小話 ツツジ
拍手で書いていた小話、以下略。
こちらのイラストをヒントに書かせていただきました。
http://urauradiary.sakura.ne.jp/diary/upfile/88-1.jpg
うらいまつさま、いつもありがとうございます。
「由紀ちゃん、何しているの?」
下校中、山田少年が由紀子をのぞいてくる。
由紀子の口には薄ピンクのラッパ型の花がくわえられていた。
由紀子は花を口からはなす。
「つい、懐かしくって。小学生のころ、よくやったなって」
山田も由紀子の真似をして、薄ピンク色の花をつまみ、口にくわえる。
「ちょっと甘い」
「でしょ」
由紀子はかがみこんで、くわえていた花を木の根元に捨てる。
小学校の頃の道草って妙に楽しかった気がする。
それは、思い出補正というものだろうか。
由紀子は、立ち上がる。
「じゃあ、帰ろ……、や、山田くん!」
山田少年の足元には、大量の花が落ちていた。花が山のように重なっていくとともに、木には彩りがなくなり、ただの葉っぱだけの地味なものにかわっていた。
(はやっ!)
なんというスピードだ。
なんとなく、春先によくある『チューリップ引き抜き事件』を思い出した。
このままほっておくと、街路樹の花がすべてなくなってしまう。
「山田くん。そろそろやめにしようね」
「えー」
山田はしぶしぶ、立ち上がる。
由紀子は、周りに誰もいないことを確認すると、山田のちぎった花を木の根元に隠した。
ちょっと木が貧相になってしまったけれど、山田少年の腕をつかみそのまま帰る。
「まだ、物足りないよ」
「おうちに帰って、飴玉でも舐めてね。ってか、おなか一杯になるわけないでしょ」
山田少年は名残惜しそうに、ツツジの花を見ていた。
『由紀子ちゃん。不死男来てない?』
山田姉からそんな電話がかかってきた。
家に帰ってから、日高家におつかいに行ったらしいのだが帰ってきていないらしい。
「うちにも来てませんけど」
道草は山田少年には珍しいことでもないが、でてから二時間もたっているらしい。
(しょうがないなあ)
由紀子は面倒そうに、サンダルを履くと玄関をでる。
(山田くんのいそうな場所は……)
由紀子は、ふと思い浮かんだ場所があった。
そこへと足をすすめる。
「やっぱり」
由紀子は、オレンジ色の大量の花びらの中で、ぴくぴくと痙攣する山田少年を見つけた。
由紀子はしゃがみこみ、落ちた花をつかむ。
ラッパ状のそれは、放課後、蜜を吸っていたツツジと色違いに見える。同じ系統の花だが、種類はレンゲツツジという。
由紀子の家では、果樹の受粉にミツバチを使っているが、春先のはちみつは採取しない。
なぜなら、春先にレンゲツツジは花を咲かせ、その蜜には毒性があるからである。この近辺は、比較的高地にあるため、レンゲツツジが多いのだ。
由紀子は、携帯を手にすると、山田姉に「見つけました」と報告した。