小話 新之助の好み
「で、おまえはどうなんだ?」
恭太郎は、大甥である新之助の肩を組む。
無愛想な研修医は、姉のオリガと話があるらしく山田家に訪れていた。
オリガは、母と買い物にでかけているらしく、帰るのはまだ時間がかかる。
女王様な姉貴のことだから、アポの時間を忘れていたとか思ったのだが、どうやら新之助のほうが予定よりも早くきていたらしい。
何をするわけでもなく、なぜかじっと親爺である不死王のほうを見ている。
父は怯えるようにポチの影に隠れている。
もしかして、こいつソッチの気があるのでは、と恭太郎は女性の好みを聞いてみたのである。もちろん、好みというのはやはりあの部分が大きく占めているのは言うまでもない。それが恭太郎である。
恭太郎の質問に、新之助が首を傾げる。
やはりあまり興味ない話題ということか。
「それは具体的には何のこと言ってるんだ?」
聞き返す新之助に恭太郎は呆れ顔を見せる。医者のたまごのくせに、そういう細かい日本語のニュアンスを読み取る能力は低いらしい。まあ、話題が話題だけに曖昧な言い方をした恭太郎も悪いのだが。
「つまりな、大きさとか形とかハリとかいろいろあんだろ? わかるだろ、男ならさ」
新之助はなにかぴんときたらしく、顎をつかんで首を小刻みに揺らす。
「なんだ、そういうことか」
しいていえば、と言葉を続ける。
「ハリは大切だが、同時に色も重要だ」
「そ、そうだな」
意外にもわかった回答をしてくれた新之助の肩を恭太郎はばしばしと叩く。
「色合いは健康状態も示している。一目見れば、そのものの状態がわかる」
新之助が無表情な顔から、だんだんにやけた面になってきた。
けっこうむっつりらしく、事細かに語ってくる。
「さすがだな。そういう視点もあんだよな」
恭太郎は新之助の意見に同調する。
むっつりでもけっこうだ、同志がいるというのはそれだけでうれしいものがある。
「ああ、ぷるぷるとしたハリのある健康的な色合いのものには滅多にお目にかかれない。出会えただけで、今日一日が充実したものになる。触れると壊れそうで壊れない。だが、ずっと見ていることもできないのが残念だ」
なんて奴だ、そこまで好きなのか。
と、いうより毎回別のものを見ているような言いかたに、案外手が早い奴なのではという疑惑が浮かんでくる。
恭太郎は、ほとんど話したことがなかった新之助がそこまでフェチだったことに気が付いて、仲間意識はかなり深いものとなった。
そうだ、男とはそうでなければならない。
「今日はお前と話せてよかったよ」
しみじみという恭太郎に新之助はなぜだか変な質問をしてくる。
「なあ、おまえは喫煙者か?」
「はあ?」
なんのことか意味がわからない質問だが、ノーと返す。
すると、新之助はどこか恍惚とした表情を見せる。
「そうか、おまえのも健康的なピンク色っぽいな」
新之助の言葉に、恭太郎の全身に鳥肌がめぐったのは言うまでもなかった。