『半開き』
校舎から部室棟までバタバタと走り抜ける。これは青春の香りがする。
わりと荒々しい展開だったけれど将来的には良い思い出だろう(予定)
いつか、彼女が昔を思いだす時に
これが良い思い出の最初のページに刻まれるのか―――は今からが勝負である。
「…ふぅ……さて、とぉ……」
「…………」
2人して息も荒く『山岳部』部室内のパイプ椅子に腰かける。何か字面がエロい。
さてはて問題はここからの話の持って行き方なんだが……
「………あの……」
「雪野さん」
「………はい」
あえてぶった切る。
ここで彼女に話をさせると全力で謝りかねない。それでは流れがよろしくない。
出来れば謝る前に笑った顔を見せてもらいたいものです。
「雪野さんは超能力って信じますか?」
結局は、まっすぐ向かい合うしかないんだな。
搦め手は性に合わない。一気に畳み込もう。
「……いえ」
「僕は雪野さんの『幽霊憑き』の噂を知っています」
彼女の瞳が揺れる。
「それを、僕は雪野さんの超能力なんだと考えてます」
電波である。実に電波な男である夢野。だが必要な言葉だ。
彼女は良く分からないといった表情を浮かべて此方を見る
あぁ、その困った表情頂きました。ありがとうございます。
「…超…能力……ですか」
「はい、超能力です。雪野さんの能力は扉とかに作用する能力なのだと考えてます」
我ながら適当だな、と思う。
でも実際まだ良く分かってないのだ、理解するためには
「だから、実験。してみませんか?」
実証あるのみ。小学生の頃から全く進歩していない。
雪野さんの能力は、ドアとか窓に作用する類のもので間違いないだろう。
そしてぶっちゃけ「ドアを閉める」だけの能力だと考えている、しょーもな。
だがうわさ話や本人の話でもドアや窓は閉じても開いてはいない。
もしかしたら他にも作用するものがあるかもしれないがそんなに多くはないだろう。
なんでも勝手に動いたら流石にこの年まで幽霊程度でごまかせない。
まだ他に何があるにしても前例のある「ドアを閉める能力」から確かめよう―――
「じゃあ雪野さん。ドアに触れて頂けますか」
いま必要なのは自分の能力を知ることである
そして肝心なのは能力の発動条件だ、
彼女は能力が発動することで不都合を得てきた。
これまで発動しない様に、
発動しない様にとだけしてきたのならば、
そんじゃあ逆に発動させてみようか!という意図でもって
これまで彼女が見えていなかった彼女の能力を検証しようと考えた。
――雪野さんがドアに触れ、離れる。
さて…どうなるか。
前回動いたのは5分ほど経った時だった気がするが今回も動くとは限らない、
むしろ『嘘発見器』の件があるので運ゲかもしれない。あれはひどい。
――おっ
その時不意に音もなくドアが動いた。…早いな。
ほっておいたらまたバンッ!と大きな音がするので閉まる前に押さえる。
あれはそこそこに心臓に悪い。
「なるほど…意識したからか分かりませんがわりと早めに動きましたね」
「……なんで」
あら?なんで雪野さんはびっくりした顔してるんだ?ドアが動くのは慣れっこだろうに。
「………こんなに早く…見てるときに…動いたのは始めて……です……」
ゆきにゃんがが結構しゃべった!
それほどに驚きの現象だったのだろう。
だとすると……ふむ…もしかして…
気分を出すためあごに人差し指を置いて軽くうつむき思考をまとめる。
「雪野さんは扉が閉まるのは『何のせい』だと思ってたんですか?」
「……特に何が…とかはなくて……ただそういうものだ…と…」
なるほど、雪野さんにはこの現象を『自分が起こしている』という意識がなかったのか
あくまで扉は勝手に閉まるので自分の意思で制御出来ないと考えていたのだ。
それなら何となく説明がつく。
彼女は自分で能力の発動・解除が出来ないと思っている。
そこで扉に触れてしまえば能力は解除出来ず扉が閉まるのは確定だろう。
タイムラグは能力の制限時間が来れば自動で発動するのか
それか彼女が扉を意識してしまったことによって起こったということでどうだ。
これを大元に彼女と実証を積み重ねれば彼女の能力は解明出来る。
なぁに発動が運ゲでも美少女と一緒の実証なら願ったり叶ったりだ!
そうならばと、さっそく俺は彼女に自分の推察を話す
――――――
私は何も考えられなかった
自分の『異常』に耐えきれなくなっていた、その時。彼は再び私の前に来てくれた。
なんで――と思う間もなく連れ出される、昨日と同じ。
私の『異常』を見た筈の昨日と同じように。
そこからの事は色々ありすぎて何がなんだか分からない。
色々な思いが頭の中を駆け巡りパンクしそうだった。
こんなにも色々な気持ちで満たされたことはあったのだろうか。
何も考えられずに彼にただ疑問をぶつける
「…どうして……私を助けてくれるの…『異常』で……気味の悪い私を……」と
彼はこう言ってくれた
「雪野さんはもう『独り』じゃないんだ。少なくとも、ここでは『異常』じゃない」
…分からない、どうして、そんなことが言い切れるのか――
彼の言葉にそう思ってしまった私に
彼が見せてくれた、彼の『異常』を私は一生忘れないだろう。
●
これが夢にまで見た理想の高校生活だぁ…
呆けた顔で部室の天井を眺める俺の感動は留まることを知らなかった。
なにを隠そう、今おれは女の子を抱きしめている!!
生まれてからこれまで圧倒的フリースポットであったその胸には
なんとびっくり超能力美少女(確定)である雪野さんが収まっている。
――まず最初に見せるべきであったかもしれない。
雪野さんの反応を見てそう思った。
少なくとも彼女は『異常』の存在を知っているのだ、見せた所で問題なかったであろう。
彼女の『孤独』を解決できるのはこれだけであろうに…
無意識に女の子に自分の能力を披露するのを怖がっていた。
ここいらで俺も色々と乗り越えるべきなのだろう…
反省しながら俺は彼女に俺の『超能力』を披露した。
そしたら効果てきめん泣き出しちゃってもう大変。
きっとまぁ、頭の中ぐちゃぐちゃなんだろうな。と思わず彼女の頭をなでる。
決して下心は無かった。弱っている女の子の弱みにつけ込むほど俺は落ちてはいない。
うん。多分そう。いやちょっとあったかもしれない。
なんにせよ頭をなでられたウサギちゃんは俺の胸に飛び込み泣いてくれているのである。
これがきっと幸せなのだなぁと思い。
そういえば何か2名ほど忘れているなぁとも思った。
だが彼らは俺たち2人のために進んで犠牲となったのだ。
その名誉のために、彼らの生死を俺が追求することはないであろう。
そう心に誓いながらぼんやりと部室の入口の方に目を向ける。
そして、ひっ。と小さく悲鳴をあげた。
能力実証の時に、勢いよく閉まるのを防いだため半開きになったドアの隙間から
今にも襲いかからんとギラギラと野獣のような眼が2対、覗いている。
………このあと俺は生きて明日を迎えられるか分からないから
死ぬ前に雪野さんの能力に名前をつけよう。
そうだな、能力が『閉めきる』能力なんだから
ここはあえて逆に能力が発動する条件である
『閉まりきってない』を意味する―――
『半開き(エジャー)』なんてどうだろう。