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不死王の息子  作者: 日向夏
その後の小話編
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無断借用

少しオチが弱いです。



「姉さん、僕のパソコンいじりましたか?」


 アヒムは、居間のソファでくつろいでいる姉にたずねた。オリガはバター茶を飲みながら、けだるそうに振り向く。


「知らないわよ。大体、あんた、勝手に使うなって、鍵かけてるでしょ」

「そうなんですけど」


 アヒムのパソコンはアヒム専用で、家族用は別に居間にあるものである。ニートの弟以外ほとんど触らないが、おかげで妙なウィルスにかかっていて大変使いにくい。時折、用事があるとき、姉はアヒムのパソコンを使いたがる。


 さすがに、オリガもアヒムに黙ってパソコンをいじることはないはずだが。


「どうかしたの?」

「いえ、なんだかメールを見ると、知らない閲覧履歴があって」


 アヒムはノートパソコンを持ってくると、メール画面を開く。使い慣れた通販サイトの画面を見せると、スクロールし一番下まで下げた。


 おすすめ商品一覧が並んでいる。


 オリガは目をこらして見る。


 大人用紙おむつ、パーティグッズ天狗、おすすめ古都の旅、子ども銀行券とある。

 オリガは呆れた顔でアヒムを見た。


「あんた、ほんとやることえげつないわね。おむつはないわ、おむつは……」

「言うことを聞かない恭太郎がいけないんです」


 アヒムは眼鏡をくいっとあげて断言した。そうだ、ニートのくせに一人前に彼女を作る恭太郎が悪い。兄として断罪してやるのが常識だ。


「そうでなくて、こちらですよ」


 アヒムは「古都の旅」を指さして見せる。


「へえ、旅行もあるんだ。知らなかったわ」

「最近では、旅行はネット予約が常識ですから。それより、僕はこれ、クリックした覚えないんですけど」


 この手の通販サイトは、おすすめを以前買ったものや過去の閲覧履歴から自動的に選び出すようになっている。アヒムは旅行関係のページを閲覧したことはなかった。


「ふーん。たまたまじゃない?」

「そんなことはないですよ。僕は見ていませんから」

「べつにそんなことくらいいいじゃない?」


 姉はどうでもいいといわんばかりに、テレビをつける。


「姉さんじゃないとしたら、やっぱり恭太郎ですかね?」

「そうじゃないの? また、新しい彼女できたのよ。よくやるわ」


 オリガはドラマの再放送をみつけると、クッションをかかえ鑑賞モードに入った。もうアヒムの話を聞く気はないらしい。


「とりあえず、パスワードだけ変えておくか」


 やれやれとアヒムはノートパソコンを部屋に持ち帰った。






 おかしなこともあるものだ、とアヒムは腕を組んで考え込んでいた。


「どうしたの、アヒム? 怖い顔よ」


 母がミンチを練ってハンバーグを作りながら言った。何の肉かは問わないでおこう。


「母さん、最近、恭太郎が僕の部屋に入るところを見たりしていませんか?」

「えっ、恭ちゃんねえ。よくわからないわ。ごめんなさい」


 と、挽肉を丸めたものをフライパンにのせる。本当に何の肉かは言及してはいけない。


 アヒムは顎を撫でる。パスワードを変えたというのに、また勝手に使われた形跡がある。今度は、購入履歴も残っている。クレジットカードは使わず、たまったポイントを利用して買い物をしたらしい。


