表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の息子  作者: 日向夏
中学生編 前半
71/141

小話 育成

拍手で書いていた小話です。

とばしても本編には関係ありません。


「不死男はなにやってんだ、姉貴」


 首の裏をかきながら、恭太郎は姉のオリガに聞いた。

 庭を掘り返して泥だらけになっている不死男を指す。

 

 オリガは庭にいる不死男のほうを見る。


「ああ、あれね。不死男が嫌いな野菜食べないってお母様が愚痴ったら、お隣さんがくれたの」


 なるほど、だからあんなに土だらけになっているというわけか。

 植えているのは、たぶんピーマンあたりだろうか。


「お母様、食育って言葉好きだから」

「好きだよな、本当に」


 不死男は、父にも似ているが母にも似ている。オリガやアヒム、恭太郎があまり両親に似ていない分、一人だけそっくりなのだ。問題は、似ている部分がいいほうに働くか、であるが少なくとも父親から受け継がれた性質は、まったくもって迷惑なものだということだ。


「また、ろくでもないことにはなんねえのか?」

「大丈夫じゃない? たかだか、庭の一画畑にするくらいで」


 せいぜい、バラ園の景観が崩れるだけだ、と姉は返す。


 そんなもんかね、と恭太郎はあくびをした。


 恭太郎は冷蔵庫から牛乳を取り出すと、丸一本飲み干し、二度寝することにした。






「だいぶでかくなってきたな」


 恭太郎はテラスの椅子に座り、せっせとプランターに水と肥料を与える不死男を見る。虫がついたら丁寧に筆で払い、農薬のかわりに薄めた牛乳を振りかけている。

 最近、ようやく花が咲き実をつけ始めたのを数えては喜んでいる。


「別に、そんなことしなくても、普通に買ったほうが楽でいいだろ?」


 手間を考えるとずっと効率がいいのに、なんでまたこんな非効率なことをやっているのかわからない。


 不死男は、首を横に振る。


「恭太郎兄さんって風情がないよね」

「生意気なこというな、おまえ」


 恭太郎は不機嫌そうに不死男を見やる。


 不死男は、牛乳スプレーでアブラムシが落ちたのを確認すると、流し落とすように水を振りかける。


「だってそうでしょ。由紀ちゃんのお母さんが言ってたよ。お野菜にしろなんにしろ、その過程を知ることが大切なんだって。もしかしたら、悪い病気にかかっているかもしれないし、変な薬を使っていて大きくなったのかもしれない。悪い人は、成長促進剤を混ぜたりするし、遠いところから来たお野菜は、腐らないように薬漬けにする。どんなにきれいに陳列されていても、本当によいものなのかわかんないんだよ」

「……ああ」


 なんだか、野菜の話をしているはずが、恭太郎は違うものを想像してしまった。何を想像してしまったかといえば、まあそういうことである。生理食塩水は遺伝子情報とも成長環境とも関係ない、とだけ言っておく。


 小さいけれど少しずつ大きくなっていく実を数える不死男。


 なぜだかわからないが、恭太郎は言い知れぬ不安を持つのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