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不死王の息子  作者: 日向夏
その後の小話編

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ホワイトデーは三倍返し

残念な山田と呆れる織部くんしかでてきません

 織部は呆れていた。いつものごとく呆れていた。すこぶる通常運転中のクラスメイトに呆れていた。


 そのクラスメイトは真剣なまなざしで雑誌を見ていた。いや、それだけならごくごくありふれた高校生である。問題は雑誌の種類だった。通信販売雑誌、それも高級ランジェリーものだった。野郎が見る雑誌ではない。


「山田。俺、おまえの傍いたくねえわ」

 

 織部は弁当を片付けるとそそくさとその場をあとにしようとする。場所は中庭で、今のところ見られるほど人はいないが、こんなのを見ている山田と一緒にされたくない。

 しかし、織部の制服の裾はしっかりと山田につかまれている。


「ねえ、やっぱ白にレースが基本だよね。手触りを考えるとシルクかな?」

「同意を求めるな」

「赤とか黒も悪くないんだけど、がっつきすぎだしさ。紫なんてちょっとありえないんだよね。ああいう色ってホント紐みたいなのばっかだし、中には変なとこにファスナーあるし」

「人の話を聞け!」


 山田は『エロ』を通り越して、『グロ』の領域の写真を見せつける。織部とて健全な青少年だ、そのように見せつけられると目をそらそうとしてもやっぱりちらちら視線がいってしまうものである。むしろ、参考書を眺めるように平然と昼休みに見ている山田が変である。


 雑誌を見てみると、言語は日本語ではなかった。えぐい写真が多いと思ったら外国の通販雑誌である。円ではなくドルが並んでいた。


「おまえ、こんなのどっから手に入れてくるんだ? つーか、お前が見ても意味ないだろ」


 織部は山田がまったく制服の裾を離さないので、諦めてそっと芝生の上に座る。せめて、見つからないように通販雑誌が見えないように木の影に隠れるよう誘導する。本当に、山田の世話は大変だ。いつもの世話係は、大体こういうときにはいない。いや、いないときを狙って山田はこんなことをするのである。

 織部は教室に入って飲もうと思っていた豆乳にストローをさす。


「姉さんのお気に入りブランドだから。やっぱ趣味が違い過ぎるよね。由紀ちゃんのは別ので探そう」


 ブフォッと下品な音とともに、織部の呼吸器官が豆乳まみれになった。


「鼻から豆乳」

「だばれ!」


 織部はスポーツタオルで顔を拭きながら、山田を睨み付ける。突っ込まずにはいられない自分の性分がにくい。

 豆乳をふきとり、咳がとまったところで大きく息を吐き、山田に先ほどの言葉の意味を聞き返す。


「日高にやる気なのか?」

 

 と、いうか山田の姉貴はどんな下着の趣味をしているんだという疑問も浮かんでくる。見る限り、紐か紐か紐のデザインしかないのだが。


 山田の場合「やる」という単語を聞き違えそうだと思ったが、そうでもなくにっこりと頷く。


「だってホワイトデーだからね」


 ホワイトデーは三倍返し、そんな言葉は今更だろうと思うが、額だけを考えれば三倍以上のお値段になること間違いない。山田はたしか織部とさほどかわらない義理に毛が生えたチョコチップクッキーを貰っていた。ちなみに、織部は抹茶の小豆入りクッキーである。獣人タイプには気を使ってチョコは控えたためだ。


「普通にマシュマロとか、ケーキにしとけよ。じゃなきゃ、ケーキバイキングのチケットにしておけ、絶対喜ぶから」


 断じて、下着を贈るなどセクハラおやじめいたことはするな、と遠回しに釘を刺す織部。しかし、ぶれない男、山田は違う。


 真剣な顔をして織部を見る。


「もうすぐ高校三年生、十八といえば花盛りだよね」


 山田はほころび始めた梅の木を見た。三月、日差しが温かくなったなか、かすかな赤を含んだつぼみはあと数日で開花することだろう。


「そんな花盛りに、三枚千円のワゴンものはいかがなものか! 春一番だってそれを求めるはずはないというのに! せめて、上下くらいそろえてくれ!」

「な、何言ってる? 山田」


 と、いうか何で知っている、と織部は突っ込みたかったがそれ以上口に出せなかった。なんだか身近な人間のそういう話はなんとなくグロいのだ、わかるだろうか。


 山田は真摯な目を織部に向けてくる。織部はいまだかつてこんなまっすぐな目をした変態を見たことがない。


「やっぱ白だよね。レースで素材はシルク、キュプラでも可」

「もうお前の好きなのでいいよ」


 そっとつぶやくような山田に、織部は首を縦に振るしかなかった。もう、お前の勝ちでいいと思った。


「探すの付き合ってくれる?」


 もうどうにでもしてくれ、と織部はこくこくっと頷いた。


「じゃあ、今日の放課後にね」


 織部はだるそうに豆乳を飲み干した。






 放課後、山田は本当に織部を連れてランジェリーショップに向かい、なおかつクラスメイトのよりにもよってかな美と出くわすのはある意味必然だったかもしれない。


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