 手口のせこさからして、やったのはやはり恭太郎だろうか。アヒムは現在、家にいない弟に静かな怒りを覚えて、とりあえず大人用紙おむつをぽちりしてやった。


 しかし、アヒムは考える。どうやってパスワードを知ったのだろうか。パスワードはメモにとっていない。


 別に、今使っているパソコンは完全な私物のものでビジネス用は別に持っているが、そんなにセキュリティが甘いようでは不安になるというものである。

 はっきりさせるためアヒムは弟が帰ってくるのを待つことにした。






 夜九時を回ったあたり、ようやく恭太郎が帰ってきた。金も仕事もないニートは、街をぶらぶらして時間を潰していたのだろう。


「恭太郎、話がある」

「ふへ?」


 神妙な顔つきのアヒムに、恭太郎は怪訝な顔をする。


「お前、勝手に僕のパソコンで買い物しただろう?」


 単刀直入なアヒムの言葉に、恭太郎はわざとらしく目をそらし、口笛をふいた。なんと古典的な誤魔化し方だろうか。


「し、知らないけど」

「嘘を言うな。おまえのせいで卑猥な販促メールが来て困っているんだぞ。おまえ、まさかついでに変なサイト閲覧してるんじゃないだろうな!」


 ぎりっと恭太郎を睨み付けると、恭太郎は観念したかのように床に正座すると、頭を下げた。


「すんません、出来心でした」


 謝罪の精神があるだけ、可愛いところがある。

 しかし、もう遅い。大人用紙おむつは発注済みであり、恭太郎の箪笥はつき次第、空にすることが決定している。武士の情けとして、以前買った天狗柄だけは残しておいてやろう。


「兄貴、全然ポイント使ってなかったし、俺が有効利用してやろうと思ったんです」

「そうか反省はしてないな」


 財布の中身は子ども銀行券にちゃんと変えておかなければならない。


「あらあら、恭ちゃんったら。お兄ちゃんに内緒でそんなことしちゃいけないでしょ。ちゃんと相談しなさい」


 母が言う。


「そうだ、相談しろ。話は聞いてやるから」


 聞いてあげるだけだが。


「恭太郎兄さん、そんなことしたら駄目だよ。アヒム兄さんはちゃんと必要なものは買ってくれるよ」


 デザートにマスカットを食べる不死男が言った。


 恭太郎は、「俺にはねーよ」と言わんばかりにひねくれた目線を何もない方向へと向ける。実に可愛くない弟だ。


 まあ、それより本題である。アヒムは買い物を勝手にしたことより、勝手にパソコンをいじられていたことのほうが気になっていた。


「おい、どうやってパソコンを起動させた?」

「はあ?」


 アヒムの問に恭太郎は疑問で答えた。


「なにいってんの?」

「なにいってんの、じゃない。パソコンを起動させるとき、パスワード入力があっただろ?」

「いや、知らねえし。開いたまんまだったし」


 恭太郎は正座したまま手振りを加えて言った。


「正直に言え。今更、弁明したところであまり罪の重さは変わらないぞ」


 恭太郎に向かってアヒムは言い放つ。


「そうねえ、素直に認めちゃいなさい」


 ソファでくつろいでレーズンバターを食べていたオリガも同意した。父はなにかの材料になったためか、疲れたらしくラグの上で横になっている。隣には、ポチとハチもつきそっていて、奇妙なパズルのピースのようになっていた。


「だから、俺じゃねえって。元々開いてたんだってば」

「はいはい。何事も素直さが必要よ。認めなさい」

「違うってば! 頭かてえな、姉ちゃん」


 恭太郎はそのあとオリガにいくつか噛みついたが、そのなかで姉の逆鱗に触れることを言ったらしく、チョークを食らってそのままアイアンメイデン室に連れて行かれた。新調したメイデンさんは、今もすこぶる活躍中である。


 なんだか、オリガが恭太郎を連れて行ってしまったので、アヒムはどうしようかと、パソコンを見る。

そろそろ買い替えでもしようか、と思っていたので頃合いなのかもしれない。


部屋に戻ろうとすると、不死男がなにかを思い出したかのように、洗い物をする母の元にいった。洗い物を手伝おうとしているらしい。見た目はもう十分大人になったが、やはり行動の端々に子どもっぽさが残る。


「なあに? 不死くん、お手伝いなんて珍しい。なにかあるの?」


 母がそう言うと、不死男はにこりと笑う。


「ねえ、母さん、卒業旅行いきたいんだけどさあ」

「あらあら、わかったわ。いくら欲しいの? お友だちは誰と行くの?」


 などと、不死男が母にねだっていた。


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