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不死王の息子  作者: 日向夏
小学生編
23/141

23 フラグは無事回避しましたよとのこと

 チャーター機は無事着いた。

 ああ、無事着いたのだ。


 途中、山田父の喉にフォークが突き刺さったり、山田少年が梅干しの食べ過ぎによる塩分過多で死にかけたりしたが、基本無事である。由紀子ゆきこ祖母の梅干しは、昔ながらの製法で塩分量高めなので気をつけなくてはいけない。ただ、自分の分のみならず、由紀子の持ってきた分をすべて食べてしまったので、由紀子はその後、山田と口を利かずにいた。


 不思議と墜落はしなかった。


 まあ、それは山田兄弟(山田少年除く)と由紀子の努力の結果だろうが。


 しかしながら、山田一家、主に山田父と山田少年の元にはトラブルしか舞い込まない。着陸後、入国審査の際、山田父が捕まった。理由は、体内から金属反応がするとのこと。


(出国は大丈夫だったのに)


 調べてみると、胃の中からスプーンが見つかった。


「あら? そういえば、さっきあーんしてて、入っちゃったわね」

「もう、ママはうっかりさんなんだから」


 そう言って山田母のおでこをこつんと叩く山田父。

 由紀子は時折、山田父が菩薩か何かじゃないかと思ってしまう。


 空港内は、作りは日本のものとそんなに違いはない気がしたが、書いてある言語が全く読めず、周りには外国人ばかりいるので不思議な感じがした。由紀子はきょろきょろしたいのを必死にこらえて、山田一家についていく。


 山田一家は海外旅行に慣れているだけでなく、言語も読めるらしい。山田少年が、由紀子が見る看板の文字をいちいち通訳してくれたので、感心すると同時になんだか悔しかった。山田は天然だが、勉強はできるのだ。先日、通知表が配られた際、山田は体育以外全部二重丸だったのを覚えている。


 なんとなく頭がぼんやりするのは、ずっと飛行機に乗っていたからだけでなく、時差ボケというやつなのかもしれない。


「もうお父様のせいで、時間ぎりぎりになったわ」


 山田姉は、予約していたらしきリムジンに荷物を積み込ませながら言った。もちろん、積み込むのは恭太郎きょうたろうである。

 もう一人、手伝っているのは山田兄ではなく、先ほど、チャーター機に一緒に乗っていたたれ目の男だった。連れの女性にせっつかれてやらされているようで、不機嫌な顔をしていた。


「ああ、由紀ちゃん。ちょっと二人ほど追加になるけどいい?」


 山田姉が由紀子にたずねてくる。

 由紀子にそれを断る理由はない。むしろ、無関係なのは由紀子のほうだ。


「どういうかたですか?」


 由紀子がたずねると、山田姉はふと目をそらしなんだか具合悪そうに、


「ええっと、姪っ子とその孫なの。まあ、種族としては、不死者とは別になるんだけど」


(孫? 姪っ子ということは、男の人のほうが孫だよね)


