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不死王の息子  作者: 日向夏
中学生編 前半
31/141

小話 見合い

拍手で書いていた小話です。

見なくても、本編には支障ありません。

「見合いですか?」

「ああ、見合いだ」


 年上の姪っ子たる一姫の言葉に、アヒムは聞き返していた。


 そう、見合い。

 一姫は、見合い話を持ってきたのだ。


 見た目はまだ女子高生にしか見えないが、御年百六十歳、孫までいる身とあらばいろいろ世話焼きをしたがるものである。

 まったく困ったものだ。


「一体、どんなかたで」


 それを聞くと一姫はテーブルに見合い写真を置く。これまた、装丁に箔押しまでつけた立派なものだ。

 相手も本気らしい。


「向こうも、なかなか良いお相手が見つからないらしい。血統はいいんだが、それがまたネックになっているのだ」


 それはたしかに言えることだ。人外は基本、寿命が長く力が強いものほど生殖能力が低く、その数は少ない。


「それはそれは」


 アヒムは、テーブルの上の見合い写真を手に取り開く。眉がピクリと動く。


「これは……」

「なかなか愛らしいだろ。つぶらな目がいいと思わないか?」


 一姫の言葉にアヒムはうなづく。


「それから、これも」


 一姫はもう一枚、写真を渡す。


「ふむ。これなら」


 アヒムが写真を見ながら何か考えているようだ。


「これは僕よりも恭太郎に行ってもらったほうがいいかと」

「そうか。まあ、こちらとしてはどっちでもいいわ。じゃあ、後日連絡する」


 一姫はそう言い残すと、山田家から去って行った。



〇●〇



「見合いだあ?」

「そうだ、見合いだ」


 恭太郎は、アヒムの顔をじっと見る。この腹黒眼鏡は、誰よりも自分をいじめることに生きがいを感じているものだとわかっていた。

 どうしてもうがった見方しかできない。


「なんだ、その眼は」

「別に」


 先日、心優しすぎる兄と姉のはからいで、彼女と別れたばかりである。そんな男を信用できようか、いやできまい。


 大体、見合いといっても、相手は人外である。恭太郎は、年相応の女の子が好きなため、年齢不詳の人外はどうにも気が進まない。まあ、身体のごく一部が豊かであれば考えなくもないが。


 アヒムはそんな恭太郎の意思を読み取ったのか、写真を見せる。

 そこには。


「あ、兄貴」


 そこにはたわわなバストを持ったうら若き女性がいた。どこか、幼げな顔立ちに、アンバランスな胸。恭太郎のストライクだった。


「年齢は二十一歳。問題は何かあるか?」


 年齢も見た目通りだ。なんだ、この素敵すぎるお兄さまは。


「どうだ? 会ってみるか?」


 アヒムの言葉に、恭太郎はわかりきった返事をした。






 待ち合わせの場所は、大型ショッピングモールの一階だった。現代のお見合いにおいて、料亭で猪脅しの音を聞きながら、親戚のおばさんが「あとは若い人たちで」というのは、幻想に違いない。

 

 恭太郎はリードを持ち、その先には地獄の番犬であるポチがつながっている。そう、最近では、ペット好き同士での見合いも増えている。場所も、ドッグカフェだ。


 犬好きの優しい女性に違いない。


 待ち合わせ十分前、今日はオリガもアヒムも邪魔をしなかったので、実にスムーズな運びだった。普段なら、なぜか着替えがすべてケミカルウォッシュのジーンズとアニメプリントのシャツにかえられていたり、下着がとても勝負に使えないものに替えられていたり、財布の金がすべて子ども銀行発行にかわっていたりするのに。


 まあ、一姫からの紹介らしいので、それを泥を塗る真似はしないので当たり前だが。


 そわそわと浮足立つ気持ちを抑える。頭の中が、身体の一部分のズームでいっぱいになるのを、アイスコーヒーを口に含んで落ち着ける。


 そんなとき。


 写真で見た、幼さの残る顔立ちの女性が店の入り口から入ってきた。


 なんというか、写真以上だ。

 もう、可愛らしいし、胸もでかい、言うことな……。


 あれ、と恭太郎は首を傾げる。


 なぜだろう、歩いてくるときに聞こえる振動は。


 なぜだろう、彼女の周りだけどうにも遠近感が狂っている。


 そして。


「はじめまして。今日はよろしくお願いします」


 目の前に立った女性は、恭太郎が思うよりずっと大きな胸を持ち合わせていた。そう、とても大きい。それはいいのだが。


 同時にその他の部分も、全体的に大きかった。


 身長は恭太郎のゆうに七十センチ以上大きかった。


 そうだ、恭太郎は相手が人外であることはわかっていたが、何の種族か聞いていなかった。

 これはどう見ても、巨人である。


 ぽかん、と口を開けたまま、ふさがらない恭太郎をよそに、ポチはくんくんと見合い相手の匂いをかぐ。


「ふふふ、ちゃんとわかるんだね」


 女性は、彼女からしてみればとても小さなバスケットをテーブルの下に置き、蓋を開ける。

 そこには、つぶらな瞳をした可愛らしい三匹のチワワ、もとい地獄の番犬が入っていた。


「ポチちゃんだっけ? 今日は、うちのアントニオをよろしく頼むわね」


 ポチとアントニオ、二匹で六つの首はそれぞれ鼻先を相手にくっつけていた。アントニオは少し怖がっていたが、慣れるのも時間の問題である。


 そうだ、アヒムは言っていた。


 見合いだと言っていた。


 しかし、『誰の』とまで言わなかったのである。


 体格差のある二匹で六頭であるが、この見合い、上手くいくのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終わりかい‼️ww
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