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不死王の息子  作者: 日向夏
中学生編 後半
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68 巫女さまの言うとおり 前編

 日高家は兄をのぞき働きものぞろいなので、大晦日も忙しかった。

 祖母はソバを打ち、祖父と由紀子は商店街に買い出しに行く。七福神の飾られた松葉ぼうきを買うのだ。


 母はおせちを作り、兄は一日中ゲームをする。まったくしょうがない兄貴だ。どうせなら隣の山田兄と交換したい、と思ったが、由紀子は一瞬考えたのち、やはり今の兄で十分だな、と思い直した。兄の颯太は働かないけれど問題も起こさない、手間がかからないだけマシなのだ。


(山田くんの家は正月も大変だよな)


 クリスマスほどではないが、やはり正月も制約があるらしく大変だ。下手に昔神様じみたことをやっていたらしくそれが今でも細々と続いているらしい。

 去年も一昨年も、正月にはいろんな人たちが山田家を訪れていた。みんな、なぜか山田父に手を合わせてた理由を山田姉に聞くと、


「生き神とかやってたみたいなの」


 だそうだ。


 いまだに山田父を崇拝するものはいるらしく、年の始めにはやってくるという。


 まあ由紀子には関係ないので、由紀子は由紀子で日高家のお正月を満喫するための準備をするのである。


 商店街は一時的に露店が出て、騒がしく客引きの声が聞こえる。

 

 由紀子は縁起物の飾りをどんどん渡す祖父に辟易する。たしかに縁起物であるが、こんなにたくさん持たせることもないだろうに。


(まあ。もてるけど)


 由紀子の食欲と馬鹿力は、病気の一種というかたちで家族には説明されている。それでも、こういう風に利用するのはなんであろうか。


「ほれ、次行こうか」


 祖父は大きなシャケを買い、次へと進む。

 普段は無駄遣いを嫌う祖父だが、こういう縁起をかつぐものにはけちったりしない。お金は回すところで回してあげないと、懐には戻ってこないものらしい。


 由紀子はおとなしく祖父についていく。

 言いたいこともあるが、後日のために言わないでおく。


 お正月の収入を増やすにはスポンサーに媚び一つ売っとかないといけない。






「はい、頼まれていたものです」


 由紀子は山田姉に正月飾りを渡す。おもしろいことに、こんな素敵な洋館にもしめ縄や鏡餅を飾る気らしい。


「ありがとう、中々忙しくて行けないのよ」


 山田姉はおしゃれなブラウスにタイトなロングスカートをはいていた。いつもながら大人の女性という雰囲気である。


「大変ですね」


 山田家の庭を見ると、奇妙なものが建っている。

 小さなお社と鳥居だ。

 即席で作られたとは思えないほどよくできたお社だが、周りが山田家の庭のため、和洋折衷すぎてなんだかおかしい。


 山田大明神の正月限定神社である。


「毎年大変ですね」


 去年も一昨年もこうしていた。

 きっと引っ越す前も同じようにしていたのだろう。


「まあね。以前はちゃんとしたお社あったんだけど」


 毎年、そこに山田父を連れて行くのが面倒になったらしいのでやめたという。今の山田家の場所からだと、飛行機の距離にあるらしい。


(毎回、セスナが落ちることを考えれば、こっちのほうが安いだろうな)


 いっそ日高家の敷地を貸してあげたほうがいいんじゃないかな、と由紀子は思う。ちょうどご神木にぴったりのイチョウの木もあることだし。


(貸し賃、安くしとくんだけどな)


 まあ、由紀子が決めることではないが。

 

 お稲荷さんの石像が二つあったりすると風流だろうな、と考えてしまう。もっともご神体は山田父であるので、キツネは関係ないのだけれど。


 山田姉はさすがに忙しいらしくいつものようにお茶に誘うことはなかった。


 由紀子もさっさと帰り、年越しそばの準備をしてだらだらテレビを見る準備をしないといけない。


 大晦日は、だらだらこたつにはいってテレビを見ながらそばを食べてミカンを食べるのが正しい過ごし方だと思う。


(ミカン足りるかな?)


 由紀子はさっきの買い出しでミカン箱を五箱、二十五キロぶん買ってきたが、正月の間持つ自信はない。


(もう三箱、買ってくればよかった)


 そんなことを考えながら家路につくのだった。






 由紀子がテレビの歌番組を見ながら十二杯目のおそばを食べ終えたころ、携帯電話にメールが入ってきた。


(誰かな?)