「姪っ子、というと、あの茨木いばらきさんと言う人の娘さんですか?」


 由紀子は、先日のやり取りを思い出す。なんとなく、山田兄や恭太郎の子ではない気がして、もう一人いるであろう山田家の兄弟を思い浮かべる。


「あっ、ええっと。それは違うかな。それは知っているのね?」

「おにいさんが、『元兄嫁』だと言っていたので」

「ああ、そう。そういう言い方もあったわね」


 なんだか、歯にものが挟まった言い方である。目線が泳ぎ、なぜか山田少年のほうをちらちらと見ている。山田少年は、例の追加の女性と話していた。

 由紀子の視線に気が付くと、


「由紀ちゃーん」


 と、手を振って呼んでいる。由紀子が近づくと、隣にいた女性が頭を下げる。


「二回目になるかな。先日は、丁寧に教えてくれてありがとう」


 見た目年齢とちぐはぐな声で話しかけてくる女性。孫持ちと聞いて、なんとなく理解できた。本当に人外の実年齢はわかりにくい。


「由紀子嬢でしたか。いつもフジオがお世話になっている。私は、一姫いちひめと言う。まあ、この年齢としで『姫』とは烏滸おこがましいがな」

「いえ、十分若々しいです」


 少なくとも、うちの祖母なら、ミニスカートに網タイツなんて恰好はできない。人を選ぶような恰好だが、一姫には良く似合っていた。パンクロリというのだろうか、それをギリギリ一般人の範疇でおさめたスタイルだった。


「そうだよ、女の子はいくつになってもお姫様だよ」


 天然少年は息を吐くように、甘い台詞を吐いている。なんとなく、山田父と親子だと感じさせる。


「おい、ババア。そろそろ出るぞ」

「口が悪いぞ、新之助しんのすけ。ババアは敬え」


(ババアはいいんだ)


 新之助と呼ばれた青年のもとに、一姫は向かいリムジンに乗り込む。リムジンは二台で、由紀子は山田少年に引っ張られ、もう一台のリムジンに乗る。


 内装の豪華さに感動したが、金勘定で換算するのは放棄した。


「口は悪いけど、いい子だよ。孫は初めて見たんだけどさ」


 山田少年は、にこにこしながら由紀子に話しかける。なんだか、年下の子のように一姫のことを言っている。


(叔父馬鹿ってやつかな?)


 由紀子は、「はいはい」と、適当に相槌を打ちながら備え付けのつまみに手を伸ばした。



 



 食事は居酒屋に似た店でとった。客は、みんなビールとソーセージとジャガイモ料理を食べているようだ。一皿を見ると、量が日本では考えられないくらい多い。


(お冷は出ないんだ)


 注文してからミネラルウォーターを出された。水も炭酸入りでびっくりした。由紀子は、山田少年や山田姉に通訳されながらメニューを頼む。まあ、どちらにしろこのメンバーでは、全メニューを一巡するのだろうが。


 由紀子以外にも、恭太郎と一姫、それから新之助も言葉がわからないらしい。由紀子は自分だけわからないのではないと気が付くとほっとする。


 好き嫌いのあまりない由紀子は、初めて食べる料理を気兼ねなく食べられたが、山田父は可哀そうにほとんどパンとキャベツの漬物のようなものばかり食べていた。ほとんどの料理にソーセージやベーコンがのっているためだ。地元では、野菜はあまり食べないらしく、キャベツかアスパラかジャガイモばかりだった。


 飼料にこだわる山田父は、旅先でも抜かりはないらしい。


 山田母とは、離れた席に座っているため、フォークが突き刺さることも、スプーンを飲み込む心配もないようだ。


 山田父は山田兄と姉に、山田少年は由紀子と恭太郎に挟まれて監視されながら食べている。


「お母さんつまらないわ」


 天然だが、単体で問題を起こすことのない山田母は、一人でもしゃもしゃとポテトグラタンの八杯目を食べていた。たしかに、焦げたチーズが美味しく、由紀子も三杯目を食べている。


 新之助は、不死者の食事風景を見るのが初めてだったらしく、ぽかんと口を開けている。

 隣の一姫は、山田一家ほどではないが、積み重なった皿の数を見る限り日本人平均の三倍は食べているだろう。ビールジョッキ片手に一息つくと、山田兄を介して、デザートを注文していた。


