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夢の魔法  作者: 天窓
12/13

望郷、過去、結成



「おぉ、蔦道(つたみち)はまたおまけしてもらったのか?」


「うん!爺ちゃんにも一個あげる!」


――昔の思い出だ。

夏祭りに来ていた、日は暮れているが夜店の通りはそれでも明るい。

昔の思い出の景色はぼんやりと滲み、どうしてか暖かく懐かしい匂いがする。


「かなでちゃんにも一個あげる!そー君にも!」


そこには2人の幼馴染たちもいた。

(かなで)ちゃんは黒髪のおかっぱに子供用の浴衣を着ておりまるで人形みたいで

ぶっきらぼうに俺の手からお菓子を受け取る。

将来的な俺のM属性の発現に多大なる影響を与える要因だ。

もう一人の幼馴染は純粋かつ無垢な笑顔でお礼を言い、お菓子を受け取る。

その仕草が容姿とあいまってこちらも天使、もったいない。

この頃から初期ステータスの差を感じる容貌である。バグだ。


「はっはっは。蔦道は良い子だなぁ」


爺さんはそういって小さい俺の頭をなでる。爺さんは厳しいが良い子には優しかった。

あぁ、確かに我ながら良い子だ。

おまけ、込みとはいえ惜しげもなく無差別に、自分の軍資金で買ったカステラ焼きを

下々に配る少年はとてもじゃないが俺と同一人物なのか。

母をして「どうしてこうなった」と言われるほどにこの少年は純粋で可愛らしい。

いやほんとにどうしてこうなったのでしょうね。




「どうしてこうなったかは分かってるだろう夢野軍曹」


「はい…理解しております辰野少尉……反省しております……」


現世です。

『山岳部』部室内で正座をして英霊たちに謝罪をする俺が居た。

思わず楽しかった昔の思い出に逃げ込んでしまうのは人の性であろう。いや走馬灯か。

辰野は怒りマークをつけながら俺を見おろし、富士野君はその横で呆れ顔だ。


「俺と富士野が必死に馬鹿を相手にしてる時にお前は優雅に美少女とニャンニャンタイムとは恐れ入ったぜ……」


「いえそれには深い事情がありましてですね――」


「黙れ!発言は許可していない!」


くっそ、この筋肉坊主、横暴である。しかし


「でも2人とも、今さらだけど本当に大丈夫だったのか?結果的に2対3だったけど」


「ホント今さらだろ……んで、あー、それなんだが…」


そういって辰野は富士野君を見る


「富士野がほとんど一人で片づけちまった」


「はっはっ。任されたと言ったであろう?」


「……マジで?」


きゃー富士野くーん!マジかっこいいー!

筋肉坊主は偉そうなくせになんもしてないじゃーん!

これは富士野君に新しい称号を与えないといけないか…

しかし彼の細い体のどこにそんな力が…まさか実家が古武術やってるとかいう

補足説明にしてはやたら好都合な主人公アビリティの持ち主なのか!


「うむ。それについてはまた後日説明しようではないか!それより夢野、説明を求めようか」


っち。逃げ切れないか…富士野君も一見冷静だがたっぷりと不服そうだ。しょーがない。

部室の床に正座する俺は、丁重に一番ガタつきのないパイプ椅子に座って頂いてる雪野さんの方を見る。


「とりあえず先ほどまでの経緯。お話しても良いですか?」


「………はい」


なんか顔真っ赤にして雪野さんが答える。超可愛い。

そして2人の無言の圧力が俺を殺さんと襲い掛かる。超やばい。説明はよ。



                 ●


「………そっか。大変だったんだな」


「……うむ」


雪野さんの能力(の予想)とこれまでの経緯を聞いた2人はそういって頷いた。

まだ彼女の口から説明は難しいだろうので俺が至らない説明をさして貰った次第だが、

辰野も富士野君も『異常』の能力者である。その孤独は理解できる所があったのだろう―――

俺が説明している間ずっと、俯いていた雪野さんに2人は声をかける


「なんにせよ、これからは独りじゃないんだ、俺たちがいる!」


「うむ。これからは雪野さんも我らが同志である!」


――辰野、富士野君。やっぱりお前ら良い奴だな


それを聞いて雪野さんはやっと顔を上げて―――


「………はいっ」


はじめて笑顔を見せてくれた。



                 ●



その破壊力たるや。である。

前に俺は「笑ったらもっと可愛いのになぁ」とか考えていた。

そうではなかった。そうではなかったのである。

雪野さんの笑顔はもっと可愛いのにとかそんなレベルでは無かった。

少し長めの前髪が隠していた形の良い、潤んだ瞳を細くして

紅潮した頬を僅かに上に押し上げながら、はにかむように笑った雪野さんはなんていうかその――

「女神か……」

うっわ。坊主と感想かぶっちまった…

だがまぁ、これは女神である。潤いのない『山岳部』に舞い降りた天使なのである。

富士野君は噛みしめる様に瞳を閉じている。

お前『時間停止(ストップ)』使ってエンジェルスマイル堪能しやがったな

やっぱりずるいぞその能力。俺のと変えろ。


なんにせよ女神は降りた。確保だ!


「じゃあ、雪野さんも『山岳部』の部員になってもらえるということで良いですね?」


「…はいっ……よろしく…よろしくお願いしますっ」


雪野さんは涙で潤んだ眼を指で拭いながらそう答える

三点リーダーが減っている。これから話すことが増えればもっと減るだろうか。

無口キャラも惜しいが人間変わっていくものである。そんな変化なら喜んで受け入れよう。


部員は揃った


『山岳部』のメンバーはこれから先、誰一人欠けることなく青春をエンジョイするんだ

そこには辛いこともあるだろう。だが俺たちなら乗り越えられる!さぁ!皆で誓おう!!

部活での団結は俺の理想の青春の1ページになる!

目標に向かって一致団結して突き進むのだ!鬨の声をあげろ!


「良し!これで『山岳部』の部員は5人揃った!俺たちの青春は始まったばかりだ!さぁ!全員で青春を謳歌しようではないか!!行くぞ!燃えるぞ!山岳部!!!」


「「おう!」」



こうして『山岳部』の歴史は新たに始まったのである






「……えっと…5人……ですか?」



「「「…あぁ」」」



ワンコを忘れていた。




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