 普段なら、彩香からのメールが一番多いのだが、リッチな彼女の家は一昨日から海外にでかけている。今頃、常夏の島で日焼けしている頃だろう。


 かな美からだった。

 内容を見ると、お参りのお誘いだった。場所は由紀子の家からそれほど離れていない神社である。言うまでもなく山田大明神ではない。

 駅前で待ち合わせて、そこから歩いていくらしい。


 由紀子は行きたいような、行きたくないような気分だった。

 

 夜中にお出かけするのはわくわくするし、かな美以外にもクラスの子たちが来るらしい。でも、夜中のお出かけは中学生がするのもではないし、なにより人ごみがすごいと思う。


 由紀子が悩んでいると、母がのぞきこんできた。


「なんかあったの?」

「えーと、今から友だちと初詣に出かけちゃだめだよね?」


 まだ、大晦日の時間だが、到着するころには除夜の鐘が鳴っているだろう。


「ふーん、どこまで行くの? 混む道は通らないよ」

「……送ってくれるの?」


 内心駄目と言われた方が気が楽だったのだが、そういわれると行くことになる。


「どしたの?」

「うん、駅前までお願い」


 由紀子は食べ終えたそばの椀を流しに持っていくと、パジャマ姿から着替えることにした。


「せっかくだから着物でも着るかい?」


 祖母のお言葉であるが、ひとりだけ着物を着て浮いてしまうのも嫌なので丁重にお断りした。






「由紀子ちゃん、そのジャケット可愛いね」

「……うん、かな美ちゃん、振袖似合ってるね」


 由紀子の思惑と外れて女の子はみんな着物だった。ジーンズにダウンジャケットに帽子といったあくまでアクティブな服装の由紀子とは違う。


「女って面倒くさいよな。そんなの着てたら、たこ焼きも喰えないだろ?」

 

 男子も数人来ている。女子と合わせて十人位だろうか。

 いつもなら女の子の群れに混じる由紀子であるが、今日はどうにも近寄りがたくなんとなく男子の群れによりがちである。

 

「日高ー、山田は来てないのか?」


 織部がホットドッグをもしゃもしゃしながらやってきた。駅前にも露店が出ているらしく、まばらに赤と白のテントが見える。不思議である、普通に売っている店に言ったほうが絶対美味しいとはわかっているが、露店効果でとても美味しそうに見えてくるのだ。


(コンビニで買ったら半額なのに)


 ぐるぐると、由紀子のお腹が十二杯分のおそばを急速に消化し始める。店のお兄ちゃんが手招きするように団扇を振っている。


 由紀子は、そんなことを考えながら織部の質問に答える。


「来てないけど。呼んでなかったの?」


 由紀子が首を傾げると、


「だって、日高呼べば絶対来るだろ、あいつ」


(いや、住んでいる家違うし)


 誘ってない、と首を振ると、みんなが非難の目で由紀子を見る。


「かわいそうだよ、山田くん。絶対、来たがったよ」

「そうだな。あいつ、絶対いじけるよな」


 まるで由紀子が悪いようだ。


(そんなこと言われても)


 織部がなんだか暗い顔をする。


「あいつ、俺が日高と話した後よくジンギスカンの話振るんだけど。三学期からジンギスカンの話しかしなくなったら、日高のせいだからな」

「そんなことないよ。私もよく織部くん見て食べたくなるもん」

「……ひ、日高」


 由紀子は間違ったフォローを入れたらしく、じっとりとした目を織部から向けられる。


「由紀ちゃん。ジンギスカンはヒツジよ」


 かな美の言葉に織部はさらに目を険悪にする。


 由紀子は携帯電話を取りだし、


「じゃあ、今から呼ぶ?」


 と、言うと、皆は納得したようだったが、


「人ごみで責任とれないけど」


 と、付け加えると、黙り込んだ。

 人のごった返す場所で山田少年を呼ぶのは、どの程度危険な行為なのかは、皆わかっているだろう。


 しばしの沈黙のあと、かな美が言う。


「ねえ、山田くんもう寝ているんじゃないかしら?」

「そ、そうだな。あいつ、いつも寝てるもんな」

「うん、成長期の睡眠を邪魔しちゃいけないよね」


 各々、山田のためだという理由をつけて呼ばないことに決着した。


 暗黙の了解だ。


「じゃあ、行くか」


 とりあえず中学生の一団は神社へと向かうことにした。



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