闇バイト 【月夜譚No.374】
これでは、子守も同然ではないか。
ソファに深く腰かけた青年は背凭れに頭を預けて、天井に溜め息を噴き上げた。お陰で煩わしさが視界から消えたが、燥ぐ高い声は否応なく耳に入り込んでくる。
(ここは保育施設じゃねぇぞ……)
頭をガリガリと掻いて首を起こすと、二人の幼子が自室を駆け回っている様子が目に入った。自身の意志に関係なく、再び息が喉から漏れる。
数日前、SNSで一通のDMを受け取った。内容は仕事の依頼で、詳しいことは書かれていなかったが、金欠である身の上には充分過ぎる報酬額に二つ返事で了承の意を返した。
そして今朝、マスクにサングラスという如何にも怪しげな男が子どもを二人、ここに置いていったのである。
最初から判ってはいたが、これは〝闇バイト〟というやつなのだろう。この子ども達の裏には一体、何が隠されているというのだろうか――と、妄想を始めると止まらなくなりそうな気がして、余計なことを考えるのは早々にやめた。
「「おなかすいたー」」
子ども達が声を揃えて青年の許に駆け寄る。それぞれ性別が違うが、顔立ちはそっくりだ。きっと双子なのだろう。
それにしても、知らない人間の家にいるというのに、二人は我が物顔だ。図太いというか、なんというか。
精神の隅の方に押しやっていた記憶の断片がふと二人の表情と重なって、青年は立ち上がる。
ポケットからスマートフォンを取り出すと、デリバリーで三人分の昼食を注文した。




