出会い
いじめってのはなんとも哀しいことである
男子のいじめは殴り合いと時が解決することも多いが、女子のはそうもいかないらしい。
少なくとも入学ひと月で順調に校舎内の廊下で堂々たるいじめを行えるのは怖い話だと思う。
いじめを止めていじめられる、なんてのも避けたい。
しかし俺はいじめを目の前にしてタッチで帰れるほど腐っても無かったようで
「あのー、すいません」
とりあえず声をかけてしまった。なんでだ俺。なんで普通に声をかけてんの。
しかしちゃんと聞こえたみたいでいじめっ娘たちが少しビクッとする。おもしろい。
「…なによあんた」
ごめんなさい完璧に臨戦態勢とられました。
声をかける前に物音でこちらの存在を認知させるべきだったか。
野生の熊とかにもそうするし、そしたら自然といじめ終了してたかもしれないのにね。
バトルフェイズ入っちゃったよコレどーすんの?
相手は3人。
えぇい!仕方ない。やけくそだ!
「いやですね。僕、『山岳部』に入ってるんですけど今年の部員が足りないので宜しかったらお話をと
思いまして―――」
ぉぉおおおおお!俺何言ってんの!何勧誘してんのよ!相手いじめっこだよ!追い剥ぎだよ!!山岳部じゃなくて山賊部だよ!入部されても困っちゃうよどうすんの!?
しかしむなしく俺の弾丸営業トークは止まらない。
山の素晴らしさ、山頂踏破の素晴らしさを熱く語る。エベレストがどうした?
そんな俺をみつめる彼女たちの瞳には困惑が溢れ出る。
くっそう!完璧に変人じゃないか!富士野君じゃあるまいし!
だが3人組は確かに弱った、これを勝機と見出して、いじめられていた少女の方に声をかける!
「君もそう思いませんか!どうです山岳部。興味ない?」
「………」
「そうか!じゃあちょっと一緒に部室まで来てくれますか!」
返事がないということは肯定ということ!
彼女の手を取り、未だひるんでいる3人組のいじめっこ結界から連れ出す。
今時トライアングルに囲いやがって…
こうなったらやけくそなので富士野君ばりに高笑いかましながらその場を後にする。
放課後の校舎に人攫い現る、生徒会とかに見つかったらこってり絞られそうだ。
三人組がもう少し弱ってなかったらきっと、
獲物を連れ去っていく俺の背中にそこはかとない哀愁をみてとっただろう…
●
「神は死んだ。これ以上の変態行動は死人がでる…主に俺が……」
『山岳部』部室である。
俺は先ほどの闘いで社会評価ゲージが変人に限りなく近づいたことに絶望している。
辰野も富士野君もまだ入部届けをばらまいているので誰もいない。
「…………あの」
彼女以外は、である。
この部屋に女性を招くのは君が初めてだよ、ぐへへ。
だが男と密室に2人きりにするのも不安だと思い部室の扉は開けてある。超紳士俺。
しかしその入口から風が入り2人の空間は冷えてゆくばかり、じーざす。
「は、はい。なんでしょうか?」
「……………いえ………ありがとう………ございました…」
彼女は俯き、長い前髪に顔を隠しながらも小さな声でお礼を言った。
…無口キャラだな(確信)これはなんにせよ頑張ってお礼は言われているのだ、
こちらも誠意ある対応をしなければならないであろう。
「なんでいじめられてたんですか?」
「………………」
完璧な地雷撤去!(爆破式)。我ながら泣ける。
俯く彼女はさらに影を差してその表情を覆い隠してしまう。
しかして実際無口ではあるが彼女は非常に整った顔立ちをしていた(チェック済み)
笑顔でいればその小動物的な可愛さで愛されガール間違いなしだ。太鼓判。
そんな可愛い女の子と話すのは非常に経験のない私でありテンパっている、
だからつい外見的には問題なさそうな彼女が、あそこまでテンプレにいじめられるのは一体どんな理由があるのか気になって聞いてしまったのである。許される。
「えっと…そ、そうですね。そういえばお、お名前はなんというのです?」
そう名前!簡単に答えられて支障の無い、円滑なコミュニケーションツール!
これでさきほどの爆破によって荒れ地となった場をとりなす。
彼女も整地を手伝ってくれるようで顔を少しだけ上げて答えてくれた。
「……………雪野…です」
「雪野さんですか、僕は『山岳部』の夢野といいます。ちなみにクラスは3組です」
あー、雪野っぽいね。うん、雪野っぽい。やっぱ可愛い。
無言に呑まれる前に質問しよう。
「雪野さんのクラスは何組ですか?」
「…………6組です」
「6組ですかー、6組といえばそうですねぇーアレですね、うん…ん?」
6組の話を今日聞いた気がする。気がするってレベルじゃなく直結である。
探偵ではないがこれはもうじっちゃんの名に懸けても彼女の正体といじめられている理由は推測できた。
つまり彼女は―――
バ ン ッ !