「私など小食に入るだろう?」


 由紀子の積み重なった皿をさして一姫が新之助に言った。

 由紀子は少し恥ずかしくなったが、機内食ではあまり満足できなかった分を取り戻すのに胃袋は正直だった。山田に頼み、ミートローフを五つ追加する。


 ちなみに、この時点ですでに山田家に対する遠慮は無くなっていたりする。

 チャーター機にリムジンの時点で、由紀子の持ち合わせでは足りないことくらいわかっているのだし。


「由紀子ちゃん、気に入った?」


 山田姉が聞いてくるので、


「はい、美味しいです。特に、ソーセージ最高です」

「それはよかったわ。でもね」


 その言葉は、あんまり使っちゃだめよ、と、ちょんと鼻先に指をのせられた。

 由紀子は首を傾げながら、ミネラルウォーターを口に含んだ。






 食事後、ホテルに泊まった。部屋は、一人部屋か二人部屋のどちらか選んでいいと言われたが、なんだか不安なので山田姉と同じ部屋にしてもらった。


 アットホームな雰囲気の室内は、家具が可愛らしく、目に優しい照明で照らされていた。寝室と居間部分に分かれており、二人部屋には十分な広さだった。なんだか海外のホームドラマで見た家にそのままお邪魔した雰囲気だった。


 なんだか今頃興奮して眼がさえてしまったが、


「明日はちょっと忙しいから、早めに寝ましょう」


 と、言われお風呂に入り、眠ることにした。






 山田姉の話だと、夜会は三日後ということらしい。二日かけての宴ということである。


「夜会服の合わせを終えたら、観光に行きましょ」

 

 とのこと。前もって、山田姉から準備するから気にしなくていいと言われていた。由紀子としても、夜会など一般的日本人ならそうそうあるような行事であるので、どんなものを着て行くのかわからないので助かった。

 

「それで、どちらがいい?」


 と、現れたのは山田姉だけでなく、山田母と山田兄だった。それぞれ、由紀子のサイズに合わせたであろうドレスを持っていた。


「由紀子ちゃんはやっぱりこういうのが似合うと思うの」


 と、山田母の持つのはフリル過多のファンシーなデザインだった。


「ちょっと子どもっぽいわ。由紀子ちゃん、落ち着いてるし、身長的にはこれくらいの方がいいんじゃないかしら?」


 と、山田姉がドレスをぐいっと出す。これまたフリルが多いが、色調は暗色である。まあゴシックと言えばわかるだろうか。


「どうですかね。装飾過多は下品ですよ」


 眼鏡をくいっと押し上げながら、山田兄が差し出すのはシンプルなデザインながら、細かいところに趣向が凝らされたワンピースだった。「流行りの服は(以下略)」と言ってもらいたかった。

 前にも思ったが、山田兄は趣味がいい。


『ねえ、どれがいい?』


 由紀子は、それぞれのドレスに追い詰められ部屋の隅に追いやられる。

 一見、由紀子のためにドレスを選んでくれたように見えるが、なんとなく違うことはわかった。


 それぞれ自分の趣味が絶対だ、というプライドがあるらしく、それを満たすためやっているらしい。


 いつのまにかギャラリーも増え、山田一家だけでなく、一姫も現れていた。


 一姫はなぜかむすっとした顔で、追いつめられる由紀子を見ると、部屋を速足で出てまた戻ってくる。

 戻ってきたその手には、パンキッシュなドレスを持っていた。


「こちらのほうが似合うのではないのか?」


 一姫のものだろうが、由紀子は同年代の平均身長よりも高いため、一姫とさほど大きさはかわらない。

さすが親類だ、行動がよく似ている。


 由紀子は恐ろしい四対の視線から目をそらし、助けを求めようとするが、いるのはのんびり天然父子と恭太郎である。恭太郎を見ると、「諦めろ」と首を振っていた。


(フリルは好きだけど、ロリータはさすがに)


 そうなると、選択肢は一つしかなく、由紀子は山田兄のドレスを指さした。


 勝ち誇った顔の山田兄と、残念そうな三人の女性陣。


 これで観光に行けると、息を吐くが、


「じゃあ、二日目のドレスを決めましょ」


 と、山田姉がまた違うドレスを取り出した。

 望むところだ、と残る三人も準備し始める。


 由紀子は、力なくソファに座った。


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