れるんだなぁこれが」
問題はタイムリミットである。
現状をもって山岳部継続をするためには2人も足りない。
雪野さんさえ迎え入れれば残り一人はどうにかなる(気がします!)
希望的観測の前にまずは雪野さんと単純接触をしに行こうそうしよう。
と俺は考えながら校門をくぐり抜けて教室に向かう。
「おはよう夢野君。少し山岳部の件で話があるんだけど良いかしら」
「」
なんてこった。
本日記念すべき1番目の接触者は俺たちの春ちゃんである。その笑顔が怖い。
朝の廊下で土下座はきつい。
あとで土下座するにしても人がいない時間を見計らうつもりであったというのに…
「おはようございます春先生。どうなさいましたか?」
まだ死ぬわけにはいかない。旗色を窺うことで延命を計る。
「いえね、山岳部に興味があるという子が来たので今日にでも話を出来たら思って――」
「本当ですか!紹介して頂けると助かります!」
勝った!まさかの逆転ホーマーである。春先生は今日も笑顔が美しい。
「…あの、その子はもしかして6組の子ですか?」
「いえ?確か1組の子よ?」
「そうですか…」
もしかしたら雪野さんの可能性を考えたのだが別ルートらしい。
「6組に誰か部員になってくれそうな子がいるのかしら?」
「はい、まぁ可能性ですが…」
「良かった。だったら頑張って頂戴、私は山岳の知識もないしテニス部の顧問もあるからあまり力になれないけど、せっかくの高校生活なんだから部活はしてほしいものね」
なんてこった。女神は教室前におわせられたのだ。
春ちゃん先生……どうしても年下は駄目なんですかね!御一考!御一考を!
「ありがとうございます!じゃあその子とはどこで会えば良いですか?」
「そうね、お昼休みにでも―――」
●
そして昼休みである。ナイスカット。授業なんて記憶にない。テストが怖い。
昼休みに雪野さんに接触かまそうかと思ったが致し方ない。
時間制限もある昼休みより放課後に捕縛するのが正解だろう。
でないとおちおち能力の話も出来ないからな…
そうして『山岳部』部室にて辰野と富士野君の3人で今か今かと
山岳部に多大なる興味を持ちあわす美少女(だったら嬉しい)を待ち構えているのである。
「でもさー夢野。超能力者じゃない子ってどうなんかな?」
「あーうん、そうだよなぁ…それがちょっと気になってるんだよなぁ……でもとりあえず話を聞いてから考えようぜ」
「そうであるな、入ってくれると限った訳ではないからな」
超能力って言ってもあってないようなもんだから気にしなくて良いだろ。
とかなんとか言いながら俺たちの能力の存在意義が失われていた時。
「こんにちはー!ここは山岳部ですかー!」
という声が『隣の部室』から聞こえた。こっちです。
●
「いやー、山岳部はここでしたかー」
「ははは、分かりづらい所でごめんなさいね」
嘘です、普通に分かります。
部室棟は扉さえちゃんと見れば何部か書いてある。ドア見ろ、ドア。
「お名前は鈴野さん…でしたっけ?」
「はい!鈴野です!鈴野 茜です!」
あーこれは茜っぽいですねぇ
少し明るめの茶髪、ウェーブがかかった髪は肩より上ぐらいでとても柔らかそうだ
身長は平均、顔立ちはパッチリ元気の子。人懐こそう。
雪野さんがウサギなら鈴野さんはワンコか、
元気印のドジっ娘とか合格ラインが下すぎて見えないです。ありがとうございます!
「おぉ……」
「うむ…うむ……」
解説のお二人も納得の表情、辰野口閉じろ。
かくして文句なしの美少女である鈴野さんだがこちらも色々と問題がある部活だ。
「で、この山岳部なんですが、春先生からお話は聞いてると思いますが山岳の知識のある顧問が居らっしゃらないのであまり活動らしい活動は出来ないと思うのですが…」
「全然大丈夫です!運動系の部活に入ったらトレーニングジムが使えると聞いて来ました!」
「あぁ、つまりジム目当てですか…」
なるほど、ワンコは運動しないと病気になる訳だ。
そして我が校の誇るトレーニングジムは運動系の部活なら使いたい放題。
部活として縛られたくなくてもジムを使いたい人には良いかもしれないな、
その方向で勧誘していけば良かったかなどと考えているとワンコが慌てる。
「で、でも山も好きなので頑張ります!」
おっけー超可愛い。許す!というか別に俺たちもその方向性で山岳部にいるのだ、
むしろ好都合。全く問題ない。口を閉じろ辰野。涎が出てる。
「うむ、では鈴野さんは我が山岳部のメンバーになるということで宜しいな?」
うむうむ頷き地蔵がようやっと現世に回帰して俺たちに尋ねる。
「もちろん、歓迎しますよ。よろしくお願いします鈴野さん」
「おう……おう…!」
「……あぁそうだ最後に。辰野!」
デレデレ坊主に声をかけ『質問』をさせる。
「おう、鈴野さん!」
「は、はい!」
鈴野さんが身構える。
あほ坊主…もうちょっと流れで聞けよ。ただでさえ意味不明な質問なのに…
まぁ仕方ない。さて、どう転ぶか………
「えっと、鈴野さんは超能力とか使えたりする?」