『幽霊憑き』ですか――と言おうとした矢先に部室の扉が勢いよく閉まった。
―
――
―――
――――
―――――びっくりした。
何にびっくりしたのかというと扉バン!ではない
自分の巡り合わせにである。
一度は神を恨んだ。何ゆえ迷える子羊を超能力山岳部に招き入れたのか、と。
しかして神は微笑んだのである。
彼女は超能力者よ――
思わず壮大な物語が幕を開けそうだ。
何か展開が急ぎすぎてるんじゃないかと思ったがこれが神の与えたチャンスなのか
待望の美少女超能力者(予定)が目の前にいるのである。
主人公補正万歳!人生の主人公は君だ!
しかしまずは確認が必要である。冷静に行こう。
扉バン!の音の余韻が冷めやらぬ部室内で俺は行動を開始する――
なんだか青白い顔をした雪野さんの横を通り過ぎて問題の扉に向かう。
「…何も無く、誰もいない………」
チェックポイントワン、通過です。
もう一度扉を開けっ放しにして様子を見る。
「風も吹いていないな……」
良し、簡易だがとりあえず物理的側面からの考証は完了した。
…これは超能力ですなぁ(ニンマリ)
溢れ出るにやけ顔を必死で隠しながら雪野さんの顔を見る。そしてうろたえる俺。
「……うっ……ひぐっ……」
雪野さんは小さな肩を震わせながら嗚咽をこらえていた。
隠れた目元からの涙は膝の上、ギュッと力を入れて握っている両の拳の上にぽつぽつと零れ落ちている。
泣いております。雪野ちゃんめっちゃ泣いてます!
あーもうこれはアレですね、完璧に犯人は僕ですね。
扉バン!の後、扉確認してしかめっ面するとかトラウマ抉ってるよねこれぇ…
俺は馬鹿だけど彼女の泣いてる姿を見て理解した。、
…彼女はこの現象において同じ様な対応を何度もされたのだろう。
その数だけ友達を失くし、悲しんだのだろう。
そしてまた人に怖がられ拒絶されるのを覚悟して涙しているんだ。
異常は孤独で、弾かれる。
彼女がどんな人生を送って来たのかは分からない。
俺が簡単に共感なんてしてはいけないほどに悲しみと孤独を味わってきたのだろうか、
でも山岳部はある意味異常の宝庫である。だとすれば彼女に声をかけるべきだろう。
独りではないのだと、ここでならあなたは異常なんかじゃないのだと――
「雪野さ―――」
「ただいま還ったぞ同志よ!書類は減っていないが腹は減る!何か食べ――うわっ!」
……おいおいマジかよ、雪野さん弾かれるように飛び出していったよ。
まるでウサギでしたー小動物カワイイーとか思う前にちょっと富士野君こっち来い。
「おぉっとこれは夢野が部室に女の子連れ込んで泣かして逃げられた現場に遭遇してしまったということで――がふっ!」
「富士野君」
「……何があったのかお話し願えるだろうか」
ちょっと富士野君を真剣な眼で(殴って)みたら察してくれたみたいだ。
雪野さんを追いたいがあの速さだともうどこに居るやら…
とりあえず富士野君に経緯を説明するとしよう…
●
「…つまり先ほどの彼女が6組の『幽霊憑き』であったという訳か」
「そうなるね、でも幽霊じゃなくて超能力だと思うけどね」
「ふむ、超能力を知ってる人間からすればその可能性の方が大きいと考えるであろう」
「どちらにせよ雪野さんにはまた接触しないといけないな…」
「うむ!あのような可愛らしい女の子なら大歓迎だ!!」
「おお!雪野さん可愛いからな!富士野君も見る目があるじゃん!」
「はっは、泣き顔しかじっくり見れなかったがな!」
富士野君も雪野さんの可愛らしさは理解しているみたいだ。
ていうかお前絶対さっき『時間停止』使っただろ!
すれ違った一瞬で雪野さんの顔をガン見したってことかこの野郎……能力使いこなしてやがるぜ……
「とにかく明日、雪野さんと会わないとな……辰野はどこにいるんだ?」
「おいーっす、帰ったぞー」
噂をすればなんとやらか。
辰野がバン!と扉を開けて何だか疲れた顔で帰って来た。
それ、なんか俺のトラウマにもなりかけてるからやめて。
「なんだお前らちゃんと勧誘したのか?帰るの早すぎだろ…」
「おまえこそ枚数減ってないようだが手ごたえはあったのか?」
「もちろんないない、ていうか富士野よぉ。春ちゃんに注意されたぞー、何か変な奴が山岳部に勧誘して来て怖かったとかって噂になってるって」
「いやそれは僕では―――」
ぐぬぬ、いじめっこ3人組め。
いじめだけでは飽き足らず我が『山岳部』に喧嘩を売ろうと言うのか!
良かろう!あとで春ちゃんには土下座して許して貰うしかないようだ!
「くそぅ……まぁいい!そんなことより辰野!報告がある!」
とりあえず今は雪野さんのことで作戦を建てよう